ゴールド投資で老後に備えよう

 コロナ不況の中、40年ぶりに史上最高値を更新している金(ゴールド)。

「昔から『有事の金』と言われ、自然災害や戦争などの非常事態が起こったときは、ゴールドの価格が上昇する傾向があります」

 そう話すのは資産運用セミナーを主宰する『JAMアカデミー』学長の吉田友哉さん。

「今はコロナショックだけでなく、米中の貿易摩擦、香港の暴動など、世界は不安定な状況です。さらに不況が続き、株価が暴落するリスクもある。そんな中、モノ自体に価値がある“実物資産”ゴールドを持っていると、ひとつの安心材料になるでしょう」(吉田さん、以下同)

“金”は不況にもインフレにも強い

 日本経済は長い間、デフレから脱却できず、預金金利はほぼゼロの状態が続いている。しかし金価格の推移を見てみると、ここ10年、右肩上がりだ。その要因は需要と供給のバランスにあるという。

「金は、そもそも地球で採掘できる量が決まっています。ですので『買いたい』という需要が増えても、産出量を増やすことはできない。つまり供給量に限りがあるのです。だから、みんなが欲しがると当然、価格は上昇します」

東京商品取引所の金相場を参考に算出した金1gに対する販売価格の推移。コロナ以降、急激に上がっている。

 近年は、世界的に需要が高まっている。

「外貨準備といって、各国の中央銀行が外貨建ての資産を蓄えていますが、その中に金を組み入れているのです。最近は特に中国やインドなど新興国が積極的に金を購入して保有しようとしているので、まだまだ需要は伸びると考えられます」

 株などの投資は、安値で買って高値で売るのが、儲ける基本。金価格が高い今、買うとソンするのでは?

「金の価格は、高い、安いの判断ができないもの。というのも、前述したように需要と供給のバランスで価格が決まるからです。例えば、金1グラム6000円なら高い、5000円なら安い、といった目安になる水準がないのです。

 ただひとつ言えることは、今後も需要が増え続けて、金の価格が上昇する可能性が高いでしょう」

 吉田さんがゴールド投資を推奨する、もうひとつの理由は、インフレ対策だ。将来的に、物価が持続的に上昇するインフレが起こるかもしれないという。

「コロナ禍で困窮する企業や国民に国はお金を配っています。そのために日本の中央銀行である日銀は国債を大量に買い取って、世の中に出回るお金の量を増やしています。

 お金の量が増えれば、お金の価値は下がり、相対的にモノの価値が上がる。つまり長い目で見ると、いずれインフレが引き起こされる可能性は否定できません」

 インフレになれば、貯金は実質目減りする。

「例えば、老後30年の生活費として2000万円の貯金を準備したとします。しかしインフレが起こって、もし物価が2倍になったら、貯金2000万円は半分の価値になって15年で底をつく。実物資産であるゴールドは、インフレが起きても、モノとしての価値が変わりません。物価上昇に耐えうる資産といえます」

 こうした理由から、吉田さんは「長い目で見て今後、起こりうるリスクを回避する、“守りの資産”として、ゴールド投資は有効」だという。

成功の秘訣は毎日コツコツ積み立て

 では、どうやってゴールド投資を始めればいいのか? 金の延べ棒を思い浮かべ、高額なイメージを持つ人も多いだろう。もちろん現物を直接購入する方法もあるが、吉田さんがすすめるのは、数千円から手軽に始められるゴールド投資だ。

エリート商社マンも実際やってる!

「ひとつは純金積立。毎月決まった金額でゴールドを購入する方法です。金の価格が高いときは買う量が少なく、価格が低いときは多くの量を買えるので、金の価格変動によるリスクを抑えられます」

 取り扱っているのは、田中貴金属工業や三菱マテリアルなどの地金商。田中貴金属工業の場合、積立額は3000円からスタートできる。

「パソコンやスマホのアプリから会員登録でき、最初に金額を設定しておけば毎月、自動的に口座から引き落とされます。購入したゴールドは地金商で保管してくれるので、管理する手間がかからず、盗難のリスクもありません」

 積み立てで購入した純金は、現金だけでなく、グラムに応じてジュエリーや金の延べ棒など現物にも換えられる。

 手軽に始められそうな純金積立だが、購入時の手数料がやや高め。田中貴金属工業の場合は、購入額に応じて1・5%~2・5%かかる。

「手数料を抑えたいなら、金価格に連動するETFがおすすめです。ETFとは株式市場に上場している投資信託のこと。具体的な商品名を挙げると、『金の果実』という純金ETFがあります。

 SBI証券の場合、購入時にかかる手数料は54円のみ(取引額5万円以下の場合)。金の果実は1口単位で購入でき、現在1口6000円ほど。純金積立のように毎月少しずつ買っていくのがおすすめです」

 ETFを購入するには、証券会社で口座を開く必要がある。SBI証券や楽天証券などのネット証券を利用すれば、オンライン上で申し込みができて手数料が安い。

 すでに証券会社の口座を持っているなら、その口座から購入できる。

「積み立てしたゴールドを、ジュエリーに換えたいといった希望があったり、とにかく手間をかけたくないというのであれば純金積立が便利。

 一方、少しでもトータルコストを抑えて利益を得たい人にはETFが向いているでしょう。毎月かかる手数料の差は、積立期間が長期にわたるほど大きいですから」

投資で大切なのは“分散すること”

ゴールド投資をするうえで、心得ておきたいのが、リスク対策だ。今は右肩上がりとはいえ、金の価格がガクンと下がる可能性だってある。

「ゴールド投資は預けていても金利がつかないし、配当金も出ません。一般的に世の中が好景気になると、株価が上がって配当金も出る、預金金利もアップするため、そちらのほうにお金を投入する人が増えます。すると、相対的に金の相場が下がることは考えられます」

 だからこそ、大切な老後資金の大半をゴールド投資に投入するのはNG。

「投資で大切なのは、分散すること。それがいちばんのリスク対策です。あくまでも資産の一部をゴールドにしておくと安心ということです」

 一部とはどのくらい?

「株や国債、投資信託など投資に回す金額の1~2割程度が目安。そうすれば、景気のいいときは、他の預金や株などで利益が出るでしょう。不況のときは、金価格が上がってリスクヘッジになります」

 短期の利益を期待するのではなく、長期的視点で老後の資産を作りたいならゴールド投資は向いている。

ソンしない金投資

【純金積立】

 積立金額を設定し、毎月その金額でゴールドを購入する。基本的な仕組みは月の積立額を営業日数で割った1日あたりの額で営業日ごとに買いつけていく。

■メリット・デメリット

手数料が割高だが投資額が一定になる

 積立金額は3000円以上、1000円単位が一般的。最初に金額を設定しておけば自動で口座から引き落とされ、毎月一定の金額で買えるのがメリット。購入時の手数料1.5~3%ほどと高め。

【金ETF】

 金価格に連動するETF(上場している株式のように売買できる投資信託)。自動積立はできないので毎月自分で購入する(オンラインで可)

■メリット・デメリット

手数料は安いが投資額が変動する

 購入時の手数料や保有コストが安く、トータルコストが低いのがメリット。NISAを使えば税制優遇も受けられる。購入は1口単位。購入時の相場で投資額が変動する。

《取材/村瀬素子》


教えてくれたのは…

『JAMアカデミー』学長 吉田友哉さん

野村證券に勤めた後、資産コンサルティング会社、(株)Japan Asset Managementに所属。JAMアカデミーを立ち上げ、一般向けにお金の勉強会を行っている。