緊急事態宣言の解除により、飲食店などのさまざまな業種で営業の自粛が緩和されているが、まだまだコロナウイルスの影響は大きい。生活様式がコロナ以前と比べて変化しているが、大きな変化の1つが“出前”の増加だろう。
そのなかで急速に拡大しているのが、Uber Eats(以下、ウーバーイーツ)。おとぎ話『舌切り雀』の“大きいつづら”のような巨大なリュックを背負い、街中を自転車で疾走している彼らだ――。
「アメリカのウーバー・テクノロジーズ社が提供するウーバーイーツは、専用アプリで飲食店に出前を注文すると、ウーバーイーツに登録している“配達パートナー”と呼ばれる配達員がお店で商品を受け取り、注文した客に自転車やバイクで届けてくれるというサービス。簡単に言うと出前の代行です。
今回のコロナの影響によって、バイトができなくなった大学生、休職もしくは仕事がなくなった社会人が生活費のために始めるといったケースが急増しており、契約している飲食店も、今年2月中旬の1万7000店から3月末には2万店を超えたそうです」(フードジャーナリスト)
配達員の“危険運転”が怖すぎる
首都圏を中心に増えている自転車に乗ったウーバーの配達員。人気の飲食店ともなればお昼時に店の前に、客ではなくウーバー配達員の行列ができるところもある。
外出が自粛されるなか、家から出ずにスマホひとつで出前できるので、客側としても非常に便利なサービスであるが、“被害”に遭っている人が少なくないという。
「配達員自体は前々からいたわけなので、あまり気にしていなかったんですが、人数が増えてきたせいか自転車の運転マナーが悪い人も増えている気がします。飲食店は人が集まる駅前や商店街に多いですが、そういったところに猛スピードで突進してきたり……。
実際に私は駅近くの交差点でウーバーイーツの自転車とぶつかりました。交差点を渡ろうとしたときに横から追突された形ですね。その自転車は車道を走っていて信号は赤だったのですが、渡りたい方向の歩行者用の信号は青だったので、“行ける”と思ったのでしょうか。あまりスピードが出ていなかったので痛くもなく、あっけにとられているうちに走り去って行きました」(都内在住の男性)
配達員の“危険運転”が増えているのだ。別の男性も、
「夜でも無灯火、そのうえ右側通行の自転車がけっこういて、こっちも自転車に乗っているときは本当に怖いですね。車に乗っていても信号などで停まっているところをすり抜けてくるので、背負っているあの大きなバッグで車体をこすられたり……」
信号無視に無灯火だけでなく、「スマホを見ながらの運転」「混雑地帯を猛スピード走行」「右側通行で交差点右折」などの危険運転の被害が聞こえてきた。
実際にウーバーイーツで配達員をやっている男性に話を聞いた。
「僕は自分自身が飲食店勤務なのですが、店が休業になったので始めました。危険運転は……仕方ないとは思いますね。やっぱり早く届けて件数稼ぎたいって思いますから。前にピザのデリバリーのバイトをしていましたが、そのときは原付なのでナンバーを見て通報されたら“自分”ってバレちゃうので気をつけてました。でも、ウーバーイーツは自転車だし、何か“現行犯”的なことをしなければ自分だとわからないですからね。
頭の隅では気をつけようという気持ちはありますけど、気をつけながらスピード出したり、車がいなかったら赤信号を渡ったりしてますね。運営からは“気をつけましょう”みたいなメールがたまにくるくらいですかね」
子どもの多い住宅街でも
ウーバーイーツ配達員の危険運転について、NPO自転車活用推進研究会の理事で自転車評論家の疋田智さんは、
「そもそもマナー以前の問題で、彼らは自転車のルールを守らないし、おそらく知りません。なかでも右側通行が多いのが問題で、車で左折しようとするときに、曲がった角からサッと出てきて、ぶつかりそうになったことが私も複数回あります。こうしたことは左側通行をしていれば起こりえません。
また、歩道を“どけどけ”と言わんばかりの運転も当たり前で、特に子どもが多い住宅地などでもスピードを落とさないため、見ていてハラハラすることがしょっちゅうです。これでは嫌われるのが当たり前です。
ウーバーイーツは“教育をしている”と言いますが、いったいどんな教育なのでしょう。スマホに“ルールを守りましょう”と流すことは教育とは言いません。きちんと有効な教育をすべきでしょう」
もちろん、すべての配達員の運転マナーが悪いわけではない。前出とは別の配達員の男性は、
「僕は本業はイベント会社で会場の設営を担当していますが、3月からはほぼ仕事が無くなったので始めました。本業が肉体労働ということもあり、ウーバーという“副業”でケガなんかしたらアホらしいので、運転は気をつけています。まぁ気をつけているといっても左側を走る、きちんと左右確認する、混んでいるところはスピードを落とすとか一般的な感覚で守るべきところを守っているくらいですね。
普通にやっていれば人に迷惑をかけることもないと思いますし、“配達員の多くがマナーが悪い”というほどでもないとは思います。一部の人のマナーがすこぶる悪いというか……。事故に遭ったときの窓口とか保険とかよくわかっていないなかでやってる人もいますからね」
前出の疋田さんは、一部の運転マナーの悪さについて、「配達員に若い人が多いことが問題をさらに大きくしている」と指摘する。
「首都圏を中心に昨今の若い人は、車に乗らないし、車を持たない。そもそも免許の取得率がかなり落ちました。そうなると、交通ルールを学ぶ場がなくなってしまいます。その彼らがいきなり自転車に乗り“急いで運ばなくちゃ”“これを運んで○○○円”“あと1時間以内に○件やらないと目標の○○○円にならないぞ”とやっているわけです。
こうして急いで荷物を運ぶわけですから周囲が目に入っていません。そこに交通ルールを知らないという事情が加わるわけですから、事故が増えるのは当たり前です。
そして、彼らの多くは “自転車に乗ったことがあるというだけの自転車の素人”。見ているとわかりますが、彼らが乗るのは電動アシストのママチャリばかりで、乗車フォームも洗練されていない。総じて自転車運転がヘタです」(疋田さん)
“安全な自転車運転”について教育を
ウーバーイーツでは、'18年8月に配達員の死亡事故が起きた。それ以降、警視庁は運営会社であるウーバー・ジャパンに「交通安全を徹底するよう申し入れてきた」と、通信社のニュースでも報じられている。
「ウーバーイーツは、こういうビジネスを続けるつもりなら、配達員にきちんと教育をすべきです。教育をしないで“それぞれが個人事業主だ。だから自己責任だ”といって公道に放り出すのは許されません。なぜなら、その公道というものはわれわれみんなが税金で作り、みんなでルールを守って使おうという前提の元に供された公(おおやけ)のものだからです。公のものを使うには義務と責任が生じます。その責任を果たさないのであれば公道を使わないでいただきたいと思います。
ウーバーイーツは対人・対物の補償は以前からありましたが、少し前まで配達員本人の事故については、あくまで自己責任として補償すらありませんでした。しかし、ここの部分は昨年10月に改善され“配達中に限り上限25万円”ではあるものの、医療費が出るようになりました。このあたりは大きな進歩であると認めるべきでしょう。であるなら、もう一歩進めて“安全な自転車運転”について教育もしてはどうかと思うのです」(疋田さん)
日本では新たなサービスやシステムは、保守的な人を中心とした批判の声が集まりやすく、普及に時間がかかるが、マナーを守れなくては普及も信用もない。配達員は自分の好きな時間に働くことができ、飲食店は人件費を抑えつつ販路を拡大することができる。サービスとしては非常に便利なものであるはずだ。ウーバーには徹底した対応を望みたい。