ピン芸人のバイク川崎バイク(以下、BKB)初となる短編小説『BKB ショートショート小説集 電話をしてるふり』(税別1200円)が8月12日に発売される。
超ハイテンションで「BKB!」と連発するバイク川崎バイクが小説とは、ちょっと意外な気も。
本書は、そんなBKBがコロナの自粛期間中に執筆し、メディアプラットフォームの『note』に投稿した作品45作と、新たに書き下ろした5作を加えた超短編小説集。そこで本誌が単独インタビュー。エンジンかけて「ブンブン!」といった、いつものハイテンションは封印して、淡々と話をしてくれた。
1日1話、50日連続で更新すると決めて書き始めた
「種類の違うお話が50話も楽しめるおトク感がありますね。表題の『電話をしてるふり』は、長いほうですが、8ページぐらい。活字慣れしていない人でも楽しんでいただけると思います。最初に載っている『はなことば』とかは、短くて不思議な “ショートショート”という感じがして、特に読みやすいんじゃないかなと思います。難しい話もないですし、すぐ読めて、2度読みたくなる。そんな本になっていると思います」
『note』での執筆開始から書籍化決定まで、わずか3か月という異例のスピードだが、執筆を始めた経緯は?
「今年の3月後半にはすでに舞台はなく、芸人はみな休みになっていました。緊急事態宣言が発令され、仕事を休まなければいけなかったので、最初は喜んでいたのですが、しばらくすると休んでいた芸人たちが一斉にユーチューブなどをやり始めたんです。自分も、なにか発信しないとイカンと思ったんです」
そこはやっぱり持ちネタの「BKB!」なのでは? と思いきや。
「15年間も“BKB、BKB”と言ってきて、いまさら毎日1・BKBなんかやってもしょうもないってことは客観視できていました。そこで『オズワルド』の伊藤俊介クンがnoteを始めたって聞いたので、相談してみたんです。すると、伊藤クンが“BKBさんは文章を書くの好きでしょう。ショートショートとか好きなんちゃいますか?”って言ってくれたのでスタートしてみました。ほぼ2か月弱は家にいないといけなかったので、時間はある。覚悟を決めて50日連続でやると決めて書き始めたんです」
バイクだけに毎日、朝の8時19分に新しい話を公開していた。1日1話の更新は、けっこうハードだと思うけど……話のネタはどこから?
「いろいろなところから着想を得ているんですが、本のタイトルにもなっている『電話してるふり』は、単独ライブ用のネタストックにメモってあったものなんです。この話を書いた日はタレントの武井壮さんの誕生日で、朝の5時までインスタライブをしていました。ナチュラルハイの勢いで、電話しているふりの女の話ができあがった感じですね」
ほかにも芸人仲間からアドバイスをもらったことも。
「芸人仲間で、よくZOOM飲み会やインスタライブをやっていたんですが、朝3時ぐらいに『THIS IS パン』の岡下クンに“あと4時間後には新作を載せなあかんねん。なんかお題くれ!!”と、インスタライブで言ったら “晴れの日に……傘持ってるやつ……どうスか?”って言ってきたんです。めっちゃおしゃれでドラマありそうやんってことで、そっから2時間半でぶわぁ~って書きました。『Umbrella on a sunny day』ってカッコいいタイトルになっています」
『しずる』村上純からのアドバイスで吹っ切れた
そんな周囲に支えられたBKBも、自身の芸風に悩んだこともあったという。
「僕のことをBKBって言ってるだけのヤツって思ってる人が、世の中の大半やと思うんです。ただ、それは自分の芸風ですし、その路線で行ったことは全然いい。BKBで世にちょっと出れたことは嬉しいですし、BKB面白いって言ってくれることはめちゃくちゃ嬉しいです。僕はそれ以外での評価を受けたことが今までなかったんです」
芸人でも絵がうまいとか、歌がうまいなど、自身の芸風以外で評価を受けている人がいると話したうえで、
「僕はそういうものが何もなかった。実は、ライブでもひとりコントをやっていたりするんですが、知ってくれている人は少ないんです。ユーチューブでアップしても全然伸びないし、興味を持ってもらえないんです。本当はバカリズムさんや劇団ひとりさんのDVD全部持ってるぐらい、ひとりコントが好きやのに……」
小説を書いている間も思い悩んでいた。吉本の同期である芸人仲間で『しずる』の村上純に、こんな思いをこぼしたことも。
「村上クンとは仲いいんですが、ZOOM飲みで“芸人が毎日まじめな叙述トリックの本、書いてるのどうなんかな?”ってボヤいたことがあったんです。すると“BKB,BKBって言ってるヤツが、こんなしっかりした話を書けるのが壮大なボケや。面白いことやってるよ”って言ってくれて、吹っ切れたんです」
書き続けた結果として、話題となり書籍化へと繋がった。BKBだけと言われる劣等感も、少しは和らいだよう。
「“BKBがこんなの書くんや”とか“BKBに泣かされるとは思わなかった”とか、みんないい感じにナメてくれていたんで、それがちょうど心地よかった。“BKBのクセに”がホメ言葉でしかなかったです。認めてくれたってことですから」
その喜びは地元の両親にも伝えたという。
「母親は“20冊買うわ!”と言うてくれました。でも本屋にあるかわからんし、ネットでもどう買えばいいかわからんと言うので、10冊は僕がプレゼントしました(笑)。近所に配ってくれるんやと思います。父親もnoteで書き始めたころから読んでくれていたようです。僕がお父さんが亡くなっている話を書くと“今日はお父さん殺してなかったか?”って連絡があったりしました。“そういう見方されるとちゃうんやけど……ごめんな”という会話をしましたね(笑)」
小説の中には自称・恋多き男である自身の恋愛経験をもとにした話もあるようだが、芸人兼作家となって浮いた話もあったりして?
「自粛期間ってこともあったので、全然ないですね。自粛前に仲よかったコからは連絡は来なくなりました(笑)。本を出したってキッカケに連絡もありかな……いや、ないでしょ。しませんよ(笑)」
RADWIMPSの野田洋次郎に応援要請?
今後の目標としては、どうか。第2の『ピース』又吉直樹を目指したりとか?
「又吉さんとかは、もう別格ですよね。文学ですからね。あの文体とかは、僕には無理ですから。ただ、映像化はしてもらえたら嬉しいなぁとは思います。いけると思うんやけどなぁ……」
なんて期待に胸膨らませているけれど、ちゃんと目の前の目標は忘れていないみたい。
「まぁ、でも本が売れんことには……。ビビりまくってますよ。本を出したけど売れなかった芸人いっぱいいますからね。やっぱり有名な方に応援していただけないと……。ダメ元でRADWIMPSの野田洋次郎さんにお願いしてみようかな(笑)。一応友だちなんで……ダメ元で……。カズレーザーも“人気者に献本するしかないですよ”って言ってましたから(笑)。読んでもらったら、悪くないはずなんで」
最後に意気込みを。
「これからはバイクだけに、ペンというタイヤを滑らしながら、お笑い界もエンジンをかけてブンブンと暴走していきたいなと思います! ブンブン! ヒィーア!!」