『ロングバケーション』('96年)

 視聴率20%超えは当たり前。放送翌日には学校や職場で、“見忘れたから会話についていけない!”なんて経験も。そんな名作ぞろいの'90年代ドラマが再放送などで再び話題に。四半世紀の時を経ても、なぜ人々を魅了するのか? 女性読者800人へのアンケートや、過去の名作&名ゼリフとともに徹底解剖します!

'90年代ドラマには
恋愛ドラマの基礎が

 コロナ禍でドラマ制作が滞り、次々と過去の名作が再放送された。その中で話題となった作品のひとつが、豊川悦司がろうあの画家を演じ、ヒロイン・常盤貴子との大人の純愛を繰り広げた『愛していると言ってくれ』。“トヨエツ”として一世を風靡した豊川の美しさや色気を再確認し、恋愛の神様と謳われた脚本の北川悦吏子のセリフが時代を超えてもなお、多くの人の心に響いた。
 
 今年4月には、恋愛ドラマの金字塔『東京ラブストーリー』が29年ぶりに現代版として復活。“ドラマの黄金時代”と称される'90年代ドラマが再び脚光を浴びている。

'90年代ドラマにはラブストーリーの基礎がすべて詰まってるんです。恋愛ドラマの教科書がここにあります
 
 と語るのは、30年以上もドラマに関する作品を発表し続けている漫画家のカトリーヌあやこさん。そのことを決定づけたのは、やはり'91年の『東京ラブストーリー』だと話す。

「'80年代後半のバブル期に始まったトレンディードラマはちょっと背伸びした生活や恋愛を描いて、若者の憧れとなりました。“東ラブ”はそこを等身大へと戻し、憧れを共感へと変えた。世の女性は鈴木保奈美演じる赤名リカに感情移入し、着ていたステンカラーのコートをまねして着ました。ただ、バブルを経ているので基本の女性像が肉食女子なんですよ。それを象徴するのが、“セックスしよ”というセリフで、あれは衝撃的でしたね。カンチ(織田裕二)とリカが結ばれないというラストも視聴者をざわつかせました」(カトリーヌさん、以下同)
 
 火曜日は街のあちこちで“東ラブ”の話題一色。まだSNSがない時代のため、ドラマが娯楽の主役だったのだ。
 
 恋愛にも仕事にもアグレッシブな'90年代のヒロインたちは、今の若者たちにはキラキラと輝いて見えるのでは、と分析する。

「'07年の『ホタルノヒカリ』で綾瀬はるかが演じた干物女の蛍が典型的で、今の世の中って生きづらいから無理せずにいたいし、恋愛にエネルギーも使いたくない。そういうヒロイン像が主流になっているような気がします。『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣が演じたみくりもそうですよね。'96年の『ロングバケーション』で山口智子が演じた南はナチュラル系ヒロインの元祖ですけど、恋愛に関しては“狩り”にいってましたから。あのガッツはまぶしいんじゃないでしょうか

イケメンがイケメンとして輝いていた'90年代

 男性陣はというと、個性豊かなイケメン俳優たちがこぞって現れ、ドラマ界を盛り上げた。

「“東ラブ”の織田裕二は三谷幸喜さんがゴールデンで初めて連ドラを書いた'93年の『振り返れば奴がいる』で新境地を開拓し、'97年には『踊る大捜査線』の青島という当たり役を手に入れた。“東ラブ”でライバル役だった江口洋介は『ひとつ屋根の下』のあんちゃんでブレイクし、'99年には『救命病棟24時』がスタート……と作品を通して役者が育っていってる。極めつきが『あすなろ白書』のバックハグで世の女性の心をわしづかみにした木村拓哉です
 
 彼のブレイクをきっかけにジャニーズがどんどんドラマに進出するようになったのもこのころから。一方で、竹野内豊を代表とするモデル系の役者も増えた。

キャラクターに関しては、今ほど思い悩んだりはせず、イケメンがきちんとイケメンとして輝いていた。それを最も感じるのが反町隆史と竹野内豊がW主演した『ビーチボーイズ』です。何が起こるわけでもなくイケメンふたりが海辺で戯れているだけで癒される(笑)。脚本の岡田惠和さんの絶妙な掛け合いが生み出す空気感が最高でした。私、『ビーチボーイズ』はそのときどきのイケメンを使って、毎年リメークすればいいと思ってるんですよ。例えば吉沢亮と山崎賢人で『ビーチボーイズ2020』とかどうです?(笑)」
 
 そんな'90年代ドラマを支えていたのが、野島伸司、北川悦吏子、三谷幸喜、岡田惠和、君塚良一といった脚本家たちだ。今のドラマは原作ものが主流だが、当時はほとんどが脚本家のオリジナル。原作がないから視聴者は先の展開に純粋に一喜一憂できた。中でも圧倒的だったのが、野島伸司のストーリーテリングだ。

「フジでやるときは『ひとつ屋根の下』など明るくコミカル、TBSでは『高校教師』のようにブラックな野島ワールドと書き分けていたのも印象的でした。『古畑任三郎』の三谷さん、『踊る大捜査線』の君塚さんなど違うジャンルの方がドラマに新風を吹き込んでいくというトレンドも'90年代から生まれたもの。
 
 彼らの作品はいま見てもきちっと作り込んでいるなと感心してしまいます。若く才能ある脚本家とフレッシュな役者が新しいドラマを作っていこうというプロデューサーと一緒に種をまき、ドラマというジャンルを花開かせていった。'90年代はそんな幸福な時代でしたね」

『愛していると言ってくれ』('95年)

「ばっかり考えてる。
あの人のこと、ばっかり考えてる」

『愛していると言ってくれ』('95年)に出演した豊川悦司、常盤貴子

 豊川悦司演じるろうあの画家と常盤貴子演じる女優の卵の切ない恋が女性たちの涙をしぼりとった名作。聞こえないゆえのふたりだけのコミュニケーション(手話、ファックスなど)が逆にロマンチックで、さすが“恋愛の神様”北川悦吏子と感服させられる。木の枝のリンゴをもぐという出会いのシーンも印象的だった。「君の声が聞きたいというトヨエツのセリフ……振動で伝わるという内容にすごく泣かされました」(神奈川県・50歳)

TBS系 最高視聴率28.1%
出演/豊川悦司、常盤貴子ほか
主題歌/DREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』

ロングバケーション('96年)

「神様がくれた長い休暇だと思って、無理に走らない」

『東京ラブストーリー』と並ぶ恋愛ドラマの金字塔。山口智子&木村拓哉という人気絶頂のふたりを主役に据え、竹野内豊、稲森いずみ、りょう、松たか子、広末涼子とのちの主演クラスが脇を固める。脚本の北川悦吏子の何ということのない会話が醸し出す空気感が心地よく、どんな劇的な出来事よりもロマンチックな気分にさせた。「シーン、セリフ、映像、音楽……すべてがキラキラしていた。まねして窓からスーパーボールを投げました」(東京都・49歳)

フジテレビ系 最高視聴率36.7%
出演/木村拓哉、山口智子、竹野内豊、稲森いずみほか
主題歌/久保田利伸 with ナオミ・キャンベル『LA・LA・LA LOVESONG』

101回目のプロポーズ('91年)

「僕は死にましぇん!」

『101回目のプロポーズ』('91年)

 当時のトレンディー女優の代表格、浅野温子の相手役に武田鉄矢という意表を突いたカップリングで大人の純愛を描き、同じ年に放送された『東京ラブストーリー』をしのぐ36.7%の高視聴率を叩き出した野島伸司脚本のロマンチックラブストーリー。「武田鉄矢がトラックの前に身を投げ出す衝撃シーンが印象的。何の取り柄もない不器量な男でも恋のためにこれほど必死になれる。イマドキの草食男子にこのバイタリティーを見習ってほしい」(北海道・55歳)

フジテレビ系 最高視聴率36・7%
出演/浅野温子、武田鉄矢、江口洋介、田中律子ほか
主題歌・CHAGE&ASKA『SAY YES』

東京ラブストーリー('91年)

「ねえ、セックスしよ」

『東京ラブストーリー』('91年)

 日本の恋愛ドラマ史上に残る傑作。最高視聴率は32.3%を記録し、その後の恋愛ドラマブームの火つけ役となった。鈴木保奈美演じるヒロイン・赤名リカの“切なさ”を徹底的に描くことで、世の女性視聴者を感情移入させ、“ドラマにハマる”という快感を教えた。「鈴木保奈美さんの“カ~ンチ”と呼ぶ声がかわいくて、つい自分を重ねて見てました」(神奈川県・53歳)。「ライバル役のさとみ(有森也実)のあざとさも心をざわつかせました(笑)」(カトリーヌさん)

フジテレビ系 最高視聴率32・3%
出演/鈴木保奈美、織田裕二、江口洋介、有森也実ほか
主題歌/小田和正『ラブ・ストーリーは突然に』

ずっとあなたが好きだった('92年)

「むぅーーー!」 

 見合い結婚した女性がダメ夫と姑の横暴に耐えかね、初恋の男へとなびいていく……古典的な物語が、ひとりのキャラクターの覚醒でお化けドラマに。それが佐野史郎演じるマザコン夫の冬彦だった。脚本の君塚良一はもとはバラエティーの構成作家。奇抜なアイデアで物語を活性化させるのは得意だった。「冬彦さんが木馬に乗って“ママ〜”というのがキモかった」(広島県・33歳)。「この作品だけはリアルタイムで全部見たくらいハマった」(青森県・45歳)

TBS系 最高視聴率34・1%
出演/賀来千香子、布施博、佐野史郎、野際陽子ほか
主題歌/サザンオールスターズ『涙のキッス』

高校教師('93年)

「愛と呼ぶには、僕たちはあまりにも幼すぎた」

 野島伸司がフジテレビからTBSへと場を移し、野島ワールドを開花させた作品。教師と女子高生という禁断の愛を縦軸にし、そこにレイプや近親相姦という過激シーンをちりばめる。極限状態でこそ純粋な愛が描けるという野島の作風は、その後『人間・失格』『未成年』『聖者の行進』などへと受け継がれていく。「今なら放送コードに引っかかるようなことも自由に表現していた。この自由さも'90年代ドラマの特徴です」(カトリーヌさん)

TBS系 最高視聴率33・0%
出演/真田広之、桜井幸子、赤井英和、京本政樹ほか
主題歌/森田童子『ぼくたちの失敗』

ひとつ屋根の下('93年)

「そこに愛はあるのかい?」

 野島伸司が純愛からホームドラマへと舵を切ったらさらなる高視聴率(37.8%)をマーク。もともと『愛しあってるかい!』などコメディードラマもうまかったが、この作品はまさに笑って泣ける良質の人情喜劇だった。江口洋介が演じたあんちゃんは平成の寅さんとしてお茶の間の人気者に。ちい兄ちゃん役の福山雅治もブレイクした。「バラバラだった家族が少しずつひとつになっていくのがよかった。ぴょん吉Tシャツ持ってました」(東京都・45歳)

フジテレビ系 最高視聴率37.8%
出演/江口洋介、福山雅治、酒井法子、いしだ壱成ほか
主題歌/財津和夫『サボテンの花』

家なき子('94年)

「同情するなら金をくれ」

『家なき子』('94年)

 人気子役の安達祐実を主人公に、母の難病、父の暴力、学校でのイジメなどなど、ありとあらゆる試練をたたみかけていく野島伸司企画の黒い寓話。泣かせの要素をてんこ盛りにし、劇的な出来事を積み重ねるマンガチックともいえる作り方は、その後、ティーンをターゲットにした土曜9時枠のドラマへとつながっていく。「安達祐実ちゃんと年齢が近かったので、いつもハラハラしながら見てました」(岡山県・42歳)。「まさに現代版おしんと呼ぶべき作品。毎週末が楽しみでした」(東京都・47歳)

日本テレビ系 最高視聴率37・2%
出演/安達祐実、内藤剛志、保坂尚輝、田中好子ほか
主題歌/中島みゆき『空と君のあいだに』

古畑任三郎('94年)

「古畑任三郎でした」

 三谷幸喜が日本で初めて連ドラでのパズラー(謎解きモノ)に挑戦した作品。古畑を演じた田村正和の洗練された空気感とキャラクターのとぼけた味わいが絶妙。刑事コロンボを彷彿させる倒叙モノ(冒頭で犯行があり、犯人が明らかになる)で、ゲストの犯人役との丁々発止が楽しく、コメディーとしても優れた作品だった。「ゲストの人選が面白く、特にイチローが犯人を演じた回は、その演技のうまさにびっくりしました」(埼玉県・51歳)

フジテレビ系 最高視聴率16.6%
出演/田村正和、西村雅彦ほか

踊る大捜査線('97年)

「事件に大きいも小さいもない!」

 事件ではなく警察という組織の中での人間模様を描くという、これまでと全く違うアプローチで刑事ドラマの流れを変えた傑作。その後、映画化され社会現象を巻き起こした。織田裕二演じる青島のサラリーマン的悲哀をにじませた刑事が、どんどん熱くなっていく姿がカッコよく、柳葉敏郎のキャリア、いかりや長介のベテラン刑事などそれぞれキャラが立ち、群像劇としても秀逸だった。「刑事ドラマが面白いと初めて感じた作品」(35歳・大阪府)

フジテレビ系 最高視聴率23.1%
出演/織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、いかりや長介ほか
主題歌/織田裕二 with マキシ・プリースト『Love Somebody』

ラブジェネレーション('97年)

「ちょ、待てよ!」

『ラブジェネレーション』('97年)

 木村拓哉&松たか子の黄金コンビが『ロンバケ』以来の共演で話題となった作品。会社の先輩後輩の恋物語というオーソドックスなラブストーリーで、月9史上初めて平均視聴率が30%を超える大ヒット。この記録はその後、同じくふたりが共演した『HE
RO』に抜かれることになる。最近でも映画『マスカレード・ホテル』のヒットが記憶に新しいが、このふたりの組み合わせにはヒット作を生み出す不思議な力があるのかもしれない。

フジテレビ系 最高視聴率32.5%
出演/木村拓哉、松たか子、内野聖陽、純名里沙ほか
主題歌/大瀧詠一『幸せな結末』

GTO('98年)

「いいじゃねえか、お前はお前で」 

 長引く不況に世に閉塞感があふれた'98年に「言いたいことも言えないこんな世の中は」と、さっそうと現れたのが反町隆史扮するグレート・ティーチャー・鬼塚(GTO)だった。女子高生にモテたいだけで教師になった元不良という破天荒な教師像は若者たちに爆発的な支持を受け、その年の最高視聴率35.7%を記録した。「鬼塚先生の元ヤンっぷりと熱血が合わさったところが好き。こんな先生が担任だったらと妄想してました」(香川県・32歳)

フジテレビ系 最高視聴率35.7%
出演/反町隆史、松嶋菜々子、中尾彬、白川由美ほか
主題歌/反町隆史『POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』

ビーチボーイズ('97年)

「いいじゃん、夏なんだから」

『ビーチボーイズ』('97年)に出演した反町隆史、竹野内豊

 反町隆史&竹野内豊という当時を代表するイケメンふたりが繰り広げるひと夏のバケーション。特にドラマチックな出来事は起きず、夏の太陽と海をバックに淡々とエピソードがつむがれていく。岡田惠和の生み出す絶妙な会話劇は、その後、朝ドラの『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』へとつながっていく。「イケメンと海さえあればほかに何もいらないというドラマ(笑)。サイズオーバーのTシャツ姿の広末ちゃんも可愛かった」(広島県・52歳)

フジテレビ系 最高視聴率26・5%
出演/反町隆史、竹野内豊、広末涼子、稲森いずみほか
主題歌/反町隆史 with リッチー・サンボラ『Forever』

救命病棟24時('99年)

「患者が俺たちを生かしてくれてるんだ!」

 当初は日本版ERと呼ばれていたが、その後、第5シリーズまで制作され独自の世界を築き、日本を代表する医療ドラマに。クールな天才救命医・進藤を江口洋介が演じ、新境地を開拓。またヒロインの新米女医を演じた松嶋菜々子はこの年('99年)、ほかにも『魔女の条件』と『氷の世界』に主演し、トップ女優となった。ちなみに『コード・ブルー』で新木優子が演じる横峯はこのドラマを見て救命医を志した。現実にも同様の救命医は多いのかも。

フジテレビ系 最高視聴率24.0%
出演/江口洋介、松嶋菜々子、須藤理彩、沢村一樹ほか
主題歌/DREAMS COME TRUE『朝がまた来る』

カトリーヌさん厳選!
再放送してほしい'90年代ドラマ


「北川悦吏子さん脚本の『その時、ハートは盗まれた』は青春の切なさが詰まった心がキュッとなる佳作です。出演が一色紗英、内田有紀、木村拓哉なので当然、三角関係の話と思いきやガールズラブの物語なんです。制服のまま跳び箱を倒立跳びする内田有紀ちゃんの可憐さったら……(笑)。深夜帯でぜひ再放送していただきたいです。あとオススメは、豊川悦司主演の『青い鳥』。豊川さんって『愛していると言ってくれ』の手話でもわかるように、手がとても色っぽいんです。そんな彼がこの作品では駅員役で、指さし確認の白手袋の美しさと言ったら(笑)。野沢尚さんのサスペンスフルな脚本と、佐野史郎さんの怪演も見どころです」

取材・文/蒔田陽平 写真/週刊女性写真班
※視聴率はビデオリサーチ調べ、週刊女性集計