緊急事態宣言の解除とともに、少しずつ街に人が溢れるようになってきました。中国などでは、これまでの買い物を我慢した反動から一転、爆買いをするリベンジ消費が起きているといいます。日本でも、そうした期待感があるでしょう。実は詐欺の世界でも、自分が騙されたから相手も騙してやろうという「リベンジ詐欺」というものが起きています。
被害者から、気づけば加害者に
今年に入り、68歳の男性が、詐欺の受け子をしていたとして逮捕されました。ことの始まりは、昨年。「未納料金があり、このままでは裁判になる」とのハガキが届いたことに驚いた男性は、記載されていた番号に連絡をしてしまい、約100万円を騙しとられました。そして警察に被害届を出したのですが、その後、失ったお金を取り戻すために詐欺を働いてしまったのです。
架空請求では、詐欺師たちは一度お金を取っただけで終わりにはしません。その後も繰り返しアプローチをして「もっと未納料金がありました」と料金の追加請求をし、お金を騙し取ろうとします。
おそらく今回も、男性からお金を騙し取った犯人たちは「この男から、もう取れるお金がない」「これが詐欺だと知って、悔しがっている」などの事情を把握したのでしょう。タイミングを見計らって「受け子をすればお金を返す」と“うまい話”を持ち掛け、それに男性は乗ってしまったのです。
こういった事例のように、詐欺師は相手の懐に入り込み、騙しの罠を仕掛けてくるのです。
以前、テレビ番組で女性タレントに、ネット上にはびこる闇バイトの募集に電話をかけてもらいました。そのとき「お金に困っている主婦」という設定で連絡をしてもらうと、電話口に出た男性は、
「今の借金はどのくらいありますか?」「旦那さんのお給料は?」
と、親身な口調で話してきたのです。さらに彼女の懐具合を聞き、「それでは生活は大変でしょう」と同情しながら、月に稼ぎたい額を尋ね、女性の生活状況に合わせて「旦那さんが帰ってくるまでの間の仕事を紹介できますよ」と、結局はATMからお金を引き出す「出し子」の仕事に誘ってきたのです。
最初から最後まで、親身に相談に乗り、ソフトに話してきましたが、おそらく「リベンジ詐欺」をした男性にも、こうやって自分の事情をすべて話させ、言葉巧みに詐欺に誘ったのでしょう。
最近、受け子として逮捕された人たちから聞かれるのは、「コロナ不況」という言葉です。埼玉県の80代男性からカードを詐取したとして逮捕された19歳の男は、「新型コロナの影響で仕事がなくなったから」と、お金に困った末に犯行に及びました。
岡山市の80代女性からカードを騙し取ったとして逮捕された20代の男2人も「仕事がなくなり、アルバイトを探していて、この受け子の仕事をした」と供述しています。
このようにコロナ不況のあおりを受けて、その状況を「リベンジして稼ぎたい」という思いを、詐欺の仕事を紹介する「リクルーター」が巧みに利用しているのです。
もちろん、犯罪の誘いにのった人間が悪いことはいうまでもありませんが、現状に対する「リベンジ」を考える心につけいってくる、上手の詐欺師がいることを忘れてはいけません。ですので、絶対に軽い気持ちで闇バイトの募集に電話をしてはいけないのです。
その株、本当に大丈夫?
ほかにも、株で大損をするなどして、コロナ不況の影響を受けた人もいるかもしれません。その損した分を取り戻そうとリベンジを考えている人にも注意してほしい手口があります。
国民生活センターには、すでに次のような相談が寄せられています。
80代女性のもとに、大手薬品会社から、社債発行の案内と、新型コロナウイルスの治療薬開発についての書類が入った封筒が届きました。後日、その会社の社員を名乗る者から「今、政府の要請で新型コロナウイルスの治療薬を開発している」と怪しい電話がかかってきたそうです。
今後、新型コロナの治療薬やワクチン開発が話題になりますので、それに便乗して、このケースのように社債や未公開株などの購入を持ち掛ける詐欺が多発することが考えられます。
多くの人がコロナ不況からの脱却を目指そうとする中で、詐欺師たちは「損失を取り戻したい」「リベンジしたい」という私たちの気持ちを巧みに利用してきます。くれぐれも詐欺師たちの口八丁な話にのせられないように、注意してほしいと思います。
多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。