日本人女性が閉経を迎えるのは平均50~51歳で、その前後5年ずつが「更年期」にあたる。更年期には女性ホルモンの分泌が乱れさまざまな不調が起きるが、婦人科系だけではなく、“痔主”が増えてくるのも50代前後だ。
肛門科専門医の平田雅彦さんは、「肛門まわりの筋力低下や血行不良が原因となって炎症が起きやすくなり、いぼ痔や切れ痔を引き起こすことに」と言う。
週刊女性の読者の中にも「ウッといきんだ瞬間、ニュッと何かがお尻から出る感触が。指で戻せば中に入るけど、やっぱり痔かな……」(42歳・Mさん)などと不安を感じている人も。
ただ、痔の原因は、なんと生活習慣! 日々の生活を見直すだけで、いぼ痔も切れ痔もすっきり解消するそう! その方法を平田さんに伺いました。
自覚してから通院するまでに7年
「自覚症状がなくても、検査を行えば約7割の人に痔が見つかるほど、痔はポピュラーな病気。潜在的な患者数は虫歯の次に多いともいわれています」というのは、平田雅彦さん。誰しもがかかるいわば“国民病”であるにもかかわらず、実は病院に行く人は少数。“放っておいても大丈夫”“手術になったら嫌”などの理由で治療を先延ばしし、悪化させる傾向にあるそう。
「患者さん1000人にアンケートをしたところ、痔と自覚してから病院に行くまでに平均7年もかかっていることがわかりました」
我慢できないほど症状が悪化して、やっと受診する、という人が大多数なのだ。
「痔のいちばんの原因はなんといっても便秘です」
便には細菌が多数あり、皮膚にとってはアルカリ性の刺激物。肛門付近に刺激物の便が長期間、滞留すると炎症の原因となる。さらに強くいきむことから、肛門に重い負荷がかかり、硬い便は肛門の粘膜を傷つけ、そこから便の細菌が入り込み炎症を悪化させてしまう。
「肛門は、その周辺にある筋肉や粘膜だけではピタリと閉じず、1ミリメートルほどのすき間があります。そのすき間を埋めているのが線維や静動脈によってできている“クッション組織”。更年期前後になると、加齢により、この機能が低下します」
排便でいきむなどして負荷がかかれば組織が断裂、便やガスがもれやすくなってしまう。
「また運動量が減るのもよくありません。肛門まわりの血行が悪くなり痔の原因に。ほかに冷えやストレスも関係してきます」
痔と思いきや、がんが発覚する場合も
痔の症状が現れたら、すぐに治療が必要なのだろうか?
「治療よりも、まずは生活習慣の見直しが大事です」と平田さん。
「痔は肛門周辺の血行不良や便秘から起こる、いわば生活習慣病。生活を整えることで、自力で治せる人が多いんです」
肛門には毛細血管が集まっていて、それら血管の滞りが老化や冷えを招く。また食生活や生活リズムが乱れていると便秘傾向に。これらが原因となって肛門周辺で炎症が起こり、痔の症状が出てくる。
ただし自己診断は禁物。痔だと思って受診した人のうち約1割にがんが見つかるという。痔の症状があったら、まずは受診がおすすめだ。
【痔主のランキング】
1位 痔核(いぼ痔)
男女ともに約6割が該当。そのうちの大多数が“内痔核”で、肛門の中に静脈瘤と呼ばれる血管の塊ができる。神経のない場所にできるので、痛みは少ないが、出血や排便痔に肛門から飛び出ることも。“外痔核”は神経の集まっている部分にできるので、強い痛みがある。
2位 裂肛(切れ痔)
女性の約15%にみられる。硬い便や慢性の下痢で肛門付近が切れるお尻の外傷。痛みが強く、出血も伴う。何度も切れると、傷口がふさがれる過程で粘膜がひきつれて、肛門が狭くなる“肛門狭窄” になる場合も。「裂肛患者の1割程度に見られ、手術が必要なことも」
3位 痔瘻(穴痔)
女性は約3%と少数だが、男性は裂肛よりも多く約13%にみられる。免疫力が低下しているときに、肛門内の小さな穴に便が入り込んで炎症が起き、内部が化膿。この膿がトンネルを掘り進んで肛門の内外をつないでしまう状態をいう。放置するとがん化する危険な症状だ。
痔を寄せつけない7つのルール
ここからは、簡単にできる生活改善のノウハウをご紹介。
「まずは身体の細胞が入れ替わる3か月間、頑張ってみて。当院でも9割近くが手術を行わず、生活改善と薬だけで治しています」
《便意チャンスを逃さない平田式スイッチ法》
便意を感じやすいのはなんといっても朝。排便のビッグチャンスを逃さないために、行いたいのが平田さん考案の“平田式スイッチ法”だ。
1. トイレタイムを確保するために、朝は10分程度、ゆとりをもって起床。
2. 起き上がったら、深呼吸をしながら手足をぶらぶらさせたり、回したり、手をこすりあわせたりして。身体や脳に起床したことを知らせ、蠕動運動を促す。
3. 冷たい水かお茶をコップ1~2杯飲み、胃や腸に刺激を与え、さらに蠕動運動を促して。
4. 便意を感じたらトイレへGO。軽くいきんで自然な排泄を促して。
《食物繊維をたっぷりと1日3食のリズムで》
便秘の解消には、食物繊維をとることが王道。食物繊維には、野菜や豆類などの水に溶けない不溶性と、海藻や果物類などの水溶性があり、これらを半量ずつ摂取すると便がやわらかくなる。
「ヨーグルトや納豆などの発酵食品も整腸作用があります」
食事はドカ食いせず、1日3食に分けて。
腸内に悪玉菌を増やし、腸内環境を悪くするような食品は避けたい。添加物がたっぷりのお菓子やファストフード、肉類などは食べすぎないように注意を。また、唐辛子などの刺激物や冷たい食べ物も下痢を引き起こす可能性があるので、控えめに。
「7つのルール」はどれも実践が簡単
《ロダンのポーズでいきまずスルッ!》
排便時におすすめなのが、ロダンの“考える人”の姿勢=上半身を倒して前傾する姿勢。洋式トイレに座ったら、上体を前かがみにし、ひじを太ももにのせて、かかとを軽く上げて。こうすることで、直腸と肛門が一直線になるので、便がスムーズに移動しやすくなる。またトイレタイムは3分までを習慣に。
《「肛門体操」でお尻を元気に保つ!》
肛門にある括約筋(かつやくきん)を動かす体操。やり方は、肛門をゆっくりと5~10回締めるだけ。このとき、ティッシュを箱から1枚ぬきとるように、ティッシュをつかんで持ち上げるようなイメージで肛門を締めて。起床時や寝る前、デスクワークの合間など1日数回やると効果的。
《1時間に1回「10m歩き」を》
長時間座っていると、体重がお尻にかかり続けることでうっ血しやすく、炎症の原因に。おすすめはキッチンタイマーの活用。1時間にセットして、そのたびに10m歩く、というのを習慣化させて。これだけでお尻のうっ血を大幅に軽減させることができる。
《カイロや靴下で夏冷えを徹底予防》
身体が冷えると血液の循環が悪くなり、肛門括約筋も緊張状態となり、痔が悪化しがち。また自律神経が乱れ、下痢や便秘にもなりやすい。夏場でも冷房などで「寒い」と感じたら、腰にカイロを貼ったり、靴下やひざかけなどで防寒を。また足首を回したり、足の指を曲げ伸ばしするだけでも、血行改善に。
《痛みがあるときのゴルフ、テニスはNG》
痔が痛むときは、肛門に負担のかかるスポーツや趣味だと、より悪化してしまうことも。例えばゴルフや野球、テニスは、ボールを打つ瞬間に肛門に力が入るので大きな負担がかかる。またスキーやスケートは冷えにより血流が悪くなるし、釣りも長時間座っているので、うっ血しやすい。これらをやるなら、体調のよいときに!
(取材・文/樫野早苗)
<PROFILE>
平田雅彦さん ◎平田肛門科医院院長。「手術をしないで治す」を信条とする肛門科専門医。32年間で、のべ38万4000人以上の痔患者を改善に導いた。近著に『自分で痔を治す方法』(アチーブメント出版)など。