『M愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)で姫野礼香を演じた田中みな実  (C)テレビ朝日/AbemaTV,Inc.

 ドラマを面白く際立たせるのは、ひとクセもふたクセもある“悪女”の存在。主人公やヒロインを邪魔する悪役でありながら、どこか嫌いになれず彼女たちに夢中になってしまうのは一体なぜ? 今期ドラマの“大クセ”悪女から過去のレジェンドたちまで、その魅力を徹底解剖!

「見える、見えるよぉ……。マサの未来が、未来が見える……」
 
 今期ドラマでも大きな注目を集めているのが、『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)の田中みな実演じる姫野礼香。放送開始直後、その狂気じみた言動に恐怖を感じつつも“なぜかクセになる!”と夢中になってしまう人が続出中だ。
 
 ほかにも、今期のドラマにはひとクセもふたクセもある悪女たちが。『美食探偵 明智五郎』(日テレ系)の殺人鬼・マリアや、『ギルティ この恋は罪ですか?』(日本テレビ系)の及川瑠衣。悪い女たちに思わず虜(とりこ)になってしまうのは一体なぜなのか? 悪女は大好物! というコラムニストのペリー荻野さんはこう話す。

「ルパン三世の“峰不二子”を思い出してもらえればわかると思うんですが、悪女のお決まりはみんな美人だということ。優雅で浮世離れしていて、近寄りがたさがあるんです。悪いことをしていても憎み切れず、ウインクでもされたらクラっときて許せてしまうような、“魔性”感があります

悪女は究極にドラマチックな存在 

 また、ドラマの推進力の役割も果たしている。

「『M』の田中さんや『サイレーン』(フジテレビ系)の菜々緒さんのように、“ちょっとやりすぎなんじゃない?”というくらいじゃないと、ドラマの悪女はウケない。生半可な意地悪や嫉妬ではなく、野心やエゴむき出しで、現実世界ではありえないような言動を起こしてくれるからこそ、物語が大きく動くんです。ヒロインは基本的に受け身ですが、悪女には“次は何をしてくれるんだろう?”という期待もある。彼女たちの存在は、ドラマにおいて究極にドラマチックな存在だといえますね
 
 美しさの裏に秘めた“悲しみ”が私たちの好奇心をあおり、ドラマに深みを与えるのだ。

「『美しい隣人』(フジテレビ系)の仲間由紀恵さんのように、悪女の中には過去に経験した悲しみを引きずっているパターンも多い。ドラマにおいて“この人はこんなにきれいなのに、どうしてそこまで他人を憎むんだろう”というような、謎解きする楽しさも与えてくれるんです」
 
 また、悪女を演じる女優たちにとっても、大きく飛躍する機会になるというメリットがある。

「悪女役は女優を脱皮させると思っています。悪女をきっかけに大きく飛躍した女優さんは米倉涼子さんをはじめたくさんいますし、『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)の水野美紀さんは、いまや怪演女優として大活躍していますよね。

 悪女を演じた女優さんには人間としての深みや二面性を感じることができるし、女優として“力”がないと演じることができない。今まで清純派だった女優さんが悪女を演じるにあたり注目が集まるのは、そういう二面性を見る機会に立ち会える楽しみもあると思います。美人な女優さんは、悪女役を一度はやるべきだと思いますね
 
 フィクションだからこそできる、吹っ切れた言動の数々。よくも悪くも欲望に忠実な彼女たちに、私たちは憧れさえ持ってしまうのかもしれない。

「実際に現実世界にいたら、きっとみなさんかかわりたくないと思うんです(笑)。恐ろしいし、野心むき出しでとても厄介な存在だけど、第三者として傍から見るぶんには最高に面白い。悪女はまさに“ドラマの世界”だからこそ惹かれる存在なんだと思います」

「許さな───い」
『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)/姫野礼香('20年)
田中みな実

『M愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)で姫野礼香を演じた田中みな実 (C)テレビ朝日/AbemaTV,Inc.

 名プロデューサーのマサ(三浦翔平)に思いを寄せている、彼の秘書。愛するマサがアユ(安斉かれん)に肩入れするのが許せず、激しく嫉妬。狂気すら感じる姑息な手段でアユへの嫌がらせを繰り返す。
 眼帯をはずしながらマサに迫ったり、放送が待たれる第4話の予告では、ウエディングドレス姿でマサを待ち構える姿が「ホラーすぎる」と早くも話題。

「見てたよぉ~!」
『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)/森山蘭('17年)
水野美紀

水野美紀 撮影/本誌写真班

 森山信(大谷亮平)の妻。幼なじみで大学の仲間であった信が、通り魔にナイフで襲われそうになったのをかばい右足に重傷を負う。数年ぶりに信と再会した元カノ・光(倉科カナ)に激しい嫉妬心を抱き……。
 この役を機に怪演が絶賛され、女優としての幅が大きく広がった水野。放送中の『M』でもスパルタ鬼講師を怪演中!

「ヒロシ…」
『スチュワーデス物語』(TBS系)/新藤真理子('83年)
片平なぎさ

片平なぎさ 撮影/本誌写真班

 村沢浩(風間杜夫)の恋人で、ピアニスト志望だったが、19歳のときに行ったスキーで浩と衝突し、そのケガで両手が義手になってしまう。以来、浩に生涯の責任を強要したり、千秋(堀ちえみ)への嫉妬に狂って嫌がらせを繰り返す。
 手袋を口にくわえてはずしながら義手を見せるポーズが話題になり、当時まねをする人が続出した。

「役立たずのブタ!」
『牡丹と薔薇』(フジテレビ系)/野島香世('04年)
小沢真珠
 

小沢真珠 撮影/本誌写真班

 野島家の次女でぼたん(大河内奈々子)の妹だが、姉妹という事実を知らない2人。以前は親友だったものの、とある理由で絶交。数年後、ぼたんは野島家に家政婦として働くこととなり、香世はぼたんに数々の嫌がらせを行う。
 「パパ嫌、パパイヤよ!」などの濃いセリフや“財布ステーキ”など、予想の斜め上をいく展開でボタバラ旋風を巻き起こした。

「身体のどこを切っても幸せの蜜があふれてきそう」
『美しい隣人』(フジテレビ系)/筧沙希('11年)
仲間由紀恵
 

仲間由紀恵 撮影/本誌写真班

 平凡でも幸せな主婦、絵里子(檀れい)の家の隣に引っ越してきた謎の美女。明るく気さくに絵里子に接するが、実は心に闇を抱えており、ある意図から次々と絵里子の人間関係を壊していく。
 ジワジワと絵里子を追い詰める仲間の演技は、その美しさも相まってゾッとするような冷たさが。

「つかんだものは、2度と離さない」
『黒革の手帖』(テレビ朝日系)/原口元子('04年)
米倉涼子

米倉涼子 撮影/本誌写真班

 もとは冴えない銀行員だったが、その立場を利用して1億2千万円を横領し、銀座の高級クラブのママに転身。銀行の借名口座を記した“黒革の手帖”と美貌を武器に、夜の世界でのしあがってゆく。
 米倉はこの役を機に、女優として脱皮。その後も『けものみち』『わるいやつら』などで名だたる悪女に扮した。

「私の計画に変更はないから
『サイレーン』(フジテレビ系)/橘カラ('15年)
菜々緒

菜々緒 撮影/本誌写真班

 猪熊夕貴(木村文乃)と里見偲(松坂桃李)、恋人同士の刑事2人が変死体発見現場で出会った美女。夕貴に興味を持ち、事件を通じて彼女との面識を持つようになると、偲に敵対心を抱いて陥れるような行動をとる。
 今や“悪女がいちばんハマる女優”となった彼女だが、今作では本格的なアクションにも挑戦。素顔は悪女どころかかなりの努力家!?

「人生は行動なの」
『真昼の悪魔』(フジテレビ系)/大河内葉子('17年)
田中麗奈

田中麗奈 撮影/本誌写真班

 優秀な美人外科医。社交的で明るく、患者への接し方も親切で評判もいい。しかし幼いころからあらゆる出来事に対して心が動かず、無感動かつ無道徳な裏の面を持つ。
 田中の“サイコパス感”が話題となり、「悪女というより悪魔」という感想の声も多かった。

「やっと出会えた、運命の人……」
『リカ』(フジテレビ系)/雨宮リカ('19年)
高岡早紀

高岡早紀 撮影/本誌写真班

「女は28歳までに結婚し、家庭に入るのがいちばん幸せ」と信じ“永遠の28歳”を語る不気味な女性。運命や純愛を求め、貫くがゆえに狂気のサイコキラーと化してしまう。 
 男性が乗ったタクシーをリカが走って追いかけるシーンは「ターミネーター」と言われるなど、悪女のなかでもかなりぶっ飛んだ役柄。不気味な雰囲気で演じきった高岡はさすが!

「欲しいものは欲しい。ただそれだけ」
『ギルティ この恋は罪ですか?』(日本テレビ系)/及川瑠衣('20年)
中村ゆりか

中村ゆりか 撮影/本誌写真班

 爽(新川優愛)の年下の友人で、人懐っこい妹キャラ。よき相談相手であったが、実は爽の夫(小池徹平)の不倫相手。二面性を使い分け、爽の周囲の人間関係を壊していく。
 演じているのは、NHK朝ドラ『まれ』にも出演していた中村。悪女役は初めての挑戦!

「女を傷つけるバカな男は
…殺してしまえばいい

美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)
マグダラのマリア('20年)
小池栄子

小池栄子 撮影/本誌写真班

 もとは平凡な専業主婦。明智五郎(中村倫也)に夫の浮気調査を依頼したところ、その出会いがきっかけで“本当の自分”に気づかされ、殺人鬼へと変貌。次々と殺人を演出していく。
 普通の人妻から猟奇的な殺人鬼へ変貌するさまは見ていてゾッとするほど。小池の妖艶さに「美しすぎる」との声もあがっている。