マスクやトイレットペーパー、消毒用アルコール、果てはホットケーキミックスまで、品切れ、品薄が続いた緊急事態宣言期間。生活必需品の買い物は禁止されなかったものの、外出頻度を減らす必要があったり、商品購入に個数制限が設けられ、欲しいものや必要なものが買えない事態にも陥った。
また、家族で長期間、自宅で過ごしたことで、家の中のちょっとした不便に気づいてしまうことも。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、いつ家族や自分が感染したり、感染者の濃厚接触者になったりするかもしれないという不安は、払拭されてはいないし、インフルエンザと同様に冬に再流行する可能性もある。
今回の経験を踏まえつつ、コロナ流行第2波、および再び発令されるかもしれない緊急事態宣言の際に、慌てない備えとは。
緊急事態宣言の解除後も油断禁物
まず、食料や日用品についての備えを教えてくれたのは、家庭を守るための防災・防犯対策に詳しい危機管理教育研究所・国崎信江さん。
災害時とは違い、スーパーやコンビニエンスストアは開いているが、それでも食料のストックはしておくべきだという。
「自粛が再び長期間になることも考えられますが、その間、買い物に行く回数はできるだけ減らしたい。ですから、普段の生活に必要不可欠な米や、常温保存可能な調味料などは、買い足す必要がないくらいは用意しておきたいものです」
それらは重量もあるので、平時に準備しておけば、自粛中の買い物を楽にする効果も。
「賞味期限との兼ね合いもありますが、約1か月分のストックが目安です。例えば、味噌1パックを3週間で使い切る家庭なら、2パック程度を準備。今のうちに、家計簿アプリなどを活用して、普段の消費サイクルを把握し、何がどれだけ必要かを計算して備えましょう」
逆に、あまり食べないものを、無駄に買い置きしておく必要はないそうだ。
「このときだけのために、普段は使わないパスタやホットケーキミックスを備蓄しておくくらいなら、よく使うそうめんや蕎麦をそろえておくほうがいい。“いつもと同じ味”が十分あることが、日々の安心になります」
あると助かる口腔衛生用品と石けん
日用品も、食料品と同様に1か月分のストックが目安。ただ、トイレットペーパー、生理用品、キッチンペーパーなどのペーパー類は、品薄が解消された今の時期に、やや多めにそろえることを心がけたい。
「特に、水に流せるトイレットペーパーは、ほかにかわるものがないので、なくなると困ります。通常、1人で1週間1ロールの消費量だとしたら、家にいる時間も長いので、1人当たり12ロール入りを1パック程度はキープしておくと安心ですね」
かさ張ることが嫌なら、1ロール当たりの長さが3〜5倍など、巻きの多いものをそろえるのも手だ。
マスクや消毒用アルコールも、流通量が増えて価格が落ち着いてきたらそろえたいものだが……。
「使い捨てマスクは1人当たり100枚あると安心ですが、現状、良質なものはまだ入手が難しいので、1人50枚に布マスクの併用を目安に。個人的には、消毒剤でふいて何度も使えるフェイスシールドを、1人2つ程度持っておくのもおすすめ。ネット通販などで購入できます」
消毒用アルコールも手に入りづらいので、家具やドアノブの消毒・洗浄用には、手に入りやすい台所用洗剤を準備。身体に使うもので、国崎さんが備えておいてほしいというのが、口腔衛生用品と石けん。
「病院に行きづらくても、歯痛は我慢できないし、何より歯周病は万病のもと。歯ブラシや歯磨き粉の準備はしっかりしておき、ケアを怠らないようにしましょう。
また手洗いが推奨されているので、泡状のハンドソープの消費量も多くなると思いますが、なければ固形石けんでも、使う都度、しっかり洗えば代用できます。固形石けんは場所も取らず、ボディソープとしても使えるので、見直してもいいのでは」
家庭のインターネット環境を見直すきっかけに
朝から晩まで家族と一緒に過ごすことを余儀なくされるのも、緊急事態宣言下ならでは。その生活を快適に過ごすための備えを教えてくれたのが、企業から家庭まで、さまざまなリスク管理・危機管理に詳しい、日本マネジメント研究所理事長の戸村智憲さん。
夫婦・親子間での、同じときを楽しく過ごす空間づくりや、生活スタイルづくりを疎かにすると、関係のもつれにつながるので厄介だと話す。
「家族が在宅勤務するにせよ、学校の休校に伴ってさまざまな学習サービスを受けるにせよ、家庭のインターネット環境やIT機器が整っているかどうかで、自粛期間の満足度は大きく変わります。もし今回、それらに不自由を感じたなら、今のタイミングで整備しましょう」
今回の自粛期間にキャリアの通信障害が起こったので、インターネット接続はスマートフォンだけに頼らず、ほかにも回線を複数、確保しておくのがベター。
リモートワークやオンライン授業を快適にするためには、自宅に高速インターネット回線を導入したい。今なら、光回線などの工事業者に来てもらうことが必要になっても、窓を開けて換気をしながらの工事も可能。
家に他人を入れるのが不安なら、工事不要のモバイルルーター「WiMAX」や、置き型のホームルーター「SoftBank Air」の導入を検討してみるのもよい。ただし、サービスにより、料金、通信速度、データ通信量制限、使用可能エリアなどが異なるため、内容はしっかり検討したい。
また、家そのものに不具合があれば、今のうちに修理や修繕も。
「例えば、これからは換気を常に意識しなければいけませんが、網戸が破れていれば、虫が入ってきて不快。今のうちに直しておく、蚊取り線香などの虫よけを用意するなどの対策を。長いステイホーム期間は、小さなことでもストレスの種になりますから」
コロナウイルスに自分や家族が感染したり人に感染させるリスクがあることは、今も変わらない。病院で総合内科を担当する近藤千種医師に、感染防止や健康管理のために備えたいものや事柄について聞いた。
「自分や家族の健康状態を、日々チェックしておくことが重要。十分な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動は、健康の必須条件です。
朝晩の検温が推奨されていますが体重も健康のバロメーター。家での間食が増えたことによるコロナ太りも問題ですが、急に体重が増えた場合は心不全など別の病気の疑いもあるので注意が必要です」
“やっとけばよかった、助かったのに”
病院は感染リスクがあるので、なるべく行きたくない、少し体調が悪いくらいなら、市販の常備薬で治したい、という人も多いだろう。そんなときに注意すべきことは?
「例えば熱ならこれ、頭痛ならこれ、と1症状に対して薬は1種類だけにすること。それで症状が改善しなければ、医師に相談を。自己判断で複数の薬を使うと別の症状が出ることがあり、正しい病気の診断ができにくくなります」
持病がある人で、同じ薬を長い間使っていて症状が安定している場合は、普段より多めに薬を処方してもらい、病院に行く回数を減らすのも手。
「こういう時期ですので、通常1か月分の処方を2か月分にするなど、病院も臨機応変に対応しています。ただし、少しでも体調や症状に変化が出たら、すぐ受診を」
電話やオンラインでの診療も、積極的に活用したい。特に自分や家族に、コロナウイルス感染症が疑われる症状が出た場合は、いきなり病院に行くのではなく、かかりつけ医に電話やオンラインで連絡をしてほしいとのこと。
「以前に比べると、かかりつけ医からPCR検査への移行がしやすくなっているので、安心して相談してください」
どんな病気の場合でも、電話やオンライン診療のときは、事前に熱や血圧を測り、使っている薬やアレルギーの有無、困っている症状をまとめておくと、よりスムーズだ。
食料と日用品、生活環境、医療面、それぞれ備えに対するアドバイスは参考になっただろうか。最後に、コロナ禍だけに限らず、役立つであろう言葉を紹介しておきたい。
「リスク管理は“いろいろ準備していたけど結局、使わなかった”という空振りが最上なんです。最悪は“やっとけばよかった、助かったのに”。これを胸に置いて、準備をしておきましょう」(戸村さん)
(取材・文/秋山圭子)
●正確な情報収集に役立つウェブサイト(新型コロナウイルス感染症関連)
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
日本環境感染学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について」http://www.kankyokansen.org
農林水産省「緊急時に備えた家庭用備蓄ガイド」の備蓄例
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/gaido-kinkyu.html