「Go To」キャンペーンを利用して石垣島のホテルに泊まってみた(筆者撮影/東洋経済オンライン)

 開始時期が唐突に前倒しとなったうえに、東京都発着旅行が急に除外され、必要書類も明示されない――。大混乱の中で、7月22日に「Go To」キャンペーンが見切り発車した。

 旅行者への説明も不十分で、受け入れ側となる宿泊施設や手配する旅行会社・旅行予約サイトに対する説明会も実施前日の7月21日にようやく開催されたほど、準備不足が否めない。

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 Go Toは新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、壊滅的な需要減に見舞われた観光業界の活性化を狙って、国が打ち出した政策だ。宿泊や日帰りの国内旅行代金から直接割引やクーポンでの還元などで最大で半額相当が補助される。もともとは8月中旬に始める予定だった。

 筆者は連休初日の7月23日、沖縄・石垣島へ飛び、Go Toの現実を取材した。

石垣島のホテルにチェックインしてみた

 今回、筆者は石垣島から離島へ向かうフェリーターミナル近くのホテル「南の美ら花 ホテルミヤヒラ」にチェックインをした。東京都内を拠点に仕事をしているが、千葉県民の筆者は「Go To」の対象となる模様だ。

 まずチェックインの手続きを取る前に、ホテルスタッフが検温し、体温を確認された。その後、「お客様健康確認アンケート」への記入を求められ、体温の記入及び現在の体調、海外渡航歴(2週間以内)、PCR検査の結果待ちの状態かどうかなどのほか、新型コロナ発症者との接触についての質問に答え、さらに電話番号を記入したのち、最後に署名をして提出した。

チェックイン時にさまざまな項目の質問に答えた(筆者撮影/東洋経済オンライン)

 その後、チェックインの手続きが行われ、いつも通りに宿泊者名簿に名前や住所などを記入した。住所は代表者のみ。同行者は名前だけ書けばよく、住所を聞かれることもなかった。このホテルでは、チェックイン時の手続きで、「宿泊証明書」の発行について「不要」もしくは「必要(部屋・個人)」から選択できるようになっており、筆者は「必要(部屋)」にチェックを入れた。これでチェックイン手続きは完了し、部屋の鍵を受け取った。

宿泊証明書を受け取った。これが還付手続きで必要となる(筆者撮影/東洋経済オンライン)

 そして翌日、チェックアウトする際に用意されていた「宿泊証明書」をホテルのスタッフから受け取った。筆者の場合は宿泊予約サイトで事前支払いにしていたので領収書の発行は必要なかったが、宿泊施設に直接支払いをする場合には自分の名前での領収書が必須になることから、受け取りを忘れないように注意されたい。宿泊施設が旅行者に対してできる対応はここまで。あとは還付の手続きを旅行者自身か、旅行会社・宿泊予約サイト側で行う。

 当初は7月31日に開設予定だったGo Toの特設サイトは、27日に前倒しで開設され、還付方法についての案内も掲載された。「キャンペーンが開始されているのに遅すぎる」という批判に応えた格好だ。

 旅行者が旅行会社や宿泊予約サイトで事前決済した場合の還付は旅行会社・宿泊予約サイト側で対応、直接予約や宿泊予約サイトで現地払いしたケースの還付は事務局に旅行者自身が申請する方式に決まった。還付対象となる7月26日までの予約分(宿泊予約サイトの多くはシステム準備が間に合っておらず、7月27日以降の予約も対象になるケースもある)かつ8月31日宿泊分までの旅行者自身の還付申請期間は8月14日~9月14日までの1カ月間となった。

 筆者は今回、宿泊予約サイト(OTA:オンライン旅行会社)経由で予約をした。楽天トラベル、じゃらん、一休.comなどのサイトであるが、あえて宿泊するホテルに直接予約をしなかったのには理由があった。

ホテルに直接予約した場合に還付されない可能性

 というのも、旅行会社・宿泊予約サイト・宿泊施設は給付金における給付枠の配分を受ける必要があり、配分を受けた金額分しか旅行者には還元されない。旅行会社・宿泊予約サイト・宿泊施設それぞれが給付枠を申請し、配分されても、旅行取り扱い額の多い旅行会社や宿泊予約サイトなどは給付金の枠が多く配分されることが予想される一方で、中小の旅行会社や宿泊施設などでは配分が少ない可能性も考えられる。

 これが宿泊施設に直接予約した場合はどうなるか。「どの程度の金額が配分されるのか?」「取り扱い額の少ない宿泊施設には配分がないのでは?」という声が、筆者が取材する中でGo Toの利用を検討している人たちから聞こえてきている。中小の宿泊施設でも宿泊予約サイト経由であれば、宿泊予約サイトに配分される給付枠が適用されることになることから問題はないが、直接予約の場合は最終的に適用されるかどうかにさえ不安がある。

 7月31日に石垣島にオープンする「THIRD 石垣島」を運営するスタートリゾートCEOの佐々木優也さんに話を聞くと、顧客からは毎日のように「Go Toが適用できるのか?」という問い合わせが入っているそうだ。

石垣空港の様子(筆者撮影/東洋経済オンライン)

 佐々木さんは不安な点が2つあると話している。

(1)直接予約に対して枠の申請をしても前年の実績がないことから枠が取れない可能性がある

(2)海外系の予約サイト経由の予約も多いがその場合に対象となるのか

 THIRD 石垣島は平均宿泊単価が1室4万円程度のため、Go Toが適用されるかどうかで旅行者の負担は大きく変わる。佐々木さんは「早く適用の可否を判断してほしい」と話していた。

 実は給付金に関しては、すでに給付の仮枠申請が開始されており、7月28日までに一部の旅行会社に対して給付金の割当額が提示されている、という情報を筆者は入手している。ただ割当額を決定するにあたり、どんな基準で配分の比率を決定したのかという情報が非開示になっており、中小の旅行会社などからは不満の声が上がっている。

 事務局を運営する「ツーリズム産業共同提案体」には、JATA(日本旅行業協会)を中心にJTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズ、楽天などが名を連ねている。事務局に入っている旅行会社とそれ以外の旅行会社で情報に差があるという声が旅行業界関係者から聞こえてきている。

 実際、給付枠の仮枠申請の受付期間は7月21~30日までとなっているものの、観光庁の資料によると申請受領後に随時配分通知を出すと明示されている。ただ、申請の総額がわからない中での割当額を通知するというのは予算が限られている中で不透明と言わざるをえない。旅行会社別・宿泊施設別の割当額も国民に対して公表すべきだろう。

7月27日以降の宿泊施設への直接予約は?

 各都道府県のホテルや旅館の組合からは、宿泊施設に対して第三者機関「STAY NAVI」を活用することで、ホテル・旅館の公式サイトから予約において、7月27日予約分以降「Go To」が適用されることが案内されている模様だ。この第三者機関とは、電子上で宿泊記録などの情報を保管・管理できるシステムを用意することで、中小の宿泊施設が多額のシステム投資をすることなく、自社予約に対応できる仕組みになっている。

 ただ、「STAY NAVI」がどの程度の給付金の割当額が提示されているのかについても明らかにされておらず、日本全国の中小の宿泊施設の多くが登録することになれば給付金の割当額が足りるかどうかの不安もある。

 Go Toが始まって1週間。旅行者はもちろん、旅行会社や宿泊施設側も混乱している。ルールを明確にしない限り、不安だけが続いてしまう。本来旅行は楽しむものなのに、今は旅の計画段階からストレスが溜まる状況にある。そんな状況でGo Toはスタートしてしまったのだ。これだけの問題噴出が続く中で強行してしまった政府は、いったいこの責任をどう取るつもりなのか。


鳥海 高太朗(とりうみ こうたろう)航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
1978年千葉県生まれ。成城大学経済学部経営学科卒。食品会社、コンサルタント、城西国際大学観光学部助手を経て現職。専門は航空会社のマーケティング戦略。利用者・専門家の双方の視点から各社メディアを通じて情報発信をしている。