お店にとって、厄介なクレーム問題。受けているクレームが、まっとうなのか、ブラックなのかーー。いま、こうした事情につけこむ詐欺も横行しています。消費者意識の高まりのなかで、クレーム対応を誤れればSNSに書き込まれ、風評被害も受けかねず、対応に苦慮するお店が増えています。トラブルに遭わないためにはどうしたらいいのか。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト・多田文明さんに聞きました。

※写真はイメージです

 ここ最近では、クレームと見せかけて金銭をだまし取るといったブラックなケースが多々、見られます。 

 今年、カップルで飲食店を訪れ、鞄や服が「濡れた! 汚れた!」と言いがかりをつけて、クーリング代として数千円~数万円をだまし取っていたとして、中年の男女が逮捕されました。5年ほど前から全国各地を行脚しながら、同様の手口を繰り返していたといいます。

 このほかにも、お店に「ケーキにプラスチックが入っていて、子どもがケガをした」と嘘の電話をかけて、6000円をだまし取った夫婦が逮捕されたケースもありました。

グレークレーマーから“ブラック化”
豹変するケースも

 実際のところ、このようなブラックなクレームを受けて、お金を払って被害に遭ったところもあれば、要求を毅然と断り撃退したお店もあります。そこには、どんな違いがあるのでしょうか。 

 実務経験者が漫画で解説している『グレークレームを“ありがとう!”に変える対応術』(日本経済新聞出版のなかで、暴力的で過剰な要求をする「ブラック」とまではいえないけれど、善良な人が行う「グレー」なクレームが増えてきているといいます。しかも、やっかいなことに、クレーム対応を誤れば、お客がグレーから一気にブラッククレーマーに変容してしまう可能性も。 

 また、クレームをする人の性格を「思い込み・勘違いから主張をするタイプ」「自分への便宜を受け入れてもらうために威圧的な言動をする攻撃型」「ストレスを発散するために、相手へのクレームを行う」などに分け、それぞれタイプ別に対応方法を紹介しています。 

 このように相手のタイプを知り、それに合わせた形の対応を知っておくと、いざクレームが発生したときに、余裕を持った対応ができます。

 これは詐欺の現場でも通用することです。私はこれまで詐欺の実態を取材するためにさまざまな場所へ潜入してきましたが、そこでいろいろなタイプの人から勧誘を受けました。

 基本的に勧誘の手口をすべて聞き出したうえで最後に断るわけですが、相手が思い込みの激しい感情の起伏がある人だった場合、いざ断ろうとすると「あなたは、さっきまでいい話だと言って聞いたのに、なぜ断るんだ!」と激高してきて、口論になります。
 
 経験上、こうならないためにも、このタイプの人には安易に「いい話ですね」と頷かず、話を聞くようにしています。「ふ~ん」「はあ」と一歩引いた形で頷くことで、相手も「この契約に脈なしかな?」と思いながら話すので、最後に断ってもあまり感情的な論争にはなりません。このように、相手の性格を読み解いたうえで対応することはとても大事なのです。

基本は「三現主義」

 先ほど、お金を払ってしまう店とそうでないところがあると話しましたが、その違いは、事前にクレーム客への対応基準を考えているか否かが大きいといえます。

 店側の対応基準(ポリシー)を明確にしておき、場当たり的な形でのクレーム対応はせず、「企業として『できること・できないこと』」を事前に決めておく(同書)ということは、とても重要なのです。

 たとえば、コロナの影響で、いまテイクアウトをするお客さんは多いかと思います。不手際があって「トッピングなどの一部の商品が入っていなかった」場合、客側から「今すぐに、もうひとつ、商品を持ってこい」と言われるかもしれません。

 そのとき、「はい、わかりました!」と即座に答えて、お客の要求どおりにすぐ商品を持っていかず、事前にお店側で決めていたルールにのっとった対応をします。

「ご足労ですが、再度、お店にレシートと商品をご持参いただき、確認させてください」

 このようにクレーム対応として大事なことは、相手の話を一方的に聞くだけでなく、「どのような不具合があるのか、現物を確認できない状態では、申し出には対応しない」ということ。「現場」で「現物」を「現実」に基づいて判断する「三現主義」を基本とします(同書)。もちろん、相手のクレーム内容の状況によっては、対応ポリシーにのっとって、その後に配達という手段も考えられます。

 昨今は、「SNSに書き込むよ」とさらしをちらつかせて、脅すケースもありますが、クレームが受け入れられないものであれば、対応ポリシーに照らして合わせて毅然とした態度で接します。過剰要求には答える必要はなく、場合によっては、脅迫や業務妨害などの法的な対応も可能となることも知っておくとよいでしょう。

 特に、この過剰要求には答えない。これがクレーム詐欺の被害に遭わないために大事なことなのです。
 
 詐欺を行う者たちも、お店側がどういう対応をしているのか見て、要求を釣り上げてきます。もしクレームの対応基準があり、毅然とした態度を取られて難しいと思えば、引きさがりますし、逆に対応に隙ありとみられてしまえば、そこにつけ入れられて、だまされてしまうことになるのです。

 おそらく話を受けた時点では、ブラックとは言い切れないグレークレームの状況であるでしょうから、それに対する対処をしっかりとすることで、詐欺も防げるのです。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。