ティファニー・レイチェルさん

 世界中に拡大している、黒人への暴力に抗議するデモ「ブラック・ライブズ・マター」には日本でも多くの有名人が賛同している。しかし、実際に日本で生活している黒人の人々が何を感じ、どんな日々を過ごしているのかはあまり明らかになっていない。そこで、YouTuberのティファニー・レイチェルさんに“本音”を話してもらった。

アメリカの黒人差別は根の深さが違う

 ティファニー・レイチェルさん(22)は、両親ともにアフリカ系アメリカ人。茨城県日立市で生まれ、12歳まで県内の公立小学校に通った。東日本大震災をきっかけにアメリカに引っ越し、現在は大学生として日本に戻っている。

 茨城県で暮らしたのは人口2000人の町。両親は英語教師だった。入学した小学校は1学年7人だけ。近所の人たちはみな顔見知りで、ティファニーさんも地元の子どもたちと同じように扱われた。

 だからこそ'11年に、アメリカに移り住んだときは苦労した。食生活になじめず、帰国して1週間で大量に嘔吐(おうと)した。ニキビが増え、髪質も変わったという。

「茨城の学校では、○○さんちのお米、××さんちのキノコ……と、作った人がわかる安全な給食だったんです。ところがアメリカの公立校では、“最低でも50%が本物の食べ物で作られた学校給食を生徒たちに提供できる。誇りに思います”と言われて、ビックリしてしまって。なぜ驚いているのかも理解されませんでした(笑)」

 また、なぜか両親が厳しくなった。スーパーでは「買わない商品は絶対に手を触れるな」と注意され、レジをすませたら、まっすぐ退店するよう言われた。それが、周囲から「万引き犯」にされることへの対処だと最初は気がつかなかった。

 学校では、黒人と白人で違うテーブルにつくのが自然だった。ファストフードの客層もだいたい人種で分かれる。住む場所も、治安がよく地価の高い地域は白人が多く暮らし、黒人が買い求めようとすればさらに値上げされる。銀行でお金を借りるときも利子が高くなり、企業で働きたくても雇ってもらえないことが多い。

 白人の多い教会で、ティファニーさんが催し物に参加し「発表したい」と立候補すると、それとなく阻止されたこともある。

「“差別は世界中、どこにでも存在する”と言う人もいるけれど、アメリカの黒人差別は、根の深さがちょっと違うような気がします」

茨城で“地元の子”として過ごした兄とティファニーさん。今は茨城弁を忘れてしまった

 日本で暮らす中では差別されたことはなかったというティファニーさんの経験を、アメリカでは信じてもらえない。そもそも「日本生まれ日本育ちの黒人」など、米軍関係者のほかにはいないと思われている。

当事者でなくても知ることで理解を

 ティファニーさんの両親は、積極的に黒人差別について子どもたちに教えることはなかった。「人種で人間を分けるものではない」と考えているからだ。しかし、ティファニーさんがアメリカで差別を経験したタイミングで、奴隷の歴史、黒人差別について教えてくれた。日本にいるとき、兄がいじめに遭っていたことも、大人になって知った。

「中学、高校になってから、いじめに遭ったという話をよく聞きます。あのまま日本にいたら、私もいじめられていたのかもしれません」

 アメリカでの生活は「黒人らしさ」を求められることもつらかった。身振り手振り、声を大きく、というステレオタイプの黒人像を意識させられる。「元の人生に戻りたい」という思いで日本に帰ってきた。大学に通いながら、縁があってYouTuberとして発信も始めた。

「日本に住む人の95%は日本人。あとの5%のことは、誰かが伝えないとわからないのだと思います」

 最近、日本でも黒人差別に抗議するデモが東京や大阪、沖縄などで開催された。ティファニーさんの友人は「私も参加してもいいのかな」と連絡してきたという。

「当事者でもないのに、黒人に怒られないかな、という不安があるのかも。ちゃんと知って理解してくれたら、参加しない理由なんてないです」

 踏まれた痛みは、厳密には当事者でなければわからないのかもしれない。それでも、「どういう人間であるかを、外見や肌の色で判断するのは無理があるし、しないでほしい」と、ティファニーさんは願ってやまない。

(取材・文/吉田千亜)


【INFORMATION】
ティファニーさんYouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCPGuiAfIPU1amPhKMQ8RIVw
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https://www.instagram.com/tiffrichx/