先月に発表された「NEWクレラップ」のメッセージ・ムービー『僕は手伝わない』編が、SNSで話題になっている。
ムービーは夕飯の残りをラップして冷蔵庫にしまい、皿洗いをする男性の姿から始まる。
連れ合いの女性は娘を寝かしつけ中。翌朝には「じゃ、パパ行ってくるね」という女性の背中に「行ってらっしゃい!」と言いながら男性はゴミを袋にまとめ、娘を保育園へ。
でも、画面に出る文字は、
「僕は手伝わない」
そして再び男性が夕飯の皿洗いをする姿に重なる文字は、
「手伝う、じゃなく僕もやるのが当たり前だと思うから」
と続く。
これまでの企業広告が描く家庭での夫婦像から一歩進んだ感のある、新しいメッセージだ。
製作の意図をクレハに聞いた
ネットなどに寄せられた声には、
「Youtubeの広告に出てきた『僕は手伝わない』がよくて、最後まで観てしまった」
「お父さんとお母さんが対等で素敵だ」
「子どもはふたりのもの。お母さんだけが子育てはおかしい」
「あたたかくて、素敵。感動しました。うちも共働きなので夫に見せたい。こんな家庭になれたらいいな」
と、CMで描かれるあり方に共感を示す声が多く集まっている。
一体これは、どういう意図で作られたんだろか。製作したクレハに聞いてみた。
「長い歴史を持つ家庭用品として、その時代その時代の家庭にぴったりと寄り添っていくというブランドの想いを伝えようと、ご利用者さま層と重なる年代を中心に、家庭をお持ちの男女に、いま家庭内でどのようなことが起きているか、どのような思いを抱いているのかヒアリングしました。
その中で、家事への参加意識を持ち、実際参加している男性も増えてはいるけれど、女性の立場からすると『まだまだ』と感じている方が多く、しかもそのズレが大きそうだということが見えてきました。その分担意識のギャップにこそ、家庭用品ブランドとして何らかの答えを差し出すべきものがあるのではないかと考え、『男性の自発的な家事参加』を描くことにしました」(株式会社クレハ 包装材事業部/企画・管理部:小林夏樹さん)
おっしゃるとおり、分担意識のギャップは大きな問題だ。緊急事態宣言下での保育園閉園に伴う問題を取り上げたとき(学校だけじゃない!緊急事態宣言延長で軽視される「保育」の現場に響く苦悩の声 https://www.jprime.jp/articles/-/17863)女性たちの声を聞いて、今この「新しい生活様式」と呼ばれる中でも分担意識が「昭和」のままな家庭が多いことに驚かされた。
「夫は在宅勤務の大変さを理解していないようで、“家にいる=休み”だと勘違いしているのか、こっちの苦労をわかってくれない。子どもの面倒をみながら仕事ができるわけがない」(40代/会社員)
「夫は家事育児ができないため、私は在宅ワークをしながら毎日、掃除と洗濯、3度の食事作り。夫はご飯を食べて子どもと遊ぶだけの毎日です」(40代/派遣社員)
いや、もう、このムービーとは雲泥の差。現実は厳しい。クレハ側もムービーを作るにあたっては、
「女性から見るとまだまだ足りない部分もある男性の家事・育児参加ではありますが……男性の家事・育児参加を促し、また、すでにしている方を応援する動画として、『男性を悪者にすることは絶対するまい』と考えました。またヒアリングの中で『対等なパートナーとして“一緒にやる”』ことを女性が望んでいることがわかり、どっちがやるとかではなく、『家族が助け合いながら一緒にやることを、あたりまえにしたい』という想いをこめました」
と気配りをしたという。
男性、お父さん側が感じたこと
たしかに男性を悪者にしがちな、こうした家事育児分担問題。取材する側もついつい女性の声を拾ってしまうが、では、男性はどう思っているのか? このムービーを見て、どう感じたかを男性、お父さん側に聞いてみた。
「夫婦ともに主体的に家事をこなし、二人で子育てしている様子に好感を持ちました。
こうした生活のための商品を作っている会社の企業広告で、男性側の目線で家事・育児を描いたものはなかったと思います。『家族のカタチも仕事のカタチも変わったのだから、僕たちのカタチも変われるはず』というメッセージはとてもいいです」
そう話してくれたのは、Twitter発、子育て中のお父さんの交流イベント、#ゆるゆるお父さん遠足を発案し、公式サイト運営メンバーのひとりである「子育てとーさん(@kosodate10_3)」さん。6歳の男の子と3歳の女の子のお父さんで、やはりこのムービーを好意的に見ているようだ。ちなみに、ムービーを作った監督も男性だそう。
「子育てとーさん」さん自身、以前は家事育児に全く参加しなかったものの、今では「ワンオペでもある程度まわせる」ようになるほど、家事や子育てをこなしている。
「共働き、かつ会社がフルリモート体制なので、家事はよくする方です。でも、元々は妻が専業主婦だったこともあり、子どもが生まれた後は家族を養わねばという気持ちが先行してかなり仕事を頑張り、家事育児を妻に丸投げ。家庭不和になったりもしたのですが、お金よりも共に育てるということの大切さに気づかされ、トライアンドエラーをくり返しながら前進してきました」
「NEWクレラップ」のムービーでは女性が仕事に早朝から出かけた日、男性が家事を一切こなしながら、画面に「けっこう完璧、」という文字が出る。でも、その直後に置き去りにされた洗い物と、子どもを寝かしつけながら寝てしまった男性の姿が映って、「…とは、いかないけれど」と続く。
前出のクレハの小林さんは、
「家事分担を描くというのは、なかなか難しいものでした。分担の意思や状況はご家庭ごとに大きく違い、一概には語ることができません。ひとまとめにしてしまうことで、共感されなくなることは避けたいところでした」
と、バランスをとることに注意を払ったと話してくれたが、「子育てとーさん」さんも、そうしたバランスのとり方について試行錯誤してきたそうだ。
「自分としては家庭内での家事育児のクオリティーの最低レベルをそろえ、共通認識とすることが大切ではないかと思っています。双方が最低限同じようにこなせて、行うべきタイミングも各自で判断する、それが出来たらお互いの負担も減るのかな? と感じます。
最終的には家族内でどうコミュニケーションが取れているかが大切です。何より目の前にいるパートナーに目を向け、適切にコミュニケーションを取れば、双方のズレみたいなものもいずれは解消されていくのでは? なんて偉そうに言ってますが、自分は盛大にそのへんのコミュニケーションがうまく取れず、妻には辛い思いをたくさんさせてしまいました」
コロナが変えた家族のカタチ
そうした経験を経て、「子育てとーさん」さんは、#ゆるゆるお父さん遠足を広めていければ、と考えている。
「#ゆるゆるお父さん遠足は、お父さんたちの家事育児情報を共有するため、とかそう確固たる理念や目的があって行われる活動ではありません。ネットでゆるく募集して、男親だけで子どもを連れて遠足に行く。実際に参加したお父さん同士でその場でゆっくり話すことも、あまりありません。そこに参加したからといって友達になれるというわけでもないんです。でも、確かに子どもたちを大切に思い、育児に取り組むお父さんがいる、というのを肌で感じることができます」
「僕は手伝わない」が描く姿があたりまえの日常になるには、そういうお父さんたちの連携による“子育て実感”がとても大切になってくるんじゃないだろうか? ママ友はよく聞くが、パパ友はなかなか聞かない。仕事を抜きにして横につながるのが、男性は苦手だともいう。
でも、コロナと共にある時代にあって、お父さんたちが家庭にいる時間も増えた。子どもと出かけた公園で、お父さん同士の付き合いも生まれてくるかもしれない。そこで、子育て実感や情報を共有し合い、新たな家庭像が育っていけたらいい。「子育てとーさん」さんは、そういう日常が当たり前になってほしいという。
「#ゆるゆるお父さん遠足でも、お父さんの子育てを普通のことにして、ネットだけではなくリアルにほかのお父さんと話したり、パートナーに自由時間を作っていく、というのを目的にして、これからもゆるく続けていきたいと思います」
「僕は手伝わない」の家庭像はコロナの時代に、ゆるゆると育ち始めた。
「NEWクレラップ」のムービーを改めて見て、どの家もこんなふうだったらお互いがお互いを自然に思いやることが家の中から外にも広がって、もっと暮らしやすい社会を築いていけるんじゃないか、と思った。ちなみにバッグで流れる美しい歌は、清水悠さんという女性シンガーの『ライフ』という曲。これも、とってもいい感じだ。
〈取材・文/和田靜香〉