「悩みの解決のためには、お金の浄化が必要ーー」
そういって占いの相談に訪れた人たちから金を騙し取っていたとして、鑑定士の男が詐欺容疑で逮捕されました。預かったお金はギャンブルや他の客への返済に回しており、総額は2億円に上るといいます。こうした開運・霊感商法による被害は後を絶ちません。
この事件は昨年のことですが、今年は、新型コロナウイルスの不安が広がっているだけに、よりこの手口への警戒が必要です。というのも、東日本大震災の後にも、先行きの不安から開運・霊感商法の被害相談が増えたからです。
出雲大“神”の札を販売
「無料占い」で9万円請求も
悪質な訪問販売もあります。5月には岩手県の家を回って、神社のお札を販売しながら、クーリング・オフの書面を渡さなかったとして、特定商取引法違反の容疑で男女が逮捕されています。お札は2枚で1000円と、たいした金額でありませんが、チリも積もれば山となります。新型ウイルス感染などの健康不安に付け込んだ悪質な訪問販売とみてよいでしょう。
ちなみに、このお札は、一見すると「出雲大社」のお札のように見えますが、実際には「出雲大“神”」の御玉串で、“社”と“神”が違っていました。岩手県では感染者が出なかったために、この男女も訪問しやすかったのでしょう。今は、緊急事態宣言が全国で解除されました状況ですので、こうした訪問販売による開運商法が全国で本領発揮となる恐れがあり、心配なところです。
特に懸念されているのは、ネットを通じた占いなどのトラブルです。在宅ワークが普及してきて、ちょっとした息抜きで、占いにアクセスする人も多いのではないでしょうか。
国民生活センターにはさまざまな相談が寄せられています。
「占いアプリに『3日間無料お試し』という広告があったので、タップしてインストールしたところ、2日後に9万円の請求額が表示された」
占いにハマるのが、女性とは限りません。
「高齢の父が2か月前からスマホの占いサイトにハマって、生活費にも影響が出はじめているので、止めさせたい」
というものもあります。もちろん、占いサイトをしっかりと運営しているところもありますが、すべての業者がそうであるとは限りません。以前に、私もサイトで占い鑑定をしてみたことがありますが、お金を取るのが目的ではないかと、疑いたくなるような業者もいました。
検索結果の上位に出てきた「無料占い相談」というサイトに登録したときのことです。
ここでは占い師からの鑑定結果を見るのは無料で、こちらから鑑定依頼を出すと150ポイントかかります。1ポイント10円なので、一回あたり1500円になりますが、登録時に150ポイントがついていますので、初回は無料で鑑定依頼ができます。
私はスピリチュアル鑑定を行う占い師を選び、連絡を取りました。プロフィールに「この世にはたくさんの犯罪が存在します。詐欺もあとを絶ちません。儲け話に乗ってしまう被害者がたくさんおられます。心あたりがある方は、ご相談ください」とあったからです。
私は「いろんな人にだまされてきました。どうしたら、幸せな人生を送れるのでしょう」という内容を、自分の顔写真とともに送りました。15分もしないうちに、返事が届きます。
「正直に申し上げまして、あなたの文面の負の力に身震いを覚えました。金銭面で悩んでおられるのですね? 確かに人柄のよさがあなたを苦しめてきたようですね。大きな負債はありませんね? あなたの悩みをいち早く解決したいと思っております」
鑑定は “?”マークの質問が多く、「金銭面で悩んでいる」とか「人柄のよさがあなたを苦しめてきた」などは、「だまされた」というフレーズから簡単に連想できて、誰にでも当てはまることではないでしょうか。
当たり前のことを言って、さも私の状況をいい当てたように思わせる、バーナム効果を使っているな、と感じました。
アクセスしないでいると
「一寸先に断絶が……」
悪質さを感じたので、さらに300ポイントを購入して、再び依頼のメールを出しました。私は怪しいと思ったら、突っ込みます。
「負の力とはどのようなものでしょうか。先生にはどのような力があるのですか?」
すると、こんな返答が。
「私が使う能力は霊視で、守護霊様に降りていただき、アドバイスをしていただきます。あなたは現在、精神的に参られているようなので、先にヒーリングを行わせていただいてもよろしいでしょうか?」
肝心な「負の力」については何も答えてくれないのです。
そこで「私の守護霊は誰ですか? 守護霊は何を話していますか? ヒーリングをよろしくお願いします」と鑑定依頼を出すと、
「守護霊様が誰かは、はっきりしていません。これから鑑定をして人物像をみていきたいと思います。ご都合はいつがよろしいでしょうか?」
と返事がきました。守護霊が誰かと聞いてみたら「これからみる」と言い、「ヒーリングをお願いします」と言っているのに「都合のよい時間を教えてくれ」と話を引き延ばす。すでに3千円を使っており、やりとりをダラダラと引き延ばして、お金を取ろうとするサイトであることが見てとれました。
しかしここからが、この悪質占いサイトの本領発揮でした。
あきれて、サイトにアクセスせずにいると、次々に鑑定メールが送られてきたのです。しかも恐怖をあおるような形で。
「あなたは、足を踏み外して転落しそうです。一寸先に断絶が待っています」
駅の階段から転落するのか、ビルからなのかはわかりませんが、先行きの不安を煽ってきます。
さらに「あなたには、浮動殺界が迫っています。いますぐ、手を打つべきです」「あなたに、悪魔ベルフェゴールのカードが現れました」というものも。
「殺」「悪魔」「転落する」という恐怖を覚えさせるような言葉を使って、鑑定依頼をするように迫ります。まじめな人ほど、この罠にはまってしまうのです。
もちろん、しっかりとした知識を持って占いをしている業者もいるのですが、一方でお金を取ることを目的にするサイトもあるのも実情です。
今は、新型コロナという見えない敵を意識した生活を送り、コロナ不況によって先行きに不安を感じている人も多くいます。こんなとき、「今、あなたは明日の生活への不安を感じて、精神的に追いやられていますね。このままだと、金銭的に立ちいかなくなりますよ」と、バーナム効果を使われれば、騙される人は後をたたないことでしょう。
見えない不安の前には、希望を見出したい。行くべき指針がほしい。そうした思いを巧みに利用して、お金を騙しとろうとする開運・霊感の手口には、注意をしておいてほしいと思います。
多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。