実在する帝都久利寿氏

　4月からネットフリックスで配信されているアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』が好評だ。同作は、'95年に映画が公開されて以来、根強い人気を誇るアニメだ。

人気アニメの新キャラは実在していた!?

「アニメは'02年から不定期で放送されています。人間の脳がネットワークにつながれた未来社会を舞台に、主人公の草薙素子をリーダーとする“攻殻機動隊”が電脳犯罪やテロリストを追う物語。今作は2045年の世界が舞台になっています」（アニメ業界関係者）

　今作には、アメリカ人から帰化して、日本の総理大臣に選ばれた人気キャラクターの久利須・大友・帝都が登場する。実は、このキャラクターには“ある噂”が……。

「一部のファンの間で、“実在するIT起業家をモデルにしているのでは？”と話題になっているんです。外見も、ソックリなんですよ！」（同・アニメ業界関係者）

　その人物は、京都にあるIT企業『コネクトフリー株式会社』のCEOを務める帝都・久利寿氏。なんと、名前まで同じだ。クリス氏（※アニメの久利須と区別するため、以下クリス）は、なぜ、『攻殻機動隊』に“出演”することになったのだろうか。

　本人に話を聞いたところ、自分がモデルであることを認めた。青い目で、鼻筋が通った端正な顔立ちをしている。アニメに登場するに至った経緯はというと……。

「監督の神山健治さんからオファーをいただきました。彼とは、政府主催の会議で知り合ったんですよ。今回出演することになったのは、企業のタイアップなどではなく、神山さんの純粋なアイデアだったんです」

　“政府主催の会議”というあまりなじみのない言葉が飛び込んできた。

　クリス氏は、現在32歳。アメリカのシアトル出身で、クリストファー・テイトの名前を日本風に漢字で表記している。

アニメになるのも納得する「才能」

コーヒー片手に話す帝都久利寿氏

　彼は、なんと4歳からパソコンのシステム開発に携わり、現地の高校を15歳の飛び級で卒業。17歳のときにシリコンバレーで起業した、まさに天才児なのだ。19歳で来日し、会社も設立。4年前から、現在の会社でCEOを務めている。'15年には、内閣官房知的財産戦略推進事務局から有識者として認められている。

　華麗な経歴を持つ彼に、アニメのオファーがあったのは2年前のことだった。

「神山さんからメッセージが届いたんです。《未来において日本を、日本らしくよい国にできる人間は、外国から日本を見ていた人なのではないかと思った。帝都さんをモデルにした総理大臣のキャラクターを登場させたいと考えた》という内容が書かれていました。

　メッセージが届いたのは朝5時だったのですが、着信に気がついてスマホを見たときは、夢だと思いました。目を覚まして、改めてメッセージを読み返して、“現実だったんだ”と気づきました（笑）」

　もともと、『ドラゴンボール』や『新世紀エヴァンゲリオン』など、日本のアニメは見ていたというが、『攻殻機動隊』には特に愛着を持っていて……。

「'95年に公開された映画は見たことがありましたが、ファンになったのは神山さんが監督をされるようになった'02年から。私はアニメで流れる音楽が好きなのですが、『攻殻機動隊』も、菅野よう子さんの音楽の雰囲気に惹かれました。さらに、神山さんのストーリーに魅力を感じて、好きになりました」

　大好きな作品に出た自分を見てなにを思ったのだろうか。

「out -of- body expersince（体外離脱）。外側から自分を見ているような経験でした(笑)」

　久利須は、テロリストと対峙したときに「私は本気でこの国が好きなんだ。この国をもう一度復興させるためなら、何だってやるよ」と語る情熱的な人物だ。クリス氏も、彼に劣らず日本に対する思いは強い。

「私が育ったシアトルは日本人が多い街で、日本には親しみを持っていました。ただ、シリコンバレーで働いていたときに、周囲の人たちは“日本はもう終わった、これからは中国だ”と言っていました。でも、私は、日本が終わりというのは言いすぎではないかと思っていました。そこで、自分の目で確かめようと、日本を訪れたんです」

　来日した際、日本とアメリカの間にコミュニケーションの齟齬(そご)があることに気づいたという。

「日本の産業機械は、'80年代からなにも変わっていないんです。アメリカからみると、それがイノベーションを拒否しているように見える。でも、実際は、日本は信頼性の高さを重視していたんです。日本はアメリカのハイテク技術に期待しているようですが、アメリカのソフトウェアは“システムが止まったら再起動をかければいい”という発想でできているものが多いんです。

　でも、それでは日本の求める信頼性を満たすことはできません。だから、私は、信頼のおけるIT技術を提供すれば、この“ミス・コミュニケーション”を解消できると考えて、日本で起業したんです」

すらっとした身長にナイスガイな帝都久利寿氏

　久利須はクリス氏同様、ITの起業家だったが、大物の政治家に見込まれて彼の娘と結婚し、政治の道に進んだ。クリス氏も、日本の政治に関心があるのだろうか。もしかして、ゆくゆくは政界に……？

「いまは、政治家になろうという考えはありません。私の知り合いで、テクノロジーの役割について理解のある政治家の方が何人かいるので、そういう方たちと協力して仕事をしたいと思っています。ただ、私がもっと年齢を重ねて、自分と一緒に仕事をしてきた政治家の人たちがリタイアして、いなくなってしまったら、自分でなにかしなくてはと思うかもしれません」

　イケメンで、華麗な経歴を持っているけど、彼の左手の薬指に指輪はない。

「私は独身ですよ。でも、私も誰かの父親に見込まれてしまったら、結婚することになるかもしれませんね（笑）」

　人気アニメのモデルとなった天才の素顔は、フランクながら、熱い夢を語る情熱家だった。

（取材／文 アニメ評論家 藤津亮太）