「会うと必ずニコっと笑って、深々とおじぎをして挨拶してくれる。最近では珍しいくらい、いい子だったのに……」
そう近所の人々が嘆き悲しむのは、無残にも刺殺された山田未来さんのこと。
今年1月、沼津警察署に相談
事件は6月27日の真っ昼間の1時20分ごろ、静岡県沼津市郊外のみかん畑が広がるのどかな海沿いの集落で起きた。コンビニでアルバイトを終えた未来さんが、取りたての免許で運転していた母親の車から降りた直後だった。
自宅から70メートルほど離れた狭い路地で待ち伏せしていた堀藍容疑者が、猛然と刃物で襲いかかったのだった。
「助けてください、助けてください!」
と、未来さんの叫び声が静かな住宅街に響き渡ったが、容疑者は未来さんに馬乗りの状態になったまま、刺し続けた。背中など傷は10か所にも及んだという……。
未来さんは病院に搬送されたが、約2時間後に失血死。
当初、堀容疑者は殺人未遂で現行犯逮捕されたが、殺人容疑に切り替わった。
全国紙の社会部記者が次のように説明する。
「容疑者は犯行については認めているようですが、詳細な動機についてはまだ供述していません。2人とも静岡の三島市にある日本大学国際関係学部の国際教養学科2年生です。顔見知りだったと思われますが、容疑者が一方的に好意を寄せていたうえでの“暴発”だったようです」
未来さんは今年1月、「自分の電話番号を店舗の落書きやSNSに書き込まれる」などと沼津警察署に相談していたが、堀容疑者の名前は出なかったという。
地元では有数のみかん農家の長女として生まれた未来さんは、80歳近い祖父母と、両親、高校生と中学生の弟と同居していた。
「未来ちゃんはおじいちゃん、おばあちゃんっ子。ここらで若い子は高校を出るとほとんどが都会へ出てしまうが、彼女はホントに優しい子だったから、自宅を離れなかったんじゃないの。以前は免許がなかったので、お父さんがアルバイト先まで送迎していてね。家族仲もとてもよかった」(近所の住民)
小学校時代は、読書感想文で賞をとったこともある成績優秀な子どもだった。
「でも、中学校の後半は学校を休みがちだったそうです。何があったのか、理由はわからないけど」(同級生の父親)
容疑者が抱えていた持病
大学では、社交的な性格で友人も多かったという未来さんを殺めた容疑者は一体、どのような人物なのか─。
事件現場から北に15キロほどの三島市のキャンパスに近いアパートに暮らしていた堀容疑者。
大学ではボランティアサークルに入っていたが、女子学生にわいせつ画像を見せつけたトラブルもあったとも報じられている。
そこからさらに北へ60キロほど─。富士山を望む山梨県の河口湖のそばで容疑者は育った。
地元の小・中学校の同級生は、容疑者について次のように述懐する。
「両親と3つ年上の兄とアパートで暮らしていた。怒ったりキレたりするところは、1度も見たことないです。あまりしゃべらずおとなしくて、優しいやつでしたね。野球が好きで、小さいころは一緒にキャッチボールをして遊びました。勉強はまあまあできましたが、おとなしく、目立つタイプではなかった。いつもニコニコしているから、友達の間では愛されキャラでいじられキャラ。先生からも評判がよかったです」
当時、異性との接触はほとんどなかったようだ。
「女の子と話している姿は見たことない。誰が好きとかも聞いたことないし、女の子に人気があるということもなかった」(同級生)
彼らが今回の事件を「信じられない」と驚くのには、容疑者の持病とのギャップがあるからだ。
「堀は小さいときから身体が弱くて、心臓にペースメーカーを入れていたんです。だから、激しい運動はできなくて、体育の球技は見学していました」(同)
そんな身体で、あのような事件を起こすとは、よほどの出来事があったのだろうか。
物事にのめり込みやすい性格は当時からあったようだ。
同級生が続ける。
「西武ライオンズが大好きで、ファンクラブにも入会していました。1年に何回も所沢(埼玉県)のメットライフドームまで観戦に行ってましたよ」
ハンディキャップを抱えていたがそこまで野球好きであれば当然、中学の部活動は野球部となる。
野球部の仲間が証言する
「中学校では野球部に入ったんですが、一緒にやるのは最初のキャッチボールぐらい。ポジションは一応、サードでしたが、1度も試合に出ていないし、試合ではスコアをつけるなど、マネージャー的なことをやっていた。仲間とはうちとけて楽しくやっていましたけどね」
犯行前に2つのグループLINEから脱退
中学校を卒業するころ、容疑者一家は父親の転勤で茨城県に引っ越すことに。容疑者が進学したのは、甲子園常連の有名私立高校だった。野球部にこそ入らなかったが、思い入れがあったのかも。
しかし、そのころから精神のバランスを崩していたようだと、前出の同級生が話す。
「堀は、4年ほど前に、闇サイトや精神的に病んでいる人のツイートに、リツイートや妙な書き込みをしていた。すでに削除されていますが、大丈夫かなと心配でした」
さらには、事件の予兆と思われる出来事も。今年1月、未来さんが警察署にトラブルを相談していたころの話だ。
「そのころ、中学時代の同級生のLINEのグループから彼が突然、脱退したんです。どうしたんだろうと思いました」(同)
LINEグループは1度に、複数の人たちとやりとりができる機能だが、自分からみなとの交流を絶ったことになる。
前述のように、未来さんの相談が容疑者によるものかは不明だが、不気味な一致はもうひとつある。
今回の犯行の2週間ほど前のこと─。
「堀は中学校の野球部のLINEグループからも急に抜けてしまったんです」(前出・野球部仲間)
犯行を目論んで、堀容疑者は着々と“身辺整理”を行っていたのか。だとすると、激情に任せてというより、半年前からの計画性もうかがえる。
容疑者は事件前、未来さんのLINEの連絡先を知り、執拗に連絡をとろうとしていたとの情報もある。
そんなSNSに頼ったアプローチと思い込みの強さに、未来さんが拒否感を示し、堀容疑者から逆恨みを買っていたとしたら、そんな理不尽なことはない……。