『しげログ』は商品プロデューサーとして活躍し、海外のファッション・流行などをナビゲートしているしげるちゃんが毎回「会いたい人」と「好きなお店」で対談! ゲストの“素”を引き出しちゃいます。第9回目のゲストは放送作家の鈴木おさむさん。緊急事態宣言明けに行われた“ソーシャルディスタンス対談”の行方は──?
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しげるちゃん(以下:しげる)「鈴木おさむさんとはしげる、これがはじめましてですよね。奥さん(森三中・大島美幸)とはお会いしたことあるんですけど。それで、今日こちらへ伺う前に、おさむさんのことをいろいろ調べてみたんですけど、おさむさんが“大映ドラマ”がすごく好きだとおっしゃっている記事が」
鈴木おさむ(以下:鈴木)「あ、好きなんですよ!」
しげる「しげるも見てました! おさむさんは、どんな作品が印象に残ってますか?」
鈴木「僕が小学生の時に一番強烈に印象に残っているのが堀ちえみさん主演の『スチュワーデス物語』ですね。あとは、いとうまい子さん主演『不良少女と呼ばれて』や山下真司さん主演の『スクール☆ウォーズ』。中学生になると『ヤヌスの鏡』なんかもありました。大映ドラマって、ちょっとホラーというか、猟奇的というか、子どもから見るとなんか怖いんですよね。映像の質感とかも」
しげる「大映ドラマと言えば、子供のころ、山口百恵さんの『赤いシリーズ』とか見てたかな、内容は覚えてないんですけど。あれは確か……1970年代だったかな?」
鈴木「1970年代ですね」
しげる「ですよね。大映ドラマの当時の印象って“ドラマの中のナレーションが怖かった”です(笑)」
鈴木「そうなんですよ! ナレーションが怖くて!」
しげる「あと、“あるある”で言えば、必ず登場人物たちに“出生の秘密”があるんですよねッ!」
鈴木「そうそう、絶対あるんですよ(笑)。全体的には、ピアノがドーン!と鳴るようなケレン味やこけおどしたっぷりなイメージがあって。たぶん大映ドラマって、“いかにショックを与えるか”っていうことを考えて作られているんじゃないかなって思うんですけど」
しげる「しげるもそう思います。で、ここから『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)のお話に移りたいんですけど、以前、ラジオ(TBSラジオ『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』)で、おさむさんが脚本をお受けする段階で“すごく悩んだんだけど”みたいなことをおっしゃっていたんです。“大映ドラマぽい感じに作らせてもらえるならいいよ”って」
鈴木「言ってましたね(笑)。浜崎あゆみさんの人生をもとにした小説をドラマ化するに当たって、“もうひとインパクト作れないかな”と考えたんです。そう思った時に、“大映ドラマ感”が浮かんだんです。“大映ドラマ”って、少女が成り上がっていったり、スターになっていったり、“芸能界モノ”っていうのがあるんです(大映テレビの『スタア誕生』など)。でも、浜崎あゆみさんのデビュー当時って、いわゆる“ザ・大映ドラマ”ってもうなかったじゃないですか」
時代との“ミスマッチ感”
しげる「『M』の時代設定が90年代半ばから後半ですよね。もうその頃には“ザ・大映ドラマ”はありませんでした。あの頃、大映テレビ制作っていうと、2時間ドラマとか、そういうものでしたよね」
鈴木「そうなんです。90年代はトレンディドラマが全盛で。その時代感と、ひと昔前の“ザ・大映ドラマ”っていうミスマッチ感がいいかなと思ったんです。というのは、浜崎あゆみさんってご健在ですし、今も多くのファンがいらっしゃいます。
美空ひばりさんのように故人ではなく、現在進行系であるがゆえに難しいなと。原作自体がドキュメンタリーではなく、あくまでも事実を基にしたフィクションですし、フィクション感がすごく強い“ザ・大映ドラマ”の要素を取り入れたら面白いんじゃないかって思ったのが、脚本の依頼をいただいたときの率直な想いでしたね」
しげる「浜崎さんからは、大映ドラマ的な作り方に対して、得に何も言われてはいないんですか?」
鈴木「いや~何もコメントをいただいてないんですけど、その松浦勝人さんがモデルの、マックス・マサを演じてくださったのが三浦翔平さん。三浦さんは『M』の脚本を見てはっきりおっしゃってましたね。“愕然とした”、と。マサがアユ(安斉かれん)に『俺の作った虹を渡れ!』っていうセリフを言うシーンがあるんですけど、あまりのアツさに、“自分が持っていたイメージと違う”と思ったらしいんです。
でも結果的にそれを大まじめに演じてくださって(笑)。そのシーンを見たある俳優さんから連絡が来たとおっしゃってました。“これをこんなに真剣にやれるのはお前だけだ、すごいよ”と(笑)」
しげる「役者さんって本当にすごいですね(笑)。ちなみに、しげる、『M』は、大映ドラマらしさのほかに、昼ドラっぽいなって思いながら観てました」
鈴木「実は、制作陣に元東海テレビで昼ドラ『牡丹と薔薇』などのドロドロ愛憎劇を制作していたプロデューサーがいるんで。小沢真珠さんの強烈なセリフで有名な(笑)」
しげる「それで昼ドラっぽさもあったんだ! でも『俺の作った虹を渡れ!』のシーン良かったですよ。しげる、涙ポロっと来ちゃいましたもん」
鈴木「いいんですよ(笑)。しかも三浦翔平さんって顔がすごくきれいで。ああいうシーンを本気で演じると、逆に“顔きれいだな”ってことがすごく浮かびあがるんです」
田中みな実が塁に出て
しげる「ね! すごくかっこいいんです! でもあのドラマ、賛否両論ありませんでした? ドラマを楽しんで観ている人と、“大好きな浜崎あゆみさんでふざけるな”みたいな両極端の視聴者の声があるって聞いたことあるんですけど」
鈴木「テレビってこれまでは“世帯視聴率”が中心だったんですけど、ここ1年ぐらい、個人視聴率が大事だと言われています。あとは、視聴率じゃなく、SNSでどれだけトレンドに入るかだとか。でも意外と視聴率って、よほどズバ抜けていない限り、そこまで話題にならないんです。そうすると“世の中をざわつかせることがこのドラマを作る目的なんじゃないかな”と思えてきて。“ざわつかせる”という意味で言えば、賛否両論はむしろ歓迎されることなんですよね」
しげる「実際、SNSですごく話題になってましたよね。思惑通りってことなんですね」
鈴木「そうですね。思惑としては、まずは田中みな実さん演じる礼香が話題になればいいなと思っていました」
しげる「田中みな実さんの役柄のモデルはやっぱり『スチュワーデス物語』の片平なぎささんだったのかな?」
鈴木「そうです、そうです! もちろんそれだけじゃないんでけど、『スチュワーデス物語』の片平なぎささん演じる真理子は、元婚約者の浩(風間杜夫)とヒロインの千秋(堀ちえみ)に嫉妬して、『ひろし~!』とか言いながら、義手をギリギリとやるじゃないですか。あのイメージですよね。
逆に安斉かれんさんは堀ちえみさん。堀さんも当時、新人の女優さんで、あの初々しさがあのドラマの魅力の一つでもあったわけです。安斉さんも本業は歌手で、お芝居はこのドラマが初ですから、そこに共通点がある。また堀さんのセリフで『ドジでのろまな亀』というものがあって、それも当時流行ったのですが、だからアユ(安斉)のセリフも『アユ、ダイヤになる!』」
しげる「なるほど〜(笑)」
鈴木「野球で言えば、話題面でまず田中みな実さんが塁に出て、その後に安斉さんが堀ちえみさんのように話題になれば、というイメージ戦略で脚本を書いていたところはあります」
コント的手法をドラマに取り入れ
しげる「おさむさんと言えば『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)もそうですけど、コントも書いてらっしゃったじゃないですか。やはりその経験が、『M』に生かされている部分ってあります?」
鈴木「『SMAP×SMAP』のコントを20年書いていたんですけど、パロディコントを沢山やっていたんです。木村拓哉さんの『古畑“拓三郎”』とか。世の中で流行したものをパロディ化していったのですが、ある時からパロディにしたいと思える作品がなくなってしまったんです。
時代の風潮もあったんでしょうけど、“じゃあ自分がパロディにしたいと思えるドラマを作ればいいじゃないか”と思っていたのを脚本に反映させた部分はありますね。
もし今も自分が『SMAP×SMAP』をやっていたら、そのパロディコントを書くだろうなっていう。そこで生まれたセリフが、先ほども言った『アユ、ダイヤになる』とか、『アユ、負けない』とかであって」
しげる「楽しい! それはすごく真似したくなりますよね。パロディコントも観たくなる」
鈴木「あと、田中みな実さんが、すごく長く伸ばしながら『許さなーい!』と言うシーンもありますが、普通のドラマの脚本だと台本の表記も『許さなーい!』のままなんです。でも僕の脚本では『許さなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!』と書くんですよ。“台本を見て分かってくれ!”という思いと言いますか、コントを書いていた経験が生かされていると言えばそういったところですかね」
しげる「例えば『8時だョ!全員集合』の志村けんさんとかのコントを見てると、当時出てきたアイドルの女の子たちとか男の子たちと一緒にコントをしてたんです。しげるの記憶では、いわゆる芸人さんのやるコントよりも、そっちの方を先に見た記憶があって。『SMAP×SMAP』もそうですよね。芸人さんじゃなく、SMAPがコントをやってて」
鈴木「『全員集合』で志村さんと桜田淳子さんのコントとか、『淳子、負けない』みたいな。異常にお上手だったじゃないですか皆さん。沢田研二さんも郷ひろみさんもめちゃくちゃコントうまかったりとかするじゃないですか」
しげる「松田聖子さんもやってましたよね」
鈴木「やってましたやってました。芸人さんがやるコントとアイドルがやるコントってちょっと違うんですよ。アイドルなんかはコントで笑わせる……というより、コントを“演じる”んです。それで香取慎吾さんなんかはすごい爆発力を見せてくれたりもしましたが、『M』でも、コント的手法も取り入れた脚本を、芸人さんじゃなく俳優さんたちが“演じる”。やはり『M』も、そういったことは意識していましたね」