マツコ・デラックス

 お笑いビッグ3にお笑い第7世代、いつの時代もバラエティー番組の主役は芸人たちだ。が、芸人ではないにも関わらず、そこにどっかと君臨する人がいる。マツコ・デラックスである。

マツコの隣で輝く男性芸能人

 現在、『マツコの知らない世界』(TBS系)、『アウト×デラックス』(フジテレビ系)、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)、『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)といった人気バラエティーに出演中。その特徴としては、自分で仕切ることもできるが、芸人とのコンビで仕切るのも上手いということが挙げられる。

『アウト×デラックス』ではナインティナインの矢部浩之、『かりそめ天国』では有吉弘行。過去には『有田とマツコと男と女』(TBS系)でくりぃむしちゅーの有田哲平とも組んだ。また、2016年の『NHK紅白歌合戦』では審査員として招待された田舎の夫婦という設定で、タモリとともに会場をさまようという演出が行なわれたりもした。

 とまあ、テレビの作り手が芸人と絡ませたがる存在でもあるわけだ。

 その理由を考えるうえで、興味深い場面を見かけた。7月22日放送の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でのこと。

 ゲスト出演した8歳の天才ゴルフ少女がマツコを質問攻めに。まず「身体が大きいですけど、毎日どれくらい食べるんですか」と聞き、横で島崎和歌子が「動物園みたい」とたとえた。マツコが「2キロぐらいかな」と答えると、猛獣の鳴き声みたいな効果音が。続いて「化粧にかかる時間」や「スポーツブラの使用」についても聞かれ、マツコはしみじみと、

子どもからしたら、不思議な物体なんだろうね

 と、ポツリ。すると、司会の明石家さんまが、

俺からしても、不思議な物体やわ

 ツッコミを入れたのである。

 そう、じつはこの「不思議な物体」っぽさ、あるいは猛獣性のようなものが、マツコの魅力なのだ。だからこそ、さんまは10年以上もこの番組のレギュラーに起用してきた。さんまほど「不思議な物体」をいじることに長け、猛獣使いとしての腕を見せつけてきた人もいないのだ。 

 そして、それは多くの芸人が目指す笑いのスタイルでもある。

 特に最近は、コンプライアンス的なタブーが増え、バラエティーも小さくまとまりがちだ。そんななか、マツコは毒舌が許される貴重な存在であり、組んだ芸人はそこに乗じて自らも一線を超えることができる。マツコもそのあたりの機微をわかったうえで、芸人たちに快く利用されているわけだ。

 そんなウィンウィンの関係性を象徴するのが、くりぃむしちゅーとの縁。マツコは11年前、本格的に芸能活動を始めるにあたり、彼らが作ったばかりの事務所に所属。くりぃむしちゅーはその前に、細木数子と組んだ『ズバリ言うわよ!』(TBS系)を成功させるなど、毒舌のエンタテインメント化には定評があった。

 が、マツコと組むことがおいしいのは芸人だけではない。じつはジャニーズアイドルにとっても、ウィンウィンの関係なのだ。

ジャニーズとも相性抜群のマツコ

 芸人のなかでも若いころはアイドル的だった矢部や有吉がマツコと名コンビになっているように、いわゆるシュッとした見栄えのいい男性のほうがこの人とは合う。猛獣使い的な構図が際立つのである。マツコと関ジャニ∞の村上信五が組む『月曜から夜ふかし』がいい感じに長続きしているのもそのためだろう。

 ちなみに、マツコは高校時代、木村拓哉と同学年だった。思えば、すごい偶然だが、キムタクのようなカッコいい系より、ちょっと三枚目のカワイイ系が好みらしい。4年前『マツコの知らない世界』に元たのきんトリオの野村義男がゲスト出演したときには、昔のドラマ映像を見たりしながら「カワイイ!」と大ハシャギしていた。

 そんなマツコにとって、現役では風間俊介あたりも「カワイイ」対象なのだろう。昨年、同じく『マツコの知らない世界』に風間がゲスト出演。東京ディズニーシーへの愛を語った。

 その際、マツコが風間のプライベート報道にも触れ、既婚者で子持ちであることが大々的に広まるという展開に。

はい。そうなんですよ。隠してるつもりはなかったです

 というコメントを引き出したことで「さすがマツコ」、という声もあがった。ただ、これについては、風間にとってもよかったのではないか。堂々とした印象と「異端のジャニーズ」としての個性をアピールできたからだ。これもまた、ウィンウィンの関係といえる。

 つまり、MC同士の場合はもとより、MCとゲストという状況でもマツコは利用価値が大ということ。それは芸人だろうとジャニーズだろうと変わらない。マツコを制す者はバラエティーを制す、である。 

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。