行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回はコロナ禍でのリモート婚活で起きたトラブル事例を紹介します。(後編)
【婚活トラブル】実家が台風被害、両親は病に倒れ…32歳女性がすがった先《前編》のあらすじ
今回の相談者・小島愛里さん(32歳・仮名)はスポーツクラブの本部で派遣社員として働き、築60年の実家で病気療養中の両親と同居中。昨年の台風19号で実家が大きく損壊したが、父親が病で失職してしまったことから、金銭面が苦しく修理もできてない状況だ。そこで愛里さんは結婚相手を見つけて両親を安心させたいと、婚活サイトに入会してリモート婚活をスタート。国立大卒で資産額が富裕層向けに資産管理や運用を行うプライベートバンクを経営し、年収は1600万円だという長尾俊太(36歳・仮名)に出会ったが……。
彼は「ご両親にも挨拶しに行かなきゃね」
「ゴールデンレトリバーと柴犬が好き」という俊太と愛里さんは趣味が合い、彼は「手料理を作ってほしいなぁ」と甘えてきたり、「誕生日はいつかな? 一緒にお祝いしたいね」と交際に前向きな感じでした。
愛里さんが「将来のことはどう考えてる?」と尋ねると「大事にしなきゃね」と返してきたので、「結婚前提」だと信じて疑わなかったのです。
気を許した愛里さんは思わず本音を漏らしたそう。「実家を新築しないといけない事情があるの。ローンを組める人を探していて……」と。そうすると彼は「ご両親にも挨拶しに行かなきゃね」と二つ返事。彼の反応を見て愛里さんは“運命の人を見つけた!”と心踊ったそうなのですが……。
緊急事態宣言が解除され、テイクアウト以外は休業中だった飲食店が続々と再開し始めた6月。愛里さんはリモート婚活を卒業。彼とLINEのIDを交換し、デートの約束をし、直接会うことにしたのです。
ちょうど翌月は愛里さんの誕生日。彼は愛里さんの了承を得た上で、当日はホテルで一緒に過ごそうと部屋を予約してくれたそう。ホテルという密室に2人きりで入るのだから当然、愛里さんはそのつもり(性交渉をするつもり)でした。
2人は直前の夕食を居酒屋のチェーン店に済ませたのですが、食べ放題・飲み放題で1人3000円をという値段設定。なぜ、もっといいお店ではないのか……愛里さんはこのときに気づくべきでした。そして2人は予定通り、ホテルに到着。彼はいちいち「いい?」「平気?」「大丈夫?」とは聞いたりしなかったそう。
愛里さんがOKしているという前提で何も気にせずに事を進め、2人は結ばれたのです。こうして彼は愛里さんと一緒に眠りにつき、2人はそのまま同じベッドの上で朝を迎えたそう。初対面の男に身体を許すのは、さすがに脇が甘かったと言わざるをえません。愛里さんが知っている彼の連絡先はLINEだけ。携帯番号やメールアドレスはもちろん、住所、実家、プライベートバンクの運営会社の所在も分からないし、もとを正せば本名かどうかすら確証はないのです。
LINEはブロックされ、音信不通に
この日を境に彼からの返事が届くことはありませんでした。愛里さんがLINEでいくらメッセージを送っても既読にならないのです。彼が愛里さんをブロックしたのは明らかでした。
「結婚してくれる。ローンを組んでくれる。実家を建て直してくれるって言うから、彼の好きにしたのに……これじゃ、詐欺じゃないですか?」
筆者に対して愛里さんは語気を強めます。当時、彼女はまだブロックされたという現実を受け入れられず、彼をありったけ罵倒すべく、追加でメッセージを送りつけていたのです。
《あんたは外面だけいいんだから! まともな人間だって周りから思われているんでしょ!? でも実際には全く逆!! 非常識で非情で卑劣極まりない人間だわ! 私に対して何をしたのかわかっているの?》
《あんたのご両親にすべて話すわ! だって、あんたは都合のいいことしか伝えていないでしょ!? 最初から身体目当て近づいて、『一緒になりたい』と甘い言葉をささやいて信じ込ませて、ホテルに連れ込んだのよ。やることをやったらポイ捨てするような詐欺師に自分の息子を育てた覚えはないはず! ご両親はこの上なく悲しむでしょうね!》
《もう頭に来た! 警察に駆け込むから。もし私への仕打ちの一部始終を知れば、もう大変なことになるでしょうね! だって、あんたはレイプ魔なんだから!!》
愛里さんがどれだけ怒り、憎しみ、恨みをメッセージに込めたところでなしのつぶて。彼がブロックを解除しない限り、彼の目に触れることはありませんが、このようなメッセージが届くだろうことを予期しているので、彼はずっとブロックしたままでしょう。
愛里さんは彼にとって“いいカモ”だった
「彼のことですごく傷つきました。私はショックのあまり、ご飯が食べられなくなり、夜も眠れなくなりました」
愛里さんは苦しい胸の内を明かしますが、せめて彼の住所だけでもわかっていれば、展開は違っていたはず。例えば、直接訪問したり、手紙を送ったり、裁判所に調停を申し立てたりすることが可能なので、彼の気持ちを聞き出すことができたかもしれません。
もちろん、彼が転居すれば、転居先を調べようがありませんが、LINEのブロックと違い、引っ越しにはそれ相応の時間、費用、労力がかかります。決してワンクリックで済むわけではありません。自宅ではなくホテルを指定したのは彼のほうが一枚上手だったのでしょう。結婚だけでなく、住宅ローンの申し込み、実家の新築、そして両親との同居まで要求してきた愛里さんは彼にとって“いいカモ”。なぜなら、愛里さんの要求のハードルが高ければ高いほど彼は「愛されている」「好かれている」「信じられている」と思うからです。
残念ながら、愛里さんには彼の言葉が嘘か本当かを判断する能力に欠けていました。筆者は「打つ手はありませんが、婚活はこれが最後ではありません。次回は気をつけてください」と諭し、愛里さんはLINE電話を切ったのです。
女性に対して身体目的で近づいてくる男性のことを「ヤリモク」といいますが、不特定多数の男女が出会い目的で集まる場には一定数、ヤリモクが混在しています。婚活サイトだって例外ではありません。女性はそのことを承知の上で参加すべきです。婚活で人生を狂わされないためにどうしたらいいのでしょうか?
筆者の相談者(結婚期間0~3年で離婚した20~30代の男女)に対して「はじめから問題がある人だった」「結婚生活の中でおかしくなった」のどちらに該当するかを聞き取りしたところ、前者は73%、後者は27%でした。
後者の場合、交際期間や結婚期間の「途中で」少しずつ2人の足並みがそろわなくなるので、どんな相手でも一定の確率で起こり得ることです。そのため、相手選びの段階──婚活の最中に将来の危険を察知することは難しいです。一方で前者の場合、最初から問題を抱えた相手です。そのため、間違った相手を選ばないよう予備知識を得ることが大事です。
拙著『婚活貧乏 結婚してはいけない人を避ける方法』 (中央公論新社)で4つのチェックリストを紹介しています。結婚を考える彼氏に対して、以下に挙げた「お金」「浮気」「暴言」「モラルハラスメント」に関する質問で当てはまることが多ければ、要注意。トラブルを引き起こす男性の共通点をあらかじめ知ることが大事です。
トラブルを引き起こす男性のチェックリスト
■お金
(1)【返済遅延】彼氏はカードローン、キャッシング返済、携帯電話の料金請求などで督促を受けたことがある。
(2)【無責任】同棲している彼氏は生活費を入れてくれない。家賃や公共料金を払ってくれない。
(3)【金銭依存】彼氏の出費をあなたが立て替えた経験がある。
(4)【仕事不安定】彼氏は無職なのに仕事を探していない時期が過去にあった。
(5)【打算的】彼氏や彼氏の実家が結婚資金を出そうとしない、渋ろうとする。
(6)【滞納癖】彼氏は過去に年金、健康保険の保険料を滞納していたことがある。
(7)【無財産】彼氏には全く貯金がない。
(8)【見栄っ張り】彼氏は他人のことになると金遣いが荒くなる。
■浮気
(1)【職場トラブル】彼氏は転職を繰り返しており、過去に休職、謹慎、減給、左遷等の処分を受けたことがある。
(2)【虚言癖】彼氏は嘘をついても反省せず、また嘘をつく。
(3)【過剰出費】彼氏の携帯電話の料金やガソリン代、ソーシャルゲームの利用料が高すぎる。
(4)【秘密主義】彼氏の携帯にはいつもロックがかかっている。
(5)【無断外泊】同棲中、彼氏が無断で外泊し、事前に連絡もなかった。
(6)【親依存】彼氏はいつまでも親から小遣いをもらったり、仕送りをしてもらったりしている。
(7)【2つの財布】彼氏は職場から交際費を支給されている。
(8)【タダ友】あなたが彼氏の交友関係を問いただすと「タダの友達」と反論されたことがある。
■暴言
(1)【キレやすい】彼氏が他人に対して、異常な怒り方をしているのを見たことがある。
(2)【クレーマー】彼氏は企業に対して、言いがかりをつけたことがある。
(3)【現実逃避】彼氏は突然、行方不明、音信不通になったことがある。
(4)【異常性格】彼氏は一度、怒り出すと手がつけられない。
(5)【異常性癖】あなたは彼氏の求めに応じて、嫌々、性交渉に付き合ったことがある。
(6)【差別的】彼氏は人を見下した言動が多いと感じる。
(7)【酒癖】彼氏は酒の席でトラブルを起こしたことがある。
(8)【自己中心的】彼氏はすべて自分が正しいと思っている。
■モラルハラスメント
(1)【職場関係】彼氏は理由不明の休職をした経験がある。
(2)【親子関係】両親が彼氏(娘)に対して、親子とは思えないほど気を使っている。
(3)【気分屋】彼氏はその日によって言っていることが違う。
(4)【不信感】あなたは彼氏から「信用されていない」と感じることがある。
(5)【責任転嫁】あなたに原因がないのに、トラブルをあなたのせいにされることが多い。
(6)【放浪癖】彼氏は同棲中、理由もなく実家や友人宅、漫画喫茶などに隠れたことがある。
(7)【自尊心過剰】彼氏は何があっても謝らない。
(8)【わがまま】突然、彼氏に予定をキャンセルされたことがある。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/