行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は“コロナ離婚”を決意した妻の事例を紹介します。(前編)

※写真はイメージ

コロナで配偶者の「本当の姿」が丸出しになる

 日本でも猛威を振るう新型コロナウイルス。4月7日に政府から7都府県に出された緊急事態宣言は翌週(16日)には全国へ拡大した後、5月14日に39県の解除が発表されましたが、東京・大阪などの一部の特定警戒都道府県は5月31日までの延長が決まっています。

 物資の不足、外出の自粛、休校など不自由な生活を強いられることで、家族の形も変わらざるをえない状況です。例えば、自粛要請に伴う在宅勤務、職場休業による収入減、帰国者隔離で一家離散、休校中の育児で職場復帰を断念など、金銭的、体力的、精神的に疲弊する家族を筆者は数多く目の当りにしてきました。

 ウイルス封じ込めにより発生した格差……具体的には休校の有無による学生の学力格差、自粛対象の有無による業種間の経済格差、マスク調達の有無で生じる感染リスク格差などが原因となって、壊れていく家族からの相談が絶えません。

 実際のところ、危機的な状況に陥ると人間の本性が丸出しになるものです。例えば、物資の買占め、自粛の無視、感染予防の非協力などによって配偶者の「本当の姿」が明らかになったとき、別れを決断することを「コロナ離婚」と呼びますが、今回の相談者・馬場萌子さんも離婚を決めた1人です。

<登場人物、属性(すべて仮名)>
妻・馬場萌子(42歳)医療事務 ☆相談者
夫・馬場 武(46歳)住宅販売営業

「このままじゃ主人に殺されそうです! (定額給付金の)10万円もパチンコに使われそうだし……コロナが落ち着いたら家を出ようって思っています!」

 萌子さんが青ざめた表情で事務所へ相談にやってきたのは4月中旬。

 筆者には高齢の両親がいるため、筆者が感染源となり、両親へうつした場合、取り返しのつかないことになりかねません。そのため、萌子さんには事務所へ入る前に両手のアルコール消毒、マスクの着用をお願いしましたが、嫌な顔をせずに協力してくれました。

 後でわかったことですが、萌子さんの夫は感染リスク対策に取り組んでくれず、萌子さんは不満を募らせていたようです。通常、相談スペースの机を横に使い、筆者と相談者は30cmの距離でやり取りをします。しかし、今回は机を縦に使い、1m30cmの距離を置くことにしたのですが、萌子さんの職業は感染リスクの高い医療事務ということでやむを得ませんでした。

「夫に殺される」なんてただ事ではありませんが、話を聞くと直接的ではなく間接的に殺されるという意味でした。結婚9年目で子どもはいない萌子さん夫婦に、何があったのでしょうか?

禁煙をめぐって夫婦の溝が明らかに

 新型コロナウイルスの感染者のうち、喫煙者は重症化リスクが高いというニュースを萌子さんがネットで見たのは4月上旬。奇しくも喫煙者だった志村けんさん逝去の報が駆け巡ったのと同時期なのでショックを受けた人も多いでしょうが、萌子さんも例外ではありませんでした。夫は1日に2~3箱も消費するヘビースモーカー。

「いつどこで感染するかわからないし、あなただって私に何かあったら困るでしょ? タバコをやめてください」

 萌子さんは一つ屋根の下で副流煙を吸わされることに恐怖を感じ、そう頼んだのです。夫は「ああ、わかったよ。こんなご時世だからな」と二つ返事で承諾してくれたのですが……。

 それから3日後。萌子さんが帰宅すると部屋中にタバコの煙が充満していたそう。萌子さんは「禁煙するって約束だったでしょ!」と詰め寄ったのですが、夫は「お前の前で吸わなきゃいいんだろ!? 俺は(コロナウイルスが)うつらないから関係ない!」と反論。感染して重症化する危険より喫煙による快楽を取るような相手に、何を話しても無駄……と萌子さんは夫を再度、説得するのをあきらめ、3台の空気清浄機を購入し、各部屋に設置したのです。結婚9年目で、コロナウイルスへの対応をめぐって夫婦間の溝が明るみに出た格好です。

 長年、萌子さんは副流煙を吸わされ続けたので、今さら夫に禁煙をさせても大差ないのではとも思われますが、萌子さんはネット上で気持ち悪くなるほど大量のコロナニュースを浴びたせいで精神的に追い込まれていました。何かしなければ落ち着かないという気持ちもわかります。

共働きなのに家事はすべて妻の担当

 夫の気晴らしはタバコだけでなく、パチンコ、キャバクラ、そしてゴルフ。しかもキャバクラ嬢の整形前と後の写真を自慢げに見せびらかすような悪趣味の持ち主。典型的なダメ亭主で好き勝手にやってきたそうです。それでも萌子さんが夫を大目に見ていたのは、自分の小遣いで遊んでいたからです。萌子さんの貯金を使い込んだり、カードローンに足を突っ込んだり、親戚からお金を借りたりするような破滅的な遊び方をしているわけではないので、萌子さんも今すぐ大事になるわけではないと考えていたようです。

 萌子さん夫婦は、それまでどのような結婚生活だったのでしょうか?

「主人はいつも非協力的でした。週末はともかく、平日は家にいるんだから家事をやってほしいですよ。くたくたで帰ってきたのに、汚い食器が山積みになっているのを見ると、うんざりします!」

 萌子さんは内科クリニックで働く医療事務で土日休み。一方の夫は住宅販売の営業で平日休みですが、接待のはしごで帰宅が深夜になることも。結婚当初、萌子さんは温かい食事と風呂を用意するため、どんなに遅くとも起きていたのですが、夫の反応は感謝ではなく激怒。「余計なお世話だ。お前が待っていると思うと仕事に集中できないじゃないか!」と吐き捨てたそうです。それでも萌子さんはテレビゲームに興じる夫を横目に2人分の食事を作り、洗濯や掃除をこなすなど懸命に尽くしてきたのです。たとえ風邪を引いても、萌子さんは文句の一つも言わずに全ての家事を担っていました。

 しかし、夫の自己中心的な性格はそれ以降も変わらず。萌子さんに向かって「俺は頼んだ覚えはない。家のことはお前が勝手にやってるんだろ!」と逆上。さらに「お前の気が強すぎるから、今まで何もできなかったんだ!」と攻撃するありさま。まるで家事を手伝わないのは萌子さんのせいだと言わんばかり。次第に夫婦関係は冷えていったのですが、そんな矢先に起こったのが新型コロナウイルスの問題でした。

一日中家にいるのに家事を全く手伝わない夫

 萌子さんの勤務先は感染者の受け入れ先ではなかったものの、味覚や嗅覚、海外渡航歴、発熱の有無などのチェックリストを作成し、来訪者全員に記入してもらい、保管しなければならず、毎朝、自分の体温を測ったり、勤務中も1時間おきに両手を消毒したり。感染が疑われる同僚はいなかったものの、不特定多数の来訪者と接しているので、いつ何があってもおかしくないストレスフルな環境で、日ごろより増えた仕事をこなしていくのは心身ともに疲弊したそうです。

 一方の夫はどうでしょうか? 感染リスクを覚悟の上で物色するほどではないマイホーム購入は、不要不急でしょう。そのため、2月中旬には夫の勤務先(住宅販売の店舗)は休業を決め、テレワークへ移行。電車で事務所へ出勤せず、最低限の仕事を自宅のパソコンで行うだけ。コロナで負担が増加した萌子さんと、負担が軽減された夫。

「結婚する前は優しかったんです。コロナで大変なんだから、少しは心配してくれるかと……」と萌子さんは淡い期待を抱いていたのですが、自宅待機状態の夫は終日、体力や時間、やる気を持て余しているのに相変わらず家事はいっさい手伝ってくれません。

「みんな大変なのに、なんであんただけこうなの! って思います」と萌子さんは訴えます。筆者は「旦那さんはまだ状況を甘く見ているのでは? 過去に災害が起こったとき、心を入れ替えて、やり直した夫婦もいますよ」と萌子さんを諭したのですが、話を聞くと、さらに夫の無神経な言動が萌子さんに追い打ちをかけていたのでした。

 夫から発せられたのは萌子さんへの感謝ではなく、金銭の心配だったのです。

(後編へ続く)

※後編は5月18日20時30分に公開します。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/