浜崎あゆみがスターになるまでを描いたドラマが先日、最終回を迎えたが、原作となった小説にも注目が集まっている。「平成の歌姫の人生を描くまでには、多くの苦労もあった」という作者の小松氏に、今だから話せるあゆへの思いを聞いてみると―。
初めて語った原作者の気持ち
「昨年5月に歌手デビューした安斉かれんさんが主役の“あゆ”を演じ、彼女が恋するプロデューサーのマサ役を三浦翔平さん、彼の秘書役を田中みな実さんが演じました。濃すぎるキャラクターや、女性同士のいじめや嫉妬など、ドロドロしたストーリーがSNSで話題になりましたね」(スポーツ紙記者)
7月4日、浜崎あゆみがスターになるまでの裏側を描いたドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)が最終回を迎えた。
実は、このドラマには、原作がある。
「昨年の8月1日に発売された、ノンフィクション作家の小松成美さんによる事実を基にした恋愛小説です。浜崎さんが、事務所の社長である松浦勝人さんと恋に落ち、別れに至るまでを浜崎さんの視点による一人称形式で書いています」(同・スポーツ紙記者)
小松氏のもとに執筆のオファーがあったのは、'18年の8月初旬のことだった。
「幻冬舎の社長の見城徹さんから“書いてほしい本がある”というお電話をいただいたことがきっかけでした。内容を聞いたところ、“松浦さんと浜崎さんがひそかに交際していた当時のことを、ドラマにしようという話になった。それには原作が必要なんだ”ということでした」(小松氏、以下同)
ふたりが付き合っていたことは、この本で初めて明らかになった。そんな重要な仕事を任された心境はというと、
「すごくうれしかったです。ただ、私は松浦さんにお会いしたことはなく、浜崎さんに関しても、ヒットソングの数々は聴いていましたが、彼女のことはライブ『a-nation』でしか見たことがありませんでした。それなのに、ふたりの人生の最も大切であろう秘密を私が書いていいのかと思いました」
浜崎と松浦氏に初めて会ったのは、電話でオファーを受けた数週間後のことだったという。それから、取材を重ねていった。
「ふたり一緒にインタビューもしましたし、'18年は浜崎さんの20周年ツアーの最中だったので、その合間に時間を取っていただいたこともありました。最初は“何を話せばいいのかな……”と戸惑っていましたが、当時の出来事は、2人とも手帳や日記を見ることなく鮮明に覚えていました。
ふたりで当時のやりとりについて話しながら、“あゆはそんなつもりじゃなかった”と言って“検証”する場面もあり、見ていてすごくドキドキしましたね」
実際に“平成の歌姫”に会った印象はというと、
「本当にかわいい方で、輝いていました。小柄で愛らしいのですが、多くの人の心を動かす力強さのようなものも感じました。当時のことを話す際は、ときどき頬を赤くして恥ずかしがったり、笑ったりしていました」
歌姫になるために犠牲にしたもの
終始、楽しそうに話していたが、つらい記憶もあったようで……。
「おばあさんが亡くなった話をするときは、涙を流していました。おばあさんがもう危ないというときに、デビュー曲のレコーディングがあって福岡に帰ることができず、死に目にあえなかったんです。当時のインタビューでも、“私は、おばあちゃんがいたから生きてこられた”と話していました」
貴重な本を世に出すために動く中で、行き詰まってしまったこともあったという。
「この本は浜崎さんの一人称になっています。そのため、彼女が発した言葉が中心になり、そのほかは調べたことや私が想像したものです。私が彼女の心を書ききってしまっていいのかと思うようになりました。そんな思いから、2日間、福岡に失踪したことも(笑)。
でも、浜崎さんの地元である福岡で以前住んでいたところやゆかりのある場所を回って、彼女のルーツがわかりました。気持ちを切り替えることができましたし、地元に足を運んだからこそ書けることもありました」
取材を重ねるうちに、彼女たちにこんな思いを持つようになった。
「本だと長く感じるかもしれませんが、ふたりが付き合っていたのは2年間でした。一緒に暮らしたり、幸せに過ごせたのはほんの短い時間だったんです。今のまま、当時まで時間が戻れば、スマートフォンなどもあるので、ふたりの気持ちがすれ違うこともなかったかもしれません。
同時に、ふたりともプロに徹し、別れを決める精神を垣間見て、尊敬の思いが深まりました。浜崎さんが平成の歌姫になるまでにはいろいろな犠牲や悲しいことがあったと知り、崇高な気持ちになりましたね」
田中みな実の怪演や過激なストーリーについて
ドラマは原作を基にしているが、オリジナル要素が多く、少々過激な内容になっている。原作者として、戸惑うことはなかったのだろうか。
「ドラマ化する時点でエンターテイメントになるので、初めて台本を読んだときも気になりませんでした。脚本を担当された鈴木おさむさんにも、“自由に作ってください”とお伝えしましたから。連続ドラマであれば、女性同士の対立も物語を盛り上げる要素になるので、ドラマは終始、楽しく見ていましたよ」
ただ、やはり“あの人”の怪演は印象に残っているようで……。
「原作では、田中さん演じる秘書は数行しか出てきませんが、ドラマでは眼帯をつけて、あゆへの嫉妬に狂う恋敵というキャラクターだったので、強烈でしたね(笑)」
実は、田中とはドラマが放送される前に会ったことがあるという。
「TBSラジオで放送されている『田中みな実 あったかタイム』に出演させていただき、お話ししました。彼女は“小松さんが大切に取材されてきた浜崎さんの物語に関われて、とてもうれしいです。私は子どものころから浜崎さんの曲を聴いていましたから”と喜んでくれましたね。ただ、“私が演じる役は原作とドラマの違いを象徴するような役柄なので、少し不安です”とも話していましたよ」
最後に、これから原作を読む人に向けたメッセージをもらった。
「ドラマはエンターテイメント性が高く、楽しんでいただけたと思います。小説はそこに至る過程や当時の世間の動き、時代背景をより詳しく書いています。ふたりがどんな犠牲を払って、何を守っていたかをより知っていただけると思うので、ぜひ手に取って読んでいただきたいです」
すでにドラマを見たファンも、いま原作を読むことで新たな発見があるかも!