認証商品がずらりと並ぶイオンの特設コーナー『フィッシュバトン』

 今、食卓から「魚が消える日」が囁(ささや)かれているのをご存じだろうか。魚や貝が成長するスピードを上回る形でとりすぎる“乱獲”が続き、資源枯渇(こかつ)が深刻だ。

真いわしや真さばが消える!?

「例年約3万人が集う『目黒のさんま祭り』で昨年初めて、天然ではなく冷凍保存のサンマが使われました。サンマはここ3年で激減しているんです」

 そう指摘するのは、環境保全団体『WWFジャパン』海洋水産グループの前川聡さん。日本近海でとれる約60種のうち約半数が乱獲傾向にあるという。

「'89年以降、日本の漁獲生産量は減少続き。科学者が資源の回復力を考え、一定期間内に漁獲していい総量を勧告しますが、国が漁業者の短期的な利益を優先し、その数を上回る漁獲量を設定してきたためです」(前川さん、以下同)

 現在、欧米、オセアニアでは資源保護のために定める漁獲可能量(TAC)を、数百種の魚に指定する国もある。

 一方、日本で法律により漁獲可能量(TAC)が管理されているのは、マイワシ、マサバ、ゴマサバ、マアジ、ズワイガニ、スルメイカ、スケソウダラ、の7種のみ。国際水準と比べ、規制は緩いといえる。

 そのほか、漁業では“混獲”も多発している。海鳥、オットセイ、イルカ、小魚など目的外の生物が網漁や釣り針にかかってしまう問題だ。年間推計40万羽の海鳥が犠牲になっているという。

 乱獲や混獲問題の解決に努め、持続可能で環境に配慮した漁業によってとられた水産物の証(あかし)がある。海のエコラベル『MSC』認証だ。

 ミニストップが認証具材を使用したおにぎりを販売するほか、セブン-イレブンでは辛子明太子などの認証商品を展開している。

 また、養殖の水産物に与えられる『ASC』認証も覚えてほしい、と前川さん。

「ASC認証は、養殖場をつくる過程で起きる自然破壊や排水による環境汚染、エサとなる小魚の乱獲への配慮が条件。養殖マグロ1キロ育てるのに15キロの子魚が必要といわれています。水産加工場で余った小魚の内臓や頭を再利用したり、トウモロコシや大豆を魚粉がわりに混ぜるなど工夫する養殖場もあります」

 MSC、ASCともに認証つきの商品を扱う企業は少しずつ増えている。

 スウェーデン発祥の家具店『イケア』ではレストランや販売エリアで扱うすべてのシーフードが認証魚だ。

 イオンでは認証商品を集めた「フィッシュバトン」コーナーを展開。現在、MSC認証43品、ASC認証21品で水産商品全体の1割を占める。

「マルハニチロやニッスイからは、MSC認証つきの加工食品も出ています。ラベルつき商品を買い物の際にぜひ探してみてください」

罠にかかり死んだ9歳のアジアゾウ。農園を踏み荒らす被害を防ぐため、罠が仕掛けられている

レトルト食品、アイスが森を壊す

 インスタント麺や菓子パン、カレーやシチューなどのレトルト食品、スナック菓子、アイスクリームなど、スーパーに並ぶ商品の約半分に含まれているという『パーム油』。

 コンビニやスーパーで売られるお惣菜の揚げ油としても使われている。トロッとした食感もサクサクした食感も出せ、生産効率が高い万能油だ。

 この世界で最も安価で重宝される油が、地球温暖化を加速させている。

「パーム油は化粧品や洗剤など日用品にも含まれますが、日本では8割が食品に使われています。実際の原料表示欄では、ショートニング、マーガリン、植物油脂、乳化剤、香料などの名称になっているため、一般的にパーム油という名前にはなじみのない方が多いのではないでしょうか」

『WWFジャパン』森林グループの伊藤小百合さんは、消費者にもその生産過程に目を向けてほしいと訴える。

 現在、世界で消費されるパーム油の85%がマレーシアとインドネシアの2か国で生産されている。原料はアブラヤシ。熱帯雨林や隣接する泥炭(でいたん)湿地を農園へと開拓する際、メタンガスを含む大量の温室効果ガスが発生するという。

「泥炭湿地から水を抜き、乾いたら火を放つ。これが安くて早い整地方法ですが、泥炭地には多くの炭素が蓄えられていて、こうした火災で日本が1年間に出す温室効果ガスの排出量を上回る年もあります」(伊藤さん、以下同)

 無計画な農園拡大はオランウータン、アジアゾウ、トラなどの野生動物の命も奪ってきた。すみかを奪われた動物は農園に踏み入るため、害獣として殺されてしまうのだ。

 人と動物の距離が近づくことは、未知のウイルス蔓延(まんえん)を招くことにもつながる。

「人の生活圏にないウイルスが野生動物から人にうつり、感染爆発を起こすといった森林破壊のリスクは、ずっと昔から議論されてきました。もう遠い国の出来事とは言えなくなっています」

 農園での強制労働や児童労働も深刻になる中、'04年にWWFと欧州企業などが「持続可能なパーム油のための円卓会議(『RSPO』)を設立。

 環境や人権を守る国際基準を設けた認証制度も始まった。

 今年2月、日清食品のカップヌードルが全工場でRSPO認証パーム油の使用を開始。エスビー食品はカレーなどに使うパーム油を2023年までに100%認証油に切り替えると宣言している。食品業界では持続可能なパーム油調達に意欲をみせる企業が増えているが、認証マークつき商品の展開は限定的だ。

「“消費者の認知がないのでは”とマークをつけない企業も多い。パーム油自体が悪いわけではないので、消費者が関心を示すことで、認証マークつきの商品が増えれば、生産現場の改善を、買い物で後押しできると思います」

カカオ農家で働く子どもたちは、農薬の塗布や刃物の使用など身体に危険をもたらす可能性が高い仕事もさせられている

チョコレートの奴隷になる子どもたち

「今すぐここから抜け出したい……」

 児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO『ACE』の事務局長・白木朋子さんは、ガーナで出会った少年たちのSOSに胸を衝(つ)かれた。

 11歳と14歳の少年2人は、ガーナ北部の親元を離れ、南部のカカオ農家で強制労働をさせられていた。雇い主は、2人を学校に通わせると親に口約束していたという。

「ひとりは家を出るときにお父さんの携帯番号を書いたメモをシャツの胸ポケットに入れていたんですけど、バス移動で寝ている間になくなっていて“親と連絡をとりたい”と頼んでも聞いてもらえなかった。人身売買はこうして行われているんです」(白木さん、以下同)

 世界第1位、2位のカカオ生産国であるコートジボワールとガーナだけでも、義務教育を受けられず、危険な労働を余儀なくされる18歳未満の児童労働者は約222万人にのぼる。学校に通いながら働く子もいるが、「毎日とにかく疲れる」と嘆いている。

 籠(かご)に入れた20キロ前後のカカオの実を炎天下、数時間歩いて運ぶ重労働も子どもにやらせる仕事のひとつだ。

「地面に置いた籠を子どもが自分で頭の上にのせることができる重量しか運ばせてはいけない決まりがあるのですが、試しに地面に置いてみてもらうと持ち上げられない。大人が子どもの頭の上にのせているからです」

 こうした児童労働が蔓延する根底には、不公平な貿易とカカオ豆の低すぎる価格設定がある。貧困状態にある農園は子どもを労働力として動員せざるをえないのだ。

 そこで私たち消費者が注目したいのは、発展途上国の作物や製品を適正な価格で取引し、生産者の生活向上を支える国際認証『フェアトレード』だ。ワインやコーヒー、スパイスなどの商品も認証ラベルの対象となっている。

 イオンやセブン-イレブンも同認証チョコレートを展開。

 また、森永製菓はバレンタイン特別期間を中心に売り上げの一部を児童労働撤廃に取り組む『ACE』などの団体に寄付。

 ロッテはフェアカカオの割合を2028年までに50%以上にする目標を公表している。

 今年3月より、ブラックサンダーでおなじみの有楽製菓は、商品の一部を児童労働のないカカオ原料に切り替える取り組みを始めたばかりだ。

「5回の買い物のうち1回を認証つきの商品にしたり、好きなメーカーや小売店に意見を届けることも消費者にできるアクションです。チョコを味わう人の幸福感と生産者が抱える苦悩。その落差をなくそうとする取り組みを買うことで応援してほしい」