「コロナ対策の第2次補正予算が成立しましたが、それは最終的に増税という形で国民に返ってくると思いますよ」
と獨協大学教授で経済アナリストの森永卓郎さん。
さらに大規模な増税になる可能性
実質では約25兆円だった第1次補正予算による“アベノマスク”は不評を買い、10万円の特別定額給付金の支給も遅れているが、約32兆円の第2弾が打ち出された。
1次と合わせて約57兆円の財源は国債の新規発行に頼るが、一部は税金としていずれ国民が“返済”することになるかもしれないというのだ。
森永さんはその根拠は、東日本大震災の「復興特別税」だと説明する。
「復興税のときは震災後、所得税が2・1%上乗せされて、その期間は25年間。住民税も1000円上乗せで、10年間。法人税は10%上乗せで、2年間。これらの増税で、総額10・5兆円になりました。
今回の第1次と2次の実質的な予算規模は57兆円ほどなので、さらに大規模な増税になる可能性はあります。
景気後退が進むなか、コロナ不況で日本経済はかなりのダメージを負ったので、今すぐに増税ということにはならないと思いますが……」
タイミングによっては、震災の復興税の支払いが続いている間に、“コロナ税”が上積みされる可能性もあるようだ。
「震災復興税のときは、低所得者世帯には課税されなかったので、コロナ復興税ができたとしても、そのような措置が取られることになると思います。
しかし、世帯年収が700万円から1000万円ぐらいの中所得者層には、相当に負担となることでしょう」(森永さん)
日本でコロナの感染が広まったばかりの今年2月、IMF(国際通貨基金)が、
「コロナによる肺炎感染の拡大は“新たな景気へのリスク”である」
と警戒感をあらわにして、
「高齢化による社会保障費増大で、財政悪化が深刻になる。日本は消費税を2030年までに15%、2050年までに20%まで引き上げたほうがいい」
と、さらなる消費増税の提言をしている。
全国紙経済部記者もこんな動きを説明する。
「政府は5月に新型コロナ対策の専門家会議のメンバーに、“経済専門家の視点を加える”として、増税派の学者をずらりと加え、増税の準備かとささやかれました」
国民が返済する必要があるのか
コロナ騒動が落ち着こうとしているそばから、増税の話ばかりで気が重くなるが……、
「増税なんてありえない。景気が悪いのだから、むしろ減税を考えるべきですよ」
と訴えるのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。
東日本大震災のときとは少し状況が異なると解説する。
「あのときは東北地方を支援するという大義名分があったので、大多数が少数を救う形で、国民も嫌とは言い難い背景がありました。
しかし、コロナは日本全国が被災地で、全国民が被害を受けているなかで増税といわれたら、国民は怒りますよ。
コロナ対策は、自分たちが納める税金が原資という見方もできます。それを返済する必要があるのでしょうか」
そして、こんな例を出して増税への動きを警戒する。
「震災復興税の住民税への増額は、10年目に終わりましたが、その後『森林環境税』と名を替えて徴収を始めました。
このように国は、あらゆる手段で国民から税金を取ろうとしますから注意しなくてはなりません」
生活経済ジャーナリストの和泉昭子さんは、さらに絶望的な見立てをする。
「コロナを経験したことにより、医療や介護事業の危機が問題になったので、今後は医療費や社会保障費をさらに手厚くしなくてはなりません。
人口減や不景気でただでさえ税収が減るなかでは、年金受給開始年齢をさらに遅らせようという話が出てくるかもしれません」
コロナ収入減にどう備えるべきか
そのような時代を迎えるにあたって、私たちはどのように備えればいいのか──。
生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんは、
「不景気で残業代がなくなり、ボーナスも減る傾向にあるので、収入減は明らかです。今後は株価の急激な回復も望めず、投資も難しいので支出を抑えるしかないでしょう」
足元からの支出減のコツをあんびるさんが続ける。
「光熱費などの固定費を削っていくことですね。電気代とガス代を同じ会社にすると割安になります。そのほか、スマホの料金プランを変えて、通信費を削る。
思い切って新聞の定期購読をやめる。スポーツジムは解約して、自宅で動画を見ながらの運動にしてもいいのではないでしょうか。保険の見直しも必要になりますね」
前出の和泉さんも、こうアドバイスする。
「自粛中に外食やレジャーなどで使わなかったお金を貯めておき、さらに新しい生活様式に合わせた家計の見直しをしてください。
万が一の事態に備えて、3か月分の生活費は貯蓄として確保すべきでしょう。
電子マネーへの切り替えもおすすめします。感染予防のためだけではなく、使い方によっては年間で10万円分ほどのポイントがつくので、お得です。
住宅ローンの返済で困っている人は、金融機関へ相談すれば、返済期間の延期や、ボーナスでの返済額を減らしてくれることもあります」
事実、住宅ローンを提供する住宅金融支援機構では、コロナでローンが払えないなどの問い合わせが殺到しているとか。
「2月には20件だったのが、3月には200件、4月には1200件までなってしまって、5月にはついに電話がつながらない事態になっていたと聞いています」(前出・荻原さん)
現状で生活苦を強いられている人には、こんな手立てもある。
「家賃など生活面で困ったことがあれば、住居確保給付金や生活福祉資金貸付制度もあるので、自治体などの窓口に相談してみてください」(あんびるさん)
“職探し”や“脱・東京”も視野に入れて
新たな“職探し”も必要だと和泉さん。
「今回のコロナで、仕事を1つに絞っていると、失業や収入減のリスクになることがわかりました。
特に主婦は一般的なパートのほかに、オンラインでできる仕事を探すのも理想ですね。感染リスクもないですし、時代の流れにも合っている。家事や育児時間の空きを利用して、自由な時間にできるのも魅力ですね」
減収増税に備え、専門家たちはそんなさまざまな話をしてくれたが、次のような提言は共通している──。
「都会は“3密”で感染のリスクが高く、生活費や税金も高い。テレワークの有効性もわかったので、郊外や地方に移住したほうがいいのでは」
冒頭の森永さんは、“脱・東京”を視野に入れるべきと力説する。
「東京では自粛要請の協力金として、店舗などに50万円を2度にわたって給付しました。現時点で東京は財政が潤沢で、基金を積み立てているので、即、増税とはならないと思います。
しかし今後、第2、3波が続き、さらなる協力金を出すことになれば、都民はほかの道府県民よりも多くの税金を、国税以外に払うことにもなりかねません」
今までの地方移住といえば、リタイア後の年配者向けのイメージがあったが、今後は働き盛りの若者の移住が増えるかもしれない。
都会は“コスト高”、若い女性は危機感が強い
町づくり専門家で移住に詳しい木下斉さんが解説する。
「金融関係やIT関係では、すでに10数年前からそうした動きが出てきていました。今回のコロナでいっそうテレワークが進み、コスト高の都会に大きな会社を置くのではなく、都会では最小限にして、地方へという流れは加速していると思います。
とりわけ若い女性は危機感が強く、将来の子育てにも外で遊べる地方へ、という意識へシフトしています」
木下さんが、田舎選びのポイントを解説する。
「故郷へ戻るというのなら別ですが、都会に住んでいた人が、いきなり田舎へというのはハードルが高い。都会では個人の自由や権利が強いですが、田舎では地域の人同士の付き合いが濃厚ですからね。
ですから、まずはある程度、インフラが整った、数十万人規模の人口を持った地方の県庁所在地のようなところがいいと思います。
都会か田舎かという二者択一ではなく、現在はその中間を選択する傾向があるようです」
前出の和泉さんも、のどかさだけを重視しないほうがいいという。
「自然環境がいいところがいいのですが、まずは財政に比較的余裕がある自治体。ある程度、医療機関が整っていることも重要ですね」
移住者に対する自治体のサービスが鍵
そんな都会からの若い人を受け入れる、地方の人たちはどんな心持ちで迎えたらいいのだろうか。
コロナの感染拡大期には、都会から逃れてくる人に複雑な表情を浮かべる地方の人たちも多かったようだ。
「働き盛りの若い人が流入してくること、子どもさんを連れた人が来てくれることは、その地域の活性化にもつながることなので、歓迎すべきだと思います。
問題はそういう移住してくる人に対して、自治体などがどんなサービスを提供していくかが鍵だと思います。都会の仕事がメインだとしても、サブ的な仕事を用意してあげるとか、逆に地方の仕事をメインにしてもらえるようなものを提供するということです」(木下さん)
年配者の移住といえば、自治体に税金を落とさないばかりか、医療・介護費などの負担が増え、ありがた迷惑な存在だったとも言われてきた。
今回のコロナ禍を機に、多くの若い人とカネの流れが変われば、今まで山積していた日本の課題が、一気に解決するかもしれない。
コロナ禍の減収と増税に備え、
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