不安でこの先どうしたらいいかわからない、自分はダメな人間かも……と、思い悩んでいませんか? でも、答えは自分が意外とわかっているもの。誰かに相談しなくても、自分で自分をカウンセリングすることができるんです! 不安が解消され、心が穏やかになりますよ。
自分の本心を引き出す
新型コロナウイルス拡大の影響で、心の不調に悩む人が増えている。コロナうつや社会不安がのしかかったためだ。
「コロナが原因というより、コロナをきっかけに、もともとあった不安が大きくなって問題が表面化した人が多い印象です。例えば、今までパートナーに感じていた『この人でよかった?』という迷いが増幅し、それが夫婦間の危機やコロナ離婚に発展してしまっています」
こう語るのは、心理療法士で音楽療法家の橋本翔太さん。不安が大きくなると人は誰かに相談したがるし、中にはスピリチュアルに頼る人も出てくる。橋本さんはこの点についても警鐘を鳴らした。
「誰かに相談して答えを求めがちな人には、『私は大したことがない人間で、あなたの言うことを聞いたほうがうまくいくと信じています』という無意識の気持ちが潜んでいます。『あの人のアドバイスがあれば私は大丈夫』と思ったままでいると、いつしか『私はダメな人間だ』という気持ちが強化されてしまう。自己肯定感の欠如につながってしまうのです」
不安が晴れないもうひとつの理由はエネルギーの向く方向。特に女性の場合、自分をさておいて別の誰かを意識し、尽くしながら生きていることが多い。「自分よりまず家族を優先」「姑の機嫌をうかがう」「ママ友の目が気になる」と、自分ではない誰かにエネルギーが向きがちだ。だから、悩みが袋小路に入ってしまう。
「それだけでなく、今はコロナについて気になる情報が外部にたくさんあるので、エネルギーを“自分自身”に戻すことが大事です」
そこで実践してほしいのが不安や悩みを自分で解決する「ぬいぐるみカウンセリング」。
詳しい流れは次のページを参照していただきたいが、まずはぬいぐるみを1体用意する。設定は「あなたが親友であるぬいぐるみの相談に乗る」というもので、このぬいぐるみは、あなたと全く同じ不安や悩みを抱えている。
ぬいぐるみを活用する理由は、自分を第三者として認識するため。顔があると擬人化しやすいし、また、見慣れたぬいぐるみだと親しみやすいため、親身にアドバイスしたくなってくるもの。椅子など、ぬいぐるみを座らせる場所を用意するのも重要だ。ぬいぐるみを抱いた状態だと、親友へのアドバイスというより子どもをあやすスイッチが入ってしまうのがその理由。
自分をいちばんよく知っているのは自分
イメージとしてわかりやすいのは、「ファミレスで友達の相談に乗る」というシチュエーションである。ぬいぐるみの相談に乗るあなたは、同時に「自分はどうするべきか?」を真剣に考えているというわけ。
「これを行うと、驚くほど自分の口からアドバイスが出てきます。実は、あなたの中に『自分はこうしたい』『本当はこう思っている』という答えがあるのに、それを言語化できていなかっただけなのです。普段の生活でそういう質問を投げかけられる機会ってほとんどないですからね」
例えば、「職場の後輩を見ているとイライラして人間関係がうまくいかない」と悩んでいたとする。あなたは「後輩のどういうところにイライラするの?」とぬいぐるみに質問し、今度はぬいぐるみ側に座って「私が指導しても返事をしないんだよね」と答えを返す。このやりとりの中で「返事がないから後輩が嫌だったんだ」と初めて自分の本心に気づくのだ。このときに大事なのは声を出すということ。
「ワークを実践した方々からは『自分の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった』という感想を多数いただきました。声に出すことで自分でも気づいていなかったことをポロッと口にし、そんな自分にハッとする。でも、声を出さず頭の中だけでやっていると想定内のことしか起きません」
アドバイスに私情が入っていないというのもメリットのひとつ。親友から相談を受けるという設定なので、「子どもに悪い」「ママ友から変に思われる」といった気遣いのつけ入る隙がないのだ。例えば「夫との離婚を迷っている」と周りを巻き込むような悩みを抱えていた場合。
でも、設定上は自分ではなくぬいぐるみの悩みなので、他者へ気を遣わずにアドバイスできる。それは自分だけにフォーカスしたあなたの本心だ。また人から受けるアドバイスより自分からのアドバイスのほうが腑に落ちるのもこのワークの特徴である。
「ほとんどの人は自分の芯や価値観ができあがっています。だから、アドバイスされても『う~ん、そうは言っても……』と口答えしたくなりがち。でも自分からのアドバイスには口答えできません。『私って意外と自分のことをわかっていたのね』と自信回復にもつながります」
カウンセリングの手順を見て気恥ずかしさを感じる人がいるかもしれない。でも、ペットの犬や猫に「今日の晩ごはんは何がいいと思う?」などと話しかけた経験はないだろうか? これをぬいぐるみに置き換えると、実はそのまま自己対話である。すでにみなさんもワークに近いことを経験しているのだ。
「そういった日常の延長線上にあり、より深いものにしたのがぬいぐるみカウンセリングです」
答えは自分がいちばんよく知っている。ぬいぐるみを使って、これからどうしたらいいか、自分の力で掘り下げてみよう!
教えてくれたのは…… 橋本翔太さん
臨床心理学専攻教育学修士/心理カウンセラー、音楽療法家。音楽教員を経て現在の活動を開始。日本にとどまらずシンガポールを中心に南アジア圏でも活動中。『聴くだけうつぬけ』(フォレスト出版)など、著書多数。YouTube「橋本翔太の心理学+音楽療法+栄養療法」も好評配信中。
取材・文/寺西ジャジューカ