「自分の中での新しい出発を切るためのアルバムです」
6月9日、氷川きよし初のポップスアルバム『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』が発売になる。
「2〜3年前から考えていました。『限界突破×サバイバー』との出会いは、やっぱり大きかったですね。“オリジナルのポップスでヒット曲を”という思いは、自分の中にあったので。過去には、ファンクラブ限定でカバーのみのポップスアルバムを出したことはありますが、あくまでカバー。オリジナルのポップスで勝負したいと思ったんです」
KIYOSHIではなく
氷川きよしとして
デビュー2年目の『きよしこの夜』など、今までポップスを歌う際には名義を“KIYOSHI”としてきた。
「恩人である、所属事務所の長良じゅん会長(享年74)が“演歌ばかりじゃ煮詰まるだろうし、演歌ファン以外にも幅広く名前を知ってもらわないとダメなんだぞ”と。ポップスを歌うことをすすめてくれ、KIYOSHIという別名義をくれました。若いときは英語に憧れてたから“シャレてるな”って思ったけど、でも、ちょっと字面がKONISHIKIさんに似てません(笑)?」
お茶目な冗談はさておき、今回のアルバムの名義はKIYOSHIではなく、氷川きよし。
「ポップスとか演歌とか、もう分けなくていい気がして。“氷川きよし”はすごく好きな名前だし、全部自分だから。おこがましいんですが、“アーティスト・氷川きよし”としてこのアルバムを出したかったんです」
昨年末『NHK紅白歌合戦』で歌った『限界突破×サバイバー』やGReeeeNによる書き下ろしの『碧し』、昨年のクリスマスライブで初披露した湯川れい子訳詞によるクイーンのカバー曲『ボヘミアン・ラプソディ』、力強いロック『確信』などの既発曲のほか、オリジナルの新曲も多数加え、全14曲。いい歌はジャンルを超える――。
「サウンドは違えども、大切なのはやっぱり言葉を伝えること。今の時代、人を元気にさせたり、勇気づける言葉がいちばん大事だから。“生きていこう”と前を向ける曲だけをチョイスしています」
ジャケットでも激しく攻めた。ボディスーツで幼虫をイメージ、そしてオーガンジーの衣装では蝶を体現。
「幼虫ってちょっとグロテスクじゃないですか。“気持ち悪い”と言われれば言われるほど、羽ばたいてきれいになっていく。そんなイメージをアート的に表現しています」
演歌歌手だから、演歌だけを歌う――。当たり前と思えることに対し、氷川きよしの存在はもはやその枠に収まり切れなかった。
「自分は冒険するのが好き。そして、みんなと同じことはしたくない。そもそも高校時代、(芸能部の)全員がポップスを歌っていた中で、“みんなと同じはイヤ”と歌い始めたのが演歌。デビューしたときには“まだ22歳なのに演歌を歌う”というギャップを面白がってもらえた。それを20年続けたら“演歌を歌って当たり前”のイメージに。だから、今度はそれを逆転したかったんです」
現状維持では
いられない
突飛で奇抜なように見えても、氷川の心の根幹は何も揺らいでいない。ジャンルという枠組みを超え、羽ばたき始めた氷川の目には今、どんな景色が見えているのだろう?
「まだ発売前だから、ドキドキして胃が痛いんですよ。聴いてもらったときに、誰がどういう反応をしてくれるかな? って。演歌だけがお好きな方は“ちょっと無理”と思うかもしれないけど、一緒に冒険する気持ちで聴いていただけたらうれしいです。現状維持ではいられない。挑戦することで、新しい道が開けてくる。やっぱり、誰もやらないことをやっていきたいんです」
42歳、鷹の生き方に共鳴
「知人に『鷹の決断』という動画を教えてもらったんです。自分自身と今回の新アルバムに、すごくリンクするように感じて。年をとった鷹は爪、くちばし、羽などが弱って獲物がうまくとれなくなるそうです。そのまま死を待つか、苦しい自分探しの旅に出るか……。変化を選んだ鷹は山の頂上で自分のくちばしを叩き壊し、爪をはぎ取り、羽を抜く。半年以上をかけて自らを再生させた鷹は、残りの人生を悠々と生きていく。アメリカインディアンの神話だそうですけど。
自分は今、42歳。心に刺さるものがありました。植物もそうですよね。花も1回散って、また咲かせることができる。痛くても、苦しくても、自分に信念や強さがあったら、絶対負けないと思う。カッコいいですよね。やっぱり、そういう生き方をしていきたい。改めてそう思いました」
『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』
【Aタイプ/初回完全限定スペシャル盤】
CD+DVD。3545円+税
【Bタイプ/通常盤】CD。2909円+税
※写真はBタイプ
発売/日本コロムビア
ヘアメイク/遠山雄也(RELAXX) 衣装協力/KOH'S LICK CURRO