「エコバッグをもう1年以上、使っていますが、洗ったことは1度もありません。そんなに汚れていないはずだから」
と東京都江東区の30代主婦は苦笑いする。
7月1日から全国の小売店でプラスチック製レジ袋の有料化が義務づけられる。これまで以上にエコバッグの活躍が見込まれるが、なぜ、レジ袋に厳しい目が向けられるのか。
有料化する袋と無料袋の違い
消費者問題研究所の垣田達哉代表は「プラスチックごみを減らすのは世界的な流れ」として次のように説明する。
「ウミガメの鼻にストローが刺さったショッキングな映像が世界中に広まり、海洋プラスチックごみ削減の機運が一気に高まった。日本は欧米などに比べて取り組みが遅れていたため、政府は五輪開催までにどうにかしようと躍起になった。レジ袋を有料にすることでプラスチックごみ排出を抑制したいんです」
プラスチックごみはレジ袋だけではない。しかし、「目につくため狙われた」と垣田代表は続ける。
「本当はプラスチックごみ全体を減らさないといけないんですけどね。有料化の対象はスーパーやコンビニ、ドラッグストアや衣料品店などすべての小売店で、持ち手のあるレジ袋です。対価は1円以上で、値引きやポイント付加による代替は認められない。持ち手があっても、紙袋ならば無料のままです」
つまり、持ち運び用のプラスチック製袋だけが有料になるというわけ。スーパーで商品を詰める台に備えつけてあるロール状のポリ袋は従来どおり無料で提供される。賢い主婦は1円でも安く買い物をすませたい。エコバッグ活用の幅は広がるだろう。
日本チェーンストア協会の調査によると、レジ袋辞退率は2002年には8・03%にとどまっていたが、'14年に50%を超え、今年3月には57・21%まで増加している。
「環境を守るため、エコバッグでもご自宅にある袋でもかまわないので、お持ちいただきたい」(同協会の担当者)
とはいえ、新型コロナウイルスの感染事例はなくなっておらず、エコバッグを使い回すリスクは知っておきたい。
日本感染症学会の指導医で東京歯科大学・市川総合病院の寺嶋毅教授(呼吸器内科)は、素材ごとに異なるウイルスの生存期間について次のように話す。
「布製バッグには1日、プラスチック製には4日間ぐらい付着している可能性があります。ビニール製やナイロン製など表面がツルツルしている素材はプラスチック製と同等とみなせるので、ウイルスは長く付着します」
商品を詰める台上でウイルスが付着!
また紙袋は品質によって生存期間の差が大きいという。
「水に濡れやすい普通の紙では3時間程度しか付着できませんが、紙幣のようにツルツルして水が染み込みにくい上質紙では4日間付着していたといいます。捨てるには惜しい高級な手提げ紙袋は、1度使ったら、4日間放置してウイルスの死滅を待ってまた使うといいでしょう」(寺嶋教授)
すぐ破れる紙袋ではウイルスは短命で、丈夫な紙袋では長生きするから悩ましい。
感染防止の観点からみると、バッグはどのように取り扱えばいいのだろうか。
東北大学病院・感染管理室の徳田浩一室長は「店員さんに任せず、自分で商品をしまいましょう」と助言する。
「他人の手が触れると感染リスクは上がります。お釣りもトレーでやりとりするようになりましたし、コロナを避けるためには“セルフ”を心がけたい」(徳田室長)
注意すべきなのは持ち手の部分や、商品が直接触れる内側のほか、こんな盲点も……。
「スーパーで会計をすませたあと商品を詰める台の上では、バッグを置いたときに底の部分が汚染されるかもしれません」(徳田室長)
感染症専門医で東京・品川区の『KARADA内科クリニック』の佐藤昭裕院長は、
「自宅で保管しているレジ袋をバッグがわりに使ってもいい。日にちがたっているものであれば、ウイルスは死滅していますから」と付け加える。
重いバッグを担いで帰宅したあとも気は抜けない。
「部屋までバッグを持ち込まず、玄関先で商品を取り出してはどうか。バッグをアルコール消毒するつもりならばふきやすいビニール製などを選ぶといいでしょうし、洗うつもりならば布製がいいのではないか」(前出・徳田室長)
前出の寺嶋教授は具体的な洗浄方法を説明する。
「使用するごとに洗うのがいちばんです。洗濯機にかけられる素材は洗濯用洗剤できれいにし、かけられない素材は石けんで手洗いする。洗えないときはアルコールを70%以上含んだ除菌ウエットティッシュでふき取りましょう」
エコバッグの汚れ、ノロウイルスの危険も
ところが、冒頭の主婦に限らず、エコバッグを洗ったことがないという消費者は意外と多い。
コロナ発生前の昨年、『エフコープ生活協同組合』(福岡県)の商品検査センターが調査したところによると、エコバッグを洗ったことのない来店客は51%にのぼり、毎日洗っている客は全体の3%にすぎなかった。
コロナ前とはいえ、バッグのメンテナンスにまで気を回す消費者が少ないことを物語っている。
関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)は、
「これからの時季、食中毒も心配です。バッグに生肉を入れて汁が漏れたりすると、原因となるカンピロバクター菌やサルモネラ菌、ノロウイルスなどが付着するおそれがある。購入する商品によっては、有料のレジ袋を買ったほうがリスクを減らせます」
と指摘する。
前出の寺嶋教授は言う。
「気を配る必要があるのはバッグだけではありません。バッグを取り出す直前と、買い物を終えた直後は、石けんでの手洗いや携帯用アルコールジェルで消毒しましょう」
ほとんどの専門家が手指消毒の重要性を訴える。どのバッグや袋を使うにも、基本の手洗いは怠らないように。