「ママが倒れてて死んじゃう! 男が怒って刺した!」
助けを求めてそう泣き叫ぶ男児。それを聞きつけた同じ県営住宅の70代の住人は、
「ワシがその子と一緒に行ったら、部屋の中で母親がベッドの上であおむけに倒れとって、腹のあたりが血で真っ赤に染まっとった。でも、手が動いとったから、まだ生きとる思うて、すぐ119番したんや」
と証言したが……。
「凶暴でいいところがない男」
7月12日の日曜日の午後1時33分、消防署からの通報を受けた兵庫県警飾磨署員も出動し、姫路市の田口朱音さんはすぐに病院へ搬送されたが、すでに手遅れ……。
死因は刃物で腹部を2か所刺されたことによる急性失血死で、ほかに両腕には傷があり、首には押さえられた痕もあったという朱音さん。
殺人容疑で逮捕されたのは、吉直優一容疑者で、事件直後に朱音さんの車で京都まで逃走したが、約5時間後に京都府警上京署にみずから出頭。
「彼女と付き合っていたが、別れ話になってカッとなり、部屋にあった包丁で刺した。殺すつもりだった」
などと供述している。
ふたりは姫路の同じキャバクラに勤務していた時期があったが、
「付き合っていたとはとうてい思えません。朱音さんが、あんな凶暴で、いいところがない男と付き合うはずがない。仕事上の上下関係を持ち込んで、強引に転がり込んだり、つきまとったりしていたのだと思います」
と2人を知る関係者。
警察が発表した吉直容疑者の住所は不定なので、一緒に暮らしていたわけではないようだ。
6月には容疑者が朱音さんに暴力を働いたとして、被害届を提出したが、朱音さんは容疑者のことを「知人」と書いていた。
容疑者のフェイスブック上の既婚や独身を示す「交際ステータス」は、「交際中」となっており、それが朱音さんのことなのかは不明だ。
容疑者の一方的な“思い込み”が犯行の原因になったことが考えられるが、朱音さんが避けていた理由がもうひとつある。
「実は男には前科があり、2006年に大阪市でタクシー強盗をして、'09年に強盗致傷の罪で逮捕されています」(地元メディアの記者)
出所後、姫路市などで水商売をするグループ会社の幹部におさまり、朱音さんとの接点が生まれた。しかし粗暴な行為を繰り返していたようだ。
日中は会社員、夜はキャバクラ勤務
朱音さんはそんな容疑者に嫌気がさして、2年前に店を辞め、保険会社の外交員になっている。
「それでも容疑者がしつこくまとわりついてね。辞めさせないように圧力をかけてきた。保険会社といっても彼女は素人やからすぐには稼げんし、連れ戻しに屈した形で復帰したんや」(前出・関係者)
この関係者が続ける。
「暴力を受けた別の従業員が被害届を出しても、無理やり取り下げさせた。朱音さんが6月に出した被害届も、同じ手口やったと思う」
とんだ男に目をつけられた朱音さんだが、姫路を離れなかったのは家族や友人がいる故郷だったからかもしれない。
朱音さんは今回の事件現場近くで生まれ育った。
「明るくて、ちょっとやんちゃな感じで、派手な6、7人のグループに入っていた。ヤンキーやないけど、茶髪で、いつもキャピキャピして活発で目立つグループで、先生をからかったり、困らせたりしとった」(中学校の同級生)
高校に進学すると、18歳のころに男児を出産した。
「相手は水商売ではなく、普通の方だったと聞いています。周りの支援もあったのか、高校はきちんと卒業したみたいやね」(実家近所の主婦)
シングルマザーとしてキャバクラで働きながら子育てを。最近では、日中は会社員をしながら、夜はキャバクラで生活費を捻出していた。
店のプロフィールには、趣味「美容にお金をかけること」、好きな芸能人「竹野内豊」「玉山鉄二」などと書かれていて、ブログによるとコロナ禍の時期も出勤していたようだ。
自宅近所の女性はこう涙ぐみながら話す。
「忙しいなか、田口さんは子どもさんの幼稚園は必ず車で迎えに行ってました。車から降りてくるふたりは、ホンマに仲ええ親子やいう感じやったよ」
実は事件当日の夜は、6歳の息子の誕生日パーティーが行われる予定だったという。
よりによってそんな日に、息子の目の前で刺し殺された朱音さんの無念を思うと、とてもやり切れない。