タイトルどおりコロナ禍の日本に元気を与えているNHK朝ドラ『エール』。窪田正孝演じる主人公の裕一と同時期にレコード会社に採用された作曲家・木枯正人役を演じているのは、『紅白歌合戦』出場も果たした人気ロックバンドRADWIMPSのボーカルも務める野田洋次郎。アーティスト、俳優とマルチに活躍する彼のルーツとはーー。
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サラリーマンの父親、ピアノ講師を務める母親と兄という家庭で育った野田。音楽活動の原点は、そんな家庭環境にあったようだ。
「母親が経営していたピアノ教室は、多いときには80人ほどが通う人気教室でした。野田さん自身はバイオリンを習っていたそうで、ピアノは母親に軽く手ほどきを受けたことがあるといいます」(音楽ライター)
現在の野田を構築する大きな転機は6歳のころ。父親の仕事の都合でアメリカに引っ越しをすることになったのだ。
《アメリカ行って、いろんな人見て、いろんな人と話して、すごく周りを見るようにはなったかもしんないです。(略)誰がなにしてるとかすごい見るようになったし。同情とは違うところで助けたい感はすごいあった気がする》
過去の音楽誌のインタビューでこう語っていた野田。幼少のころに物事を客観的、俯瞰的に見る力を身につけたことが、アニメ映画『君の名は。』の主題歌『前前前世』や『天気の子』の主題歌『愛にできることはまだあるかい』といった、普遍的で大きな人間愛を歌った世界観につながったのかもしれない。
無視され、いじめられた少年時代
小学4年生のときに帰国するも、日本の文化には窮屈さを感じていた。
「小学校では、同級生に無視をされたり、いじめられたこともあったみたいですね。けっこうひどいいじめを目撃したこともあったようで、いろいろな人種の子どもがいたアメリカの学校でも見なかったような、日本人同士で起こるいざこざにショックを受けたといいます」(レコード会社関係者)
進学校で知られる神奈川県内の私立中学校に進んだころには、そんな日本の文化を楽しんでいたフシも。小学生のときには自由に伸ばしていた髪型も、厳しい校則に合わせてバッサリ整えたという。
帰国子女の彼には窮屈そうに見える中学生活だが、担任の先生の存在が救いになっていたようだ。
「『ヒキコモリロリン』という曲の歌詞に登場する人の名前は当時の担任のこと。毎日持ち物検査をする厳しい学校でしたが、その先生だけは検査をしなかったのだとか。生徒のプライバシーを守り、自主性を重んじる先生の姿勢が野田さんは気に入っていたようです」(音楽ライター)
「あのバンドには華がある」
内部進学でそのまま高等部に進学し、高1のときにRADWIMPSを結成。在学中の2003年には自主制作で1stシングルとアルバムを発売するなど、精力的に活動するようになった。初めてライブを行った神奈川県横浜市にあるライブハウス『B.B.STREET』の代表・亀田弘之さんは当時をこう振り返る。
「高校生バンドがブームで、RADWIMPSもそのひとつでした。毎回100人以上を集客する人気ぶりで、先代の代表も“あのバンドには華がある”と圧倒的な才能を感じていました。そのころから、ある種のオーラはありましたね。実際、2002年に横浜で行われた高校生バンドの大会でグランプリをとって、もうその時点で事務所から声はかかっていたんじゃないかな」
アーティスティックな印象がある野田だが、高校時代からそれは変わっていない。
「ライブ中のトークも少なく、寡黙で少し尖っていた印象です。’18年にNHKの番組で野田さんがうちに来て久しぶりに会いましたが、雰囲気はほとんど変わっていませんでしたね」(亀田さん)
野田は16年前、亀田さんがかけた言葉をずっと覚えていた。
「初ライブ後に、楽屋で“次はいつ(うちで)ライブやる?”と僕が聞いたのが印象に残っていて、すごくうれしかったと言っていました。またライブをしてほしいということですから、自分たちの音楽が認められたと思ったんじゃないでしょうか」(亀田さん)
大学受験もあり、休止期間があったものの、バンドの名はまたたく間に音楽ファンの間に知られるように。2005年には東芝EMIからメジャーデビューを果たし、順調にミュージシャンとしてのキャリアを積んでいく。
それから10年がたった2015年、野田に再び大きな転機が訪れる。映画『トイレのピエタ』で俳優デビューすることになり、演技初挑戦ながら、余命宣告された青年役を自然体に演じた。
歌手にして「アカデミー賞」俳優へ
「映画を手がけた松永大司監督は、“野田さんのつくる歌詞、歌の雰囲気、また歌っているライブでの姿を見て、自分が描きたい、生きる死ぬということに対して共感できる歌を歌っている人だと思った”と彼を起用した理由を語っています。また野田さん自身も、“自分にとって大きなハプニングだった”としながらも、自らと重なる脚本に感動し、役を引き受けることにしたということです」(映画ライター)
その結果、『第39回日本アカデミー賞』など、多くの映画賞で新人賞を受賞。表現者としての力を見せつけた。
「2017年にはテレ東系の『100万円の女たち』でドラマ初出演にて初主演を果たしました。野田さん自身は“思い描いていた表現ができなかった、俳優には悔しい思いが残っている。もしまたチャンスがあればそれを打ち消しに行きたい”と心残りな様子でしたが、関係者は口をそろえて“彼の演技はいい”と絶賛していました」(テレビ局関係者)
俳優としての活動は音楽にもいい影響を与えたようで、「柔軟に音楽と向き合えるようになった」とファッション誌のインタビューで語っている。『エール』で演じる木枯についても、
《日本の音楽の礎を築いた方々の人生を、少しながら追体験させてもらえる機会をいただきうれしく思います》
と、公式ホームページで語る。俳優としても才能を開花させるなんて、もしかして“前世”は俳優だった!?