第44回 杏
女優・杏が俳優・東出昌大との離婚を発表しました。
原因はいわずと知れた東出の不倫と言っていいでしょう。2020年1月30日号『週刊文春』によると、東出は映画『寝ても覚めても』で共演した女優・唐田えりかと不倫関係に陥り、それが杏にバレて別居に追い込まれたことを報じています。
同誌によると、結婚生活5年のうち不倫関係は3年にも及んでいたと言います。イクメンとして好感度の高い東出でしたが、実際は家事も育児もすべて杏まかせ。帰宅してすぐ温かい食事が出てこないと、機嫌を損ねて飲みに行ってしまったりしたそうです。
絵に描いたようなヤバい夫ですが、別居がバレると所属事務所を通じて「別居は修復へのステップ」とコメントしたのもヤバい。ここまで妻をコケにしておいて、離婚したくないってどのクチが言うんでしょうか。また、不倫相手の唐田もたいがいなヤバさです。自分たちの関係を女優の大先輩でもある杏、もしくは世間に知らしめたいと思ったのでしょうか。東出に似た男性のイラストとキスするような画像をSNSにアップする(現在はアカウントごと削除)など、挑発的な行為を繰り返していたようです。
杏にとって本当にヤバい人とは
離婚をしても杏の芸能人としての価値が下がるわけではありませんし、多くの女性が杏を応援しているので怖いものはないでしょう。東出や唐田といったヤバい人たちと縁が切れてよかったよかったと言いたいところですが、私には杏にとって「本当にヤバい人」はこの2人ではない気がしてしまうのです。
若い世代にとって、杏は日本を代表する国際派俳優・渡辺謙の娘で人気女優というイメージが強いのではないでしょうか。その杏がお父さんの力を借りず、苦労を重ねて現在の地位を築いてきたことは案外、知られていないことかもしれません。
杏の父親である渡辺謙は、大河ドラマ『独眼竜政宗』('87年)で主役を務め、大河ドラマ歴代最高視聴率を記録します。名実ともに日本を代表する俳優となったわけですが、間もなく急性骨髄性白血病を発症します。現在では医学の進歩によりいろいろな治療法がありますが、当時、白血病は克服するのが非常に難しい病でした。
しかし、謙は見事に生還。俳優業にも復帰しましたが、2002年には泥沼離婚裁判を起こし、話題になります。2012年5月10・17号『女性セブン』の記事によると、謙は「妻(杏の母)が、知人など50人から計2億円もの借金をしている」「妻は同時期に2億5000万円を宗教団体に振り込んだ」と主張、一方の杏の母は「多額の借金は、謙の女性関係をもみ消すため」として、不倫関係にあった女優9人の実名を挙げたそうです。なぜここで宗教団体の話が出てくるかというと、謙の病気を治すため、杏の母はある新興宗教に入信したからだそう。
また、杏の兄である渡辺大は『週刊文春』に、母や子どもたちと別居中の謙が生活費を振り込んでくれず、生活が苦しいと訴えていたこともあります。杏は幼いときから父親の大病、父親の不倫と両親の不和、経済的なひっ迫という大変な苦労を経験してしまったと言えるでしょう。杏が渡辺姓を名乗らずに芸能活動をしていたのは、母や自分たちを苦しめる謙への反発があったのかもしれません。
トラブルを経ても変わらない両親
済んでしまったことを言っても仕方がないという人もいるかもしれません。しかし、渡辺家の家庭のゴタゴタは終わっていないのです。2017年、謙は再婚した女優・南果歩が乳がんで闘病中に元ホステスの女性と不倫関係にあったことを『週刊文春』に報じられ、2018年に離婚しています。
杏の母親も負けていません。2020年4月30日号『女性セブン』は杏が実母から12億円を要求されたと報じています。杏は芸能事務所に所属しつつ、個人事務所を設立し、母が社長の座に就いていました。嫌らしい言い方をすると、杏が母親を食べさせていたわけです。しかし、杏が芸能事務所と直接契約したいと母親に通達したことから、実母が通達の無効と総額12億円を求めて裁判を起こしたそうです。
同誌によると、杏が母親と距離を置こうと思ったのは、母親が霊能者に傾倒しすぎていることが原因としています。対して母親は、杏は独身時代に妻子ある男性やDV癖のある男性と交際し、そのことを霊能者に相談していたと、相談メールを証拠として裁判所に提出して「霊能者に頼っていたのは、杏のほうだ」と暴露したそうです。
こうやって見ていくと、父親である謙は再婚してもオンナ遊びをやめることができず、杏の母親も宗教や霊能者に過度に依存して、金銭的なトラブルを招いてしまうという意味で、2人とも「昔から変わらない」わけです。
子どもが親となって、親や家庭を支えてしまう
異性関係にだらしがない父親、精神的に依存しやすい母親というのは、親としてふさわしい資質とは言えないでしょう。このような不健康な家庭を機能不全家族と呼びますが、こういう家庭に育った子どもは性格にいくつかの特徴を持つことが知られています。
そのうちの1つが、心理学で「イネイブラー」(支え役)と呼ばれるものです。親が頼りないので、子どもが親となって、親や家庭を支えてしまうのです。ここの部分だけ聞くと、日本人が好む「親孝行ないい子」だと思う人は多いことでしょう。しかし、このイネイブラーがひたすら家族を支えることで、問題の解決は遠のいてしまいます。
また、イネイブラーが成長して恋愛をするようになると「自分が面倒をみないとどうにもならない人」、つまりダメ男を求めてしまうこともあるそうです。アルコール依存症家庭に育った女性が、「あんな親のようになりたくない」と強く思っているのに、結局アルコール依存症の男性と結婚してしまうケースがあるのは、このためです。
杏がこのタイプだと決めつけるつもりはありませんが、渡辺謙も実母も、この先変わらず、親としては適切でない行為を取り続けていくのではないでしょうか。
関係性が変わるのは“無責任”になれたとき
家族の問題で難しいのは、誰が悪いのかを簡単に決められないところです。謙の病気がきっかけで杏の母親が宗教にはまったと報道されていましたが、謙は好きで病気になったわけではありませんし、一家の大黒柱が若くして命に関わる病気になったとき、宗教に救いを求めても誰も責められないでしょう。しいて言うのなら、無事に病から生還した謙は不倫などしないで、これまで苦労をかけた妻子を大事にしてほしかったと思いますが、とりあえず言えることは、家族の問題で犠牲になるのはいつも子どもだということです。
親という名の「問題のある人」に関わり続ける限り、杏はずっと両親の“尻ぬぐい”をさせられ続けるのではないでしょうか。しかし、イネイブラータイプの子どもほど責任感が強くて、親を見捨てることができないことも、身近な事例で私は知っています。
仕事は順調そのものなのに、なぜか家族トラブルが絶えない杏。彼女がそういう家族を突き放して“無責任”になれたとき、関係性はまた変わってくるのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」