ワクチンも特効薬もない今、藁をもつかみたい気持ちはわかります。が、何とも素直な日本人! 大本営発表を疑わない先の大戦時の国民性が今も私たちの中に根強く生き続けているといいますか。
大阪の吉村洋文知事らが、新型コロナウイルスの予防にポビドンヨードの成分が入ったイソジンなどのうがい薬の使用を呼びかけました。
途端、日本中が突っ込みを入れ、専門家が疑問を呈したにもかかわらず、ドラッグストアーの商品棚には「売り切れ」の張り紙が垂れ下がり、同商品を扱う明治ホールディングスの株価が急騰するという事態になりました。
健康をテーマにしたテレビのバラエティー番組で、納豆がいいと伝えられればスーパーの棚から納豆が消え、粉末の大豆がダイエットに効果的と取り上げられればその商品が品切れになるなど、これまでも情報に過敏に反応する人々はいました。番組スタッフが「株を買っておけば上がるよ」と自慢げに話していたことがあります。ちょっとしたインサイダーです。
多彩な情報に誰もがアクセスし、ことと真偽を判断できる材料があふれている時代にもかかわらず、メディアやおかみが発信した情報を、人々はあまり疑いません。
以前、京都大学が、水うがい群、ヨード液うがい群、特にうがいをしない群に分け、風邪の発症がどれくらい減少したかデータを取ったことがありました。結果、ヨード液うがいには、明確な予防効果がありませんでした。そのことは現在、医療従事者の常識として知られています。
そのヨード系うがい薬が、なんと新型コロナウイルスに効果があるとなれば、製造元にはありがたい朗報です。いきなり世界マーケットが視野に入ります。実際に(株)明治は「今回の研究成果は大変興味深い」と期待感を表明したと日経新聞が報じていました。誠に明るいニュースです。
新型コロナウイルスをめぐっては、米トランプ大統領が今年4月、消毒液の注射がいいと発言し、実際に消毒剤を飲む事故が増加したことがありました。トランプ大統領は翌日、「皮肉を込めて記者に提案しただけ」と言い逃れをしました。
吉村知事の強気なツイート
ヨード系うがい薬には、消毒液ほどの危険性はありませんが、吉村府知事の「くれぐれもうがい薬を買い占めたりしないでください」という要望は、あっけなく裏切られ、発言直後からドラッグストアの店頭から、当該商品がなくなりました。
人々が不安の中にいる今、為政者の発言に生活者が過剰反応するケースは容易に想像できます。吉村府知事の前記の“買占め防止発言”は、まさに生活者の反応を予想したうえでのことです。
吉村府知事の今回の公表は、データに基づいたものです。が、本人も会見で「嘘みたいな本当の話」と切り出したことからも、決して画期的な研究データがわかった! という絶対的自信にあふれたアナウンスでもありませんでした。そのため、批判的な声が上がりましたが、知事は「ちなみに、また吉村がおかしなこと言い出してるとネット上の大批判がありますが、構いません」と強気なツイート。
ところが日本人は、素早く真に受けました。いやぁ、さすがの反射能力! 民度!
売れっ子落語家の春風亭一之輔(42)は吉村府知事発言を受け、感染者がひとりも出ていない寄席の状況を、自分の出番に重ね「今の池袋演芸場と新宿末広亭の昼の部、コロナに効くようです」とツィート。それをリツィートした漫才師ロケット団の三浦昌朗(46)に「吉村に言っとけ!!」と提言しました。
さらに「コロナに効きます↓DVD BOOK 春風亭一之輔 十五夜」と宣伝し、芸人らしくうがい薬に浮足立つ世論をおちょくりました。エビデンスなんてくそくらえです。
ヨード系うがい薬への注目度があっという間にしぼむのか、このままニーズの増加を続けるのか、気になって仕方ありません。
〈取材・文/薮入うらら〉