腕やお腹がかぶれ、かゆくてたまらない……。それはいつも使っている「洗濯洗剤」が原因かもしれませんよ。そこで症状や対処法について専門医に聞いてみると――。
肌トラブルは
“特別なこと”ではない
連日の猛暑ですぐに汗だくになる日々が続く。あせもなのか、なんだか二の腕や背中やお尻だけがかかゆい。それってもしかしたら洗濯洗剤が原因かも?
「洗濯用の洗剤やシャンプーや化粧品など、肌に触れるものはどれでも肌トラブルやアレルギーを引き起こす可能性はあります。特別なことではありません」
そう指摘するのは、皮膚科医の野村有子医師。
洗濯用の洗剤には大きく分けて2つの種類がある。天然油脂や牛脂などの脂肪酸と苛性ソーダなどを反応させた『石鹸洗剤』。石油などを原料に界面活性剤など化学物質との化学合成で作られた『合成洗剤』。
肌トラブルの原因になるおそれがあるのが、合成洗剤の化学物質がすすぎ残しなどで衣類に残っている場合だ。
「汚れを落とすため洗剤の機能は向上し、多様化しています。使用する化学物質や成分が増えたことで昔の石けんだけの洗剤よりも肌トラブルになるリスクは上がっています」
と野村医師は注意を促す。
おすすめの洗剤
避けるべき洗剤
具体的にはどのような症状が出るのか。
「赤みやかゆみ、肌のざらつき、ぶつぶつするなどの症状が出ます。かゆみと皮膚炎がある場合は『洗剤のかぶれ』が起きている状態です。かゆくてかきむしると、どんどん悪化してしまいます」
特に気をつけたいのは肌が弱い人、あせもやアトピーなどの症状がある人だという。
だが、汚れがついた衣類を清潔に保つためにも普段の洗濯には洗剤の使用は欠かせない。では、どんな洗剤を選んだら肌にはいいのだろうか。野村医師が明かす。
「私がすすめるのは『パックス洗濯用石けん』『ヤシノミR洗たく洗剤』『シャボン玉スノール』『エスケー石鹸』といった天然由来の成分を使っているものです。自然分解するため、環境にも優しいです」
さらに、なんらかの肌トラブルが疑われている人は酵素入りや香料入りの洗剤も避けたほうがいい。
「無添加素材と表示された洗剤の中に香料が入っている場合がありますので、何が入っているのか確認することが大切です」
洗濯洗剤に使われているタンパク分解酵素は繊維のタンパク質を分解して汚れを落としやすくするが皮膚への刺激になりやすく、衣類にも残留しやすいという。人の皮膚もタンパク質、付着すれば悪影響を及ぼす可能性もある。
「また、タンパク分解酵素を使うと繊維が毛羽立ち、チクチクとした刺激感が出やすくなります。そのため、柔軟剤が必要になります。柔軟剤は繊維を滑らかにする効果はありますが、その成分は強く、すすぎが足りずに衣類に残っていると肌トラブルの原因にもなります」
洗濯用の洗剤による肌トラブルかどうかを見分けるポイントは、洋服が当たっている部分に症状が出ているか。
「赤みやかゆみなどの症状が出るのは、洗濯した下着や衣類が触れているところだけ。肌に触れているところと、そうでないところで症状がくっきりと分かれるんです(イラスト参照)」
例えば、長袖のシャツを着ていた場合、手首から先、首元など服が触れていない部分には症状が出ない。ほかにも衣類が肌に直接触れにくい背中の中央などは症状が出にくい一方で、下着のゴムの部分や肌に直接当たるところは症状が出やすい。
「部位で症状がくっきりと分かれることがポイントです。すすぎ残しなどによる洗剤のかぶれだけでなく『洗剤アレルギー』の場合もあります」
汗をかきやすい人は
要注意
『洗剤アレルギー』とは洗剤に使われている成分が原因でかゆみなどの症状を引き起こすもの。衣類に付着した原因物質は、皮膚から徐々に吸収され体内に蓄積される。そのため突然、発症する場合があるという。
「気づいていない人も多く、受診してパッチテストなどの検査で初めてわかる人も少なくありません。
なんらかの症状が出た場合は皮膚科を受診してもらいたいのですが、自分で判断する場合には先ほどお伝えしたように、洗濯した衣類が当たっている場所に症状が出ているかどうかをチェックしてみてください」
かゆみがひどいときは塗り薬や抗ヒスタミン薬といった飲み薬でかゆみを抑える治療が必要になる。受診し、薬を塗る、肌が乾燥していれば保湿をきちんとするなど、治療することで症状は改善されるが、
「洗剤が原因だと気づいていない場合は、治療しても原因となる洗剤を使っていたら永久に治らない」
洗剤を替えただけで症状がよくなる人も少なくないという。改善しない場合、ほかの病気などが原因の可能性もあるため早めに受診してほしい。
個人でできる対策として、肌着や洋服は肌への刺激が少ない綿やシルク素材に替えてみるのもひとつ。それでもかゆみが続くようなら洗剤が原因の可能性も疑って洗剤そのものを替えよう。
洗濯用の洗剤で肌トラブルが起きる人には何らかの共通点があるのだろうか。
「汗をかきやすい人も気をつけてほしいです」
汗によって衣類に残っている洗剤が溶け出てくることも考えられるからだ。
「洗剤による肌トラブルや症状が悪化するのは夏場に多いんです。残っている洗剤が汗などで溶け出てきて肌につき、それが原因で発症します」
汗をかきやすい乳幼児や更年期の女性では症状が出やすくなることも考えられる。
洗剤の容量や使い方を正しく守ることも肌トラブルを防ぐポイント。
「洗剤は量をたくさん使ったからといっても汚れが落ちやすくなるわけではありません。逆に洗剤が残り、トラブルになる可能性があります。適量を守って使うことが大切です」
節水モード、短時間モードは
なるべくやめる
さらに洗濯機の使い方もトラブル回避のためには大切。
パンパンになるほどに洗濯物を詰め込むと、汚れ落ちが悪くなり、洗剤も残りやすくなる。節水モードや短時間モードではすすぎが不十分になることもあるため、なるべくやめる。
きちんと洗濯することでリスクはずっと少なくなる。
「洗剤は今、いろいろなものがあり、よい悪い、というのは一概には言えません。いちばんは汚れが落ちやすく使いやすいものがいいと思いますし、乾いた後の好みの香りで選んでもいいと思います。ただし肌にトラブルがある場合に関しては、シンプルで余計な成分が入っていないものを選んだほうが肌にも環境にも優しいと思います」
●皮膚科医がすすめる! イチオシ洗濯洗剤
洗いあがりも安心! シャボン玉スノール(シャボン玉本舗)
成分は石けん成分のみ。油脂に含まれている保湿成分も残されており、洗いあがりもしっとり。製造には熟練のスタッフが携わり、においや味、手触りを確認するなど徹底している。
ヤシ油で肌に優しく! ヤシノミ(R)洗たく洗剤(SARAYA)
ヤシの実由来の植物洗浄成分は少ない洗剤量でもしっかり汚れを落とし、繊維に残らない。排水は微生物によって水と二酸化炭素に分解されるので環境にも肌にも優しい。
●『洗剤かぶれ』を防ぐ3つのポイント
「無添加や化学物質などの成分が少ないものをすすめていますが、コスト面などから手軽に買える洗濯洗剤を使う患者さんは少なくありません」
と話すのは、アトピーやアレルギー疾患のある当事者らでつくる『日本アトピー協会』の広報担当者。
特にアトピー性皮膚炎や肌の弱い人は洗濯洗剤で肌トラブルが起きる可能性が高い。そこで洗濯洗剤が原因のかゆみやかぶれを起こさないためのポイントを聞いた。
まず、すすぎをしっかりとすること。
「洗剤を選ぶことより、すすぎの回数や水の量が重要」
すすぎ1回や節水モードは避け、新しい十分な量の水でしっかりとすすぎ、衣類の汚れと洗剤を落とそう。
次に粉末洗剤の使い方。
「洗剤のカスが残るおそれもあるので、水で溶いてから使ったほうがいいでしょう。
汗のにおいが気になると香料入りや成分の強い洗剤を選びがちがちになりますが洗剤に頼るのではなく、こまめに汗をふいて、着替えることも大切です」
洗い替えを準備し、外出や出勤するのもひとつ。
「衣類に残った洗濯洗剤の成分が汗で溶け出せば、かゆみを誘発するかもしれません」
すぐに実践できるので「肌の調子が気になる」という人はまずは1度試してみて。
のむらゆうこ。野村皮膚科医院院長・皮膚科医。慶應義塾大学医学部卒業。'98年に横浜市に野村皮膚科医院を開業。同院ではアレルギー対応モデルルームやアレルギー対応カフェも併設。治療からスキンケアの指導なども行っている。