第41回 熊田曜子
「人気がある」ことを「共感を得る」と言い換えることがありますが、共感というものは、そう簡単には、手に入らないようです。
タレント・熊田曜子が5月22日放送の『ノンストップ!』(フジテレビ系)に出演し、自粛生活で夫に落胆したエピソードを明かしていました。ステイホームで時間があることから、時間のかかる煮込み料理を作って夫に出したところ、「オレは刺身とかサラダとか切っただけのものが好き」と言われてしまったそうです。作った料理を「おいしいから食べてって言っても“切った系のほうが好き”と結局食べてくれなかった。ショックです」と話していました。
ステイホームで夫婦が1日中ずーっと一緒にいれば、ちょっと言葉がトゲトゲしくなるかもね、という人もいるかもしれません。しかし、この夫婦の「夫が妻の料理を食べない問題」は新型コロナウィルス前から起きていることをご存じでしょうか。
夫への同じ愚痴で何度も騒ぐと「ヤバい妻」に
今から約1年前、熊田のインスタグラムが話題になったことがありました。ストーリーズに《朝起きて一番にする家事が一口も食べてもらえなかったご飯の処理。食べるって言ったのに。このパターンもう100回は経験しているけどかなりのダメージ》と手料理の画像にバッテンをつけてアップしたのです。
配偶者に対する不満がまるっきりないという人は男女ともほとんどいないでしょう。しかし、夫に対する愚痴というのは、実は友人間であっても非常に共感されにくく、ましてや芸能人だともっと難しいテーマになるのではないかと思うのです。
愚痴を聞かされたほうの立場に立ってみると、いくら「気の毒だ」と思っても、人さまの夫を悪しざまに罵(ののし)るわけにはいきません。オトナですから「向こうの言い分も聞いてみないとわからない」というバランス感覚も働きます。
加えて、愚痴が共感をもって受け入れられるかどうかには、夫の社会的地位や経済力といった聞こえの部分も影響してきます。夫婦の実状や経済状況は他人にはわからないものですが、聞き手が「夫にいい生活をさせてもらっている」という先入観を持っている場合、共感レベルは一気に下がるでしょう。
例外があるとしたら、タレント・小倉優子や女優・杏のように「妊娠中に、夫が自分の後輩と不倫した」というように明白な有責行為があり、かつ妻のプライドをわかりやすく傷つけた場合ではないでしょうか。そこまでの修羅場を経験していない熊田が、同じネタで何度も騒ぐと、「熊田こそヤバい妻」と見る人は増えていくでしょう。
「料理は女性が作るもの」という根強い固定観念
また、揉めている原因が料理というのも厄介です。日本は「料理は女性が作るもの」という固定観念が強く、宗教もしくは呪いの域に達しているのではないでしょうか。
夫婦問題研究家であり、ご自身も2回の離婚経験がある岡野あつこセンセイは2019年10月21日のオフィシャルブログで、夫の浮気に悩む女性に対して《お料理の腕をぐんと上げて、夫の胃袋を掴んでしまうのもいいかもしれませんよ》と書いています。
2018年放送の『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース』(AbemaTV)で、ラブヘルスカウンセラーの小室友里センセイは、夫から拒否されるタイプのセックスレスを回避するために「夕食のおかずを1品増やす」ことをすすめています。
平成の大横綱・貴乃花の元夫人で、元フジテレビアナウンサー・河野景子は2000年に『ピンチも料理で救われます。』(世界文化社)を発売しています。2020年現在、貴乃花一家はあんまり救われてないように感じますが、とりあえず、日本では不倫もセックスレスもピンチも女性の料理で防止できることになっているようです。
それではデパ地下でお惣菜を買う既婚女性は、みんな夫に不倫されてセックスレスなのかとつっこみたい気持ちになりますが、『ノンストップ!』で熊田もお姑さんに「胃袋をつかめ」と指導されたこと、料理を作らなくなったら、「夫が帰ってこなくなるのではないか」と不安に思っていることを明かしていました。
熊田が「夫の胃袋をつかめば、オールオッケー」教徒であるのなら、その道を突き進めばいいと思います。しかし、実際には結婚8年目と結構な年月が経っているにもかかわらず、全然つかめていない。これはなかなかヤバい状態と言えるでしょう。
そこに見え隠れするのは、熊田の頑固さではないでしょうか。熊田の料理の目的が「夫においしいと言われること」であり、その夫が、手間暇かけた料理よりも刺身とサラダがいいと明言しているなら、それを用意すればいいと思うのです。
インスタを見ていると、熊田の料理は肉じゃが率が高い気がしますが、夫の好みを無視して自分好みの料理を作り「私はちゃんと作っているのに、食べない」と言い続けても、そりゃ食べないよね、好きじゃないんだからという堂々巡りにしかならないでしょう。
なぜ熊田は夫の希望の料理を出さないのか?
それでは、なぜ熊田が夫のリクエストに応えないかというと「凝った料理を作ることが料理上手である」「自分の作る料理こそがおいしいと信じて譲らない(夫と味覚が違うことを認めない)」からではないでしょうか。
熊田と言えば、『ノンストップ!』での他の発言でも、物議を醸したことがありました。2016年に東急電鉄が広告で車内でメイクする女性を「みっともない」と表現し、賛否両論を呼びました。同番組に出演した熊田は、電車の中でメイクをする女性について「仕事ができない」とコメントしたのです。時間の配分と管理がちゃんとできていれば、メイクをすませて電車に乗れるはずというのがその理由でした。正論だと思いますが、ダメ出しがちょっとキツめではないでしょうか。
3児の母となった今も、熊田が現役のグラビアモデルであり続けることができるのは、熊田が自己管理に長けた努力家だからでしょう。そのぶん、他人にも厳しいのかもしれません。
一般論で言えば、真面目は美徳です。しかし、過度の真面目さと押しつけがましさは紙一重で、そこから攻撃性が生まれることもあります。「私は正しい!」「私はちゃんとやっている!」と思っているときに、人はヤバくなるのではないでしょうか。
2019年10月14日の熊田のインスタグラムによると、熊田の夫は熊田が仕事に出ている間に、参鶏湯(サムゲタン)とプルコギを作って待っていてくれたそうです。夫も料理ができるのですから、熊田は週末の料理は夫に任せてみたらどうでしょうか。
熊田に必要なのは、「料理は女性がするもの」という思い込みを一旦、捨てることなのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」