人気沸騰の連載漫画『鬼滅の刃』が5月18日発売号の205話で最終回を迎えた。そこで残された謎について徹底追求。
※ネタバレを含むのでアニメ視聴派の人は要注意です!
「人気漫画はできるだけ長く続けたいもの。いわゆる引き延ばしなしに終了したことで、さらに高い評価を得ています」(漫画雑誌編集者)
いつまでたっても戦いが終わらない作品が少なくない中、人気絶頂で連載を終了させた『鬼滅の刃』。作者・吾峠呼世晴の初連載作品で、'16年から『週刊少年ジャンプ』で連載を開始した。舞台は大正時代の人食い鬼たちがすむ世界。主人公の炭焼きの少年・竈門炭治郎は、人食い鬼に家族を惨殺され唯一、生き残った妹の禰豆子も鬼に変えられる。その妹を救うべく、鬼と戦う物語だ。
昨春にアニメ化されると人気に火がつき、単行本の累計発行部数は電子版を含むと6千万部超に。関連グッズは発売と同時にソールドアウトで、ネット上で高値で取引されるなど、その人気は子どもだけではなく親や大人のファンも巻き込み、幅広く社会現象を巻き起こしている。
最終回では舞台が突然、現代にうつり、炭治郎ら登場人物の子孫や生まれ変わりが登場するという驚きの展開に。
「SNSなどでは最終回を迎えても未回収の伏線について考察しているサイトもありますが、よく読めば伏線はすべて回収されています」
と、『鬼滅の刃』を読み込んだというジャーナリストの渋井哲也さん。『鬼滅の刃』を読み解くうえで重要ないくつかの「謎」に迫る!
竈門家が襲われた謎
物語は鬼の始祖であり支配者である鬼舞辻無惨が、竈門家の家族を惨殺し、自分の血を与えて禰豆子を鬼にするところから始まるが、なぜ無惨は、わざわざ山奥にある竈門家を襲ったのだろうか。
『マンガ新聞』編集者の西野由季子さんが解説する。
「『鬼滅の刃』最大の謎と言えます。竃門家は、無惨が畏怖する“日の呼吸”伝承の家系ですが、竃門家を襲った時点で無惨はそのことを知りません。仮に何かしらの目的で竃門家を狙ったとしても、不在の炭治郎を見逃すはずはないでしょう。あえて無惨が竃門家を襲撃した意味を読み解くとすれば、“不条理”の極みとして意図されているのかも。『鬼滅の刃』は、不条理とそれを克服していく物語です。ラスボスの無惨の存在を冒頭から明らかにしている構成からも、竃門家襲撃が最大の不条理として設定されているのかもしれません」
前出の渋井さんも、
「偶然なのでしょう。偶然なんだけど、記憶の伝承というのは鬼側にもあって、日の光を浴びても大丈夫な身体になりたいという無惨の願望が、竈門家に足を運ばせたのではないでしょうか」
と分析。1話目から衝撃の展開だったが、読者人気は高く第7話ではセンターカラー扱いに。そこから鬼滅の快進撃が始まっていった。
禰豆子が太陽を克服できた謎
最強のラスボス・鬼舞辻無惨も克服できなかった太陽。しかし、なぜか禰豆子は日の光を浴びても死ななかった。
「禰豆子は鬼化したときから特殊です。人間のときの自我がわずかに残り、どんなに飢餓感があっても人間を食すことをセーブできています。食べるかわりに睡眠を取ることで肉体を維持できるのも、禰豆子だけの特徴。禰豆子の血液は絶えず変化していて、それを調べた、鬼の医者・珠世は、禰豆子が陽光を克服する可能性に気づいています。なぜ禰豆子だけが特別な鬼になったかというと、“日の呼吸”を受け継ぐ竃門家の人間であるということが重要な意味を持っているのではないでしょうか」(西野さん、以下同)
最初の鬼の謎
最初の鬼と言われている鬼舞辻無惨だが、では、どうやって無惨は鬼になったのか。
「ポイントは千年前の人間時代の無惨が、病弱で医者の治療を受けていたということです。医者は“青い彼岸花”という名前の薬を用いました。薬は即効性がなく、回復できない無惨は怒って医者を殺害します。殺害のあとで体質が変化して不死身になるものの、太陽光を浴びると朽ち果てるという弱点が残ります。
つまり薬が原因で鬼化しました。そして太陽を克服するために無惨は、さらに“青い彼岸花”の薬を求めますが調合方法は不明のまま。無惨はその名前から、材料に“青い彼岸花”が使われているはずだと考え、以後、探し求めることになりました」
最終回で、伊之助の子孫と思われる青葉という科学者が、貴重な“青い彼岸花”を実験で枯らせてしまう描写があることから、「鬼はもうこの世に生まれない」ということが暗示されている。
柱の生死の謎
途中で引退した音柱の宇髄天元を除いて、最後の鬼舞辻戦を終えて生き残った柱は、水柱・冨岡義勇と風柱・不死川実弥の2人だけ。最強の柱は岩柱の悲鳴嶼行冥だが、この2人が生き残ったのはなぜなのだろうか。
「生き残った柱のことよりも、なぜほかの柱が死んだのかというほうが重要です。
炎柱・煉獄杏寿郎は、柱でも1人では上弦の鬼には敵わないことを伝えるため早々と倒れたといえます。霞柱・時透無一郎は若年ゆえ、経験のなさから敗北。蟲柱・胡蝶しのぶはもともと自分の死を組み込んだ戦略を立てています。
岩柱・悲鳴嶼は、短命のしるしである痣の出現を得たため、治療薬を拒否して若い隊士に譲ります。もし注射をしていたらあの場で死ぬことはなかったかもしれません。
蛇柱・伊黒小芭内と恋柱・甘露寺蜜璃はお互いに“生まれ変わったら添い遂げたい”という愛情がありました。最終回の伏線となるためにも、2人とも倒れる運命が設定されていたと見立てることができます」
冨岡義勇については、前出の渋井さんは、「作中で“強い者は警戒されるが弱い者は警戒されない”という台詞が何度か出てきます。彼が生き残ったのは、最強ではなかったからこそ、といえるのでは」と見立てる。
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最後に、『鬼滅の刃』がここまでヒットした理由を渋井さんは、こう分析する。
「炭治郎はこれまでの少年漫画のどの主人公よりも優しく、鬼側にも感情移入していきます。鬼を単なる悪役とするのではなく、悪者もそこに至るまでに悲しみを背負っていることを全編を通して説いています。勧善懲悪の少年漫画にあって今の時代にとても合っていると感じますね」
10月には映画化も控えている。『鬼滅の刃』の快進撃は今後も続きそうだ。