有効な治療法が確立されないまま感染が広がっている新型コロナウイルス。未知の疫病からわが身を守るために、いま注目したいのが身体の『免疫力』だ。そして免疫力を高めるためにいちばん手軽で、効果的なのが、“身体を温めること”と主張するのが、イシハラクリニック副院長の石原新菜先生。
「体温を1度上げれば、それだけで免疫力は30%も上昇するんです」
お腹が冷たい=全身が冷えている
免疫力とは、さまざまな病原体から身体を守ってくれる防御システムのようなもの。身体にウイルスが入ってくると、免疫細胞が攻撃を開始し、私たちを守ってくれる。では、なぜ体温と免疫力が関係するのだろうか?
「免疫力とは、主に白血球の働きのことを指します。白血球は血液によって全身に運ばれ、さまざまなウイルスと戦ってくれる心強い味方です。でも身体が冷えていれば血行不良となり、白血球もスムーズに働かなくなるのです」
身体が冷えていると、体温を逃すまいと、全身の血管が縮み、血流が悪くなる。血流が悪くなると、身体の隅々の細胞に、酸素や栄養素、白血球などが十分に運ばれなくなり、各細胞は栄養失調状態に。しっかり働いてほしい白血球も十分に供給されないので、免疫力が下がってしまうというわけだ。逆に体温が高ければ、血行がよくなり、すべての細胞に栄養が行き届き、白血球もしっかりと機能してくれるのだ。
自分の身体が冷えているかどうかを判断するのに、まずは自身のお腹を触ってみてほしい。手で触って冷たいと感じたら危険信号だ。
「お腹が冷たければ、全身が冷たい=冷えているサインと考えてください」
全身が冷えている状態は、免疫力が低いのはもちろん、どこかに病気が潜んでいる可能性があるといっても過言ではない。
「冷えていると、まず太りやすくなります」
体温が1度低下すると代謝は約12%低下するので、基礎代謝も低くなる。同じものを食べても燃えにくい身体なので、肥満をひき起こす。加えて糖や脂質が十分に燃焼されないことで、糖尿病や高脂血症などの代謝異常にもなりやすくなるという。
「また冷えて血行不良になることで、細胞の代謝が悪くなり、各臓器の働きも低下。これも基礎代謝が下がる原因になります。患者さんの中に、“私は暴飲暴食をしていないのになぜ糖尿病なの?”とか“なぜ中性脂肪が高いの?”と言う方がいますが、食事だけが原因ではなく、冷えによって糖や脂肪が燃焼されず、血液中に残ってしまうからなのです」
さらには、日本人の死因の第1位である『がん』も、冷えが要因となる。
「私たちの身体の中では、毎日5千個のがん細胞ができると言われています。平熱が低いと、がん細胞を退治するはずの白血球の働きが弱く、がん細胞が増殖しやすくなってしまうのです」
ほかにも、冷えていることで水分代謝が悪くなり、余分な水分が身体にたまり、さらに身体を冷やす……という悪循環に陥りがち。
「漢方でいう“水毒”という状態になり、肩こり、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸(どうき)、息切れ、不安、不眠など、いわゆる不定愁訴という症状となって表れます。自律神経失調症や更年期障害も水毒がもたらす症状です」
まさに“冷えは万病のもと”と言えるのである。
1年中“温め生活”を
現代病ともいえる『冷え』だが、本来は、しっかりと運動をしていれば避けられるのだという。
「体温の約4割は筋肉から作られます。筋肉を動かしていれば、熱が作られて冷えとは無縁の身体に。男性より女性に冷え性が多いのも、筋肉量の差からきています」
とはいえ、現代の便利な生活の中では、意識的に筋トレなどをしない限り、筋肉量を増やすのは困難。そこで石原先生がおすすめするのが“腹巻き”なのだ。
「腹巻きでとにかくお腹を温めてほしいです。お腹にはたくさんの臓器があり、血流も多い場所。血液は45秒で身体を1周するので、お腹を温めれば、血液が全身をスムーズに回り、徐々にぽかぽかしてきます。そして、体温が1度上がれば、代謝や免疫力もアップするからです」
腹巻きをすれば、最大の免疫器官である腸も効率的に温まるので、より免疫力が増し、病気の予防につながるのだ。
「腹巻きをして“便秘が治った”“膀胱炎にならなくなった”“尿の出がよくなった”“夜よく眠るようになった”などなど、いい報告をしてくださる患者さんがたくさんいます。未病のためにも、病気を改善するためにも、腹巻きは必須なんです」
腹巻きを推進する石原先生だが、自身も24時間、365日、なんと研修医時代から今日まで約14年間も腹巻きをし続けているそう。
「真夏でも腹巻きをしています。夏は冷房や、身体を冷やす食材などで冷えを起こしやすい状態。腹巻きの素材を選べば、夏でも不快感なく着用できるはずです」
先生がおすすめするのが、シルクの腹巻き。天然素材で肌にやさしく、汗をかいてもすぐに乾くのだそう。綿の腹巻きも吸湿性、保温性に優れているので愛用しているという。肌が過敏でないなら、ウールや化繊ももちろんOK。
「昔は腹巻きというとババくさいものが多かったのですが、今はおしゃれなデザインがいろいろありますね。夏用、冬用、昼間用、夜用など生活に合ったものをそろえて、1年中“温め生活”を続ければ、不調も寄せつけません。また真夏は実践しにくいかもしれませんが、具体的な症状があるなら、カイロを貼ってさらに集中的に温めるのもいいと思います」
カイロを貼る際には、症状別に貼る場所を変えるとより効果的だ。例えば、生理不順や不妊症なら下腹部に、腰痛があるなら腰に、胃痛や胸焼けがあるなら、みぞおちの下からおへその上あたりに……という具合だ。
「また余分な水分の摂取を控えたり、ストレスを軽くするのも、体温アップに効果的です。お風呂もシャワーですまさずにしっかり入浴を」
身体の冷えをとことん追い出し、目指せ体温+1度!
【選ぶときのPOINT】
1.日中は薄手で、締めつけない程度にフィット感があるもの
2.寝るときは、ゆったりとして厚手のもの
3.夏は吸湿性に優れたシルクや綿素材、冬はウールや化繊も
【プロフィール】
石原新菜先生 ◎イシハラクリニック副院長。漢方医学、自然療法、食事療法により、種々の病気の治療にあたっている。わかりやすい医学解説と、親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオと幅広く活躍中。著書多数。