葬儀やお墓など、生前に死後の準備をしておく終活。これら葬儀に関わるお金には地域差があった。
葬儀や終活のポータルサイトを運営する「株式会社鎌倉新書」では都道府県別にかかった金額を調査、ランキング形式で発表した。同社の小林憲行さんは、「1県30サンプルほどの平均です。そのため県民全体がこの金額でやっているわけではありません」と前置きしたうえで、日本一葬儀にお金がかかっていたのは富山県とのデータを示した。それに岩手県、静岡県、山梨県、高知県が続く。逆に最も低かったのは広島県。次に島根県、三重県、鹿児島県、沖縄県の順だった。
「上位の富山県や岩手県は地域のつながりが濃く残っており、葬儀の習わし、慣習が受け継がれていると思われます。持ち家比率が高かったり、おそらくなんらかの地域性があるのでしょう」
葬儀、仏壇、香典収入で富山が1位
富山県ではどのような葬儀が行われているのか。同県の男性(60代)に聞いた。
「富山の葬式は派手ですね。石川、福井も規模が大きい」
金額が高い理由には自宅の大きさも関係あるようだ。
「富山県の古い家には広い仏間があり、昔の冠婚葬祭はすべて自宅。葬儀では家の周りに白黒の花輪を並べ。木製の飾りで祭壇をつくり、飲食や返礼品などにもだいぶお金がかかりました」(前出・男性)
現在では葬儀の場所は自宅からセレモニーホールへ。木製の飾りから花中心の祭壇に変わったというが、前出の男性によると、
「会場も広いため、祭壇も大きくしないとバランスが悪い。ですから見た目も派手になったことが考えられます」
広い会場で葬儀が行われる背景には会葬者数や香典の金額も関係しているという。
「地域に残ってる相互扶助制度も理由のひとつでしょう。近所でも香典に5000円~1万円ほど包みます」(同)
ランキングでも富山県の香典収入は全国第1位だった。
「会葬者も200人ほどになることがあり、多くの人が来れば香典で葬儀は賄えます」
前出の男性も父親の葬儀は香典で事足りたそう。
「家族葬も増えてきましたが、まだまだ規模は大きい。富山は地域のつながりがとても強いんです。“箱が大きいほどいい葬式だ”と考えている年配の人も多いかもしれませんね」(同)
会葬者数の全国1位は沖縄
一方で、会葬者数が全国一という沖縄では、集まる人は多いが香典や葬儀の費用はそこまで高くない。
親族や友人、仕事関係者らだけでなく近隣住民や故人やその家族、親族と接点がある人が200~300人集まることもある。同県の葬儀会社『公益社』の担当者は、
「沖縄では通夜でなく、告別式に多くの人が集まります。家族が亡くなると遺族は新聞におくやみ広告を出します。喪主だけでなく家族や親族の名前も書かれていますので、そこに知り合いの名前を見つければ弔問に訪れるのです」
お寺との関係も特殊だ。
「沖縄は先祖崇拝。お寺の檀家制度がないためお布施の金額も全国でいちばん低いのでしょう」(前出の担当者)
葬儀にかかった金額が低い地域にも理由があるようだ。
小林さんが説明する。
「各地でその土地に根ざしたやり方があるんだと思います。一例として静岡県浜松市では新盆に大きな祭壇を設置、盛大におこないます。お葬式にお金をかけるか、法要分も含めて金額を分散させるか。葬儀、法要の形や費用のかけ方は地域で異なるようです」
金箔を使った豪華な『名古屋仏壇』
ただ、葬儀以外にも準備すべき費用があり、それらの金額も地域で異なる。
ひとつが仏壇。これも富山県は第1位。前出の男性は、
「富山県人は見栄を張りたがりますからね。かつて仏壇や家の大きさを競う文化がありました。家や仏壇の大きさが権力のステータスになっていたように思います」
と明かす。小林さんも、
「仏壇は北陸や中部地方が断トツで高かった」
愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の一部には『名古屋仏壇』という伝統的な仏壇がある。名古屋仏壇商工協同組合の山田宗宏理事長に聞いた。
「名古屋仏壇はかつて木曽三川で発生していた水害から仏壇を守るため、台が高くなっているのが特徴です。また、他地域の仏壇は複数の工程を1人の職人が担うこともありますが、名古屋仏壇は彫刻、蒔絵など8部門の各工程は専門職人が担当、分業してひとつの仏壇をつくります」
内側には金箔、寺院にも使われる金具や彫刻を小さくしたもので飾り、豪華な構造になっている。それはまるでお寺を小さく凝縮し、自宅に置くようなものだという。
「愛知県の古い家は玄関を入るとすぐに客間があり、そこに代々仏壇を設置してきました。大きな仏壇に買い替えることを出世仏壇といい、商売繁盛すればおごることなく、謙虚であれ、と後継者にその姿を示す意味も込められていたようです」(山田さん)
時代とともに核家族化が進み、家の大きさも縮小。行事に参加する親戚の人数も減ってきた。仏壇自体も簡素化されたり、輸入品も増えた。名古屋仏壇も需要の減少が続けば今後、貴重な伝統技術が失われるおそれもある。
しかし、「仏壇はいらない」「小さい仏壇に買い替えよう」という終活中の声がある一方で、半畳サイズで120万円~、大きいもので1000万円する名古屋仏壇を求める人も少なくない。
遺品整理や空き家処分の費用も必要
「親世代は子どもに負担をかけたくないと言いますが、中にはしっかり仏壇を構えて親を供養したいと考える人もいるんです。どんな仏壇を購入するか家族で話し合ってほしいと思います」(山田さん)
名古屋仏壇に限らず仏壇に故人を重ね、形見として設置する人もいるそうだ。
「お子さんたちがそれぞれ購入するケースもあります。“仏壇に声をかけると、そこに亡くなった親がいるような気がして1人じゃない、落ち着く”というご遺族もいました。仏壇は宗教的な意味合いだけではなく故人を偲ぶ安らぎの場へとも変わっているようにも思います」(山田さん)
お墓も必要。都道府県では高知県の平均金額が1番だったが地域別でみると関東地方が平均152万円と最も高い傾向にあった。地価が高いことも関係あるだろう。そのため都市部を中心にロッカータイプの納骨堂や遺骨を霊園や寺院が管理、供養する永代供養なども選択される。
買うだけでなく、物を減らすことにもお金がかかる。
遺品の整理は家の広さや家族構成、手伝ってくれる人の有無でも業者に頼む範囲や金額が変わるため元気なうちに手をつけたい。
空き家処分で金額が高かったのが東北地方。核家族化で大きな家が不要になったケースが考えられる。次に高かった東京都内はそれに加え、地価や処分費用の高さも関係していることが推測される。
相続にしても手続きが必要で、専門家の費用もかかる。
金額の地域差はフラットになっていくだろう
地域で異なる葬儀や死後の備えにはその土地の宗教や歴史、文化などが影響しているがこれらは今後、失われる可能性があるという。
「葬儀も大きく変わる時期です。従来の考え方は通じなくなっていくと思います」
家族葬など少人数規模の葬儀、オンライン中継についても実験的に行われているそう。小林さんは推測する。
「今後は全国で同じくらいの金額が基準となる可能性もあり、地域差もフラットになっていくことが考えられます。
ランキングの金額はあくまでも参考にする程度で。終活はそれぞれの必要に応じてカスタマイズし、自分たちに合ったやり方や費用を家族で話してもらいたいです」