若年性更年期障害のために、さまざまな不調が起こり、人生の崖っぷちに立たされた経験のある葉石かおりさん。でも50代の現在、「あのつらかった日々がウソのよう♪」なのだとか。どうやって克服したの?
葉石さんの経験をもとに、彼女がドクターと二人三脚で見つけた最新の女性ホルモンとの付き合い方を紹介します!
2週間もたたないうちに症状がなくなった
「若年性更年期障害に気づかず、夫も仕事も失ってしまいました」と語るのは、酒ジャーナリスト&エッセイストとして活躍する葉石かおりさん。7月に『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)を出版したが、そこには女性ホルモンに振り回された葉石さんの壮絶な経験が描かれている。
葉石さんは30代の半ばごろから、仕事中に顔汗がしたたり落ちたり、めまいがひどくなったり、感情の起伏が激しくなってきたという。
「ちょっとしたことで怒りを相手にぶつけてしまい、感情がコントロールできないんです。まるで心に猛獣を飼っているようでした。私のひどい言動によって周りの人は離れていき、前夫とは離婚し、働いていた出版社はクビになってしまいました」
フリーランスになってから、婦人科医の吉野一枝先生に取材する機会があり、取材後にカウンセリングと診療を受けた葉石さん。
「血液検査の結果、若年性更年期障害と診断されました。30代でまさか更年期だとは思っていなかったので、ビックリしました」
もともと月経前症候群(PMS)による落ち込みがひどく、死にたくなるような気持ちになることもあり、心療内科を受診したときは、「うつ病」と診断されたという。
「そのときは精神安定剤を処方されましたが眠くなるだけで、イライラはおさまりませんでした。ところが、吉野先生から若年性更年期障害と診断され、低用量ピルを処方されると、2週間もたたないうちに今までの症状がウソのようになくなったのです」
女性ホルモンをコントロールして快適に生きられる
女性の閉経の平均年齢は50歳で、更年期障害はホルモンが不安定になる閉経前後の45~55歳くらいで起こることが多い。主な症状は、ほてり、手足の冷え、めまい、頭痛、過度のイライラ、不眠、うつ症状などだ。しかし、最近では30代でも更年期と同じ症状が現れる人が増えており、若年性更年期障害と呼ばれる。
「若い女性でも原因がわからない不調に見舞われたら、ホルモンバランスの乱れを疑って婦人科を受診したほうがいいです。我慢したり、婦人科ではないところを受診すると、私のように人生の大事な時期を台無しにしてしまう可能性があります。
婦人科にネガティブなイメージを持っている人もいますが、現代は女性ホルモンをコントロールして快適に生きることができる時代です。そのためにも身体のことを何でも相談できる婦人科の先生を見つけることが大切です」
葉石さんは40代は低用量ピル、50歳を過ぎてからはホルモン補充療法に切り替え、ホルモン量の低下と上手に付き合いながら、元気に過ごしている。
「低用量ピルには種類があるので自分に合ったものを選んで飲むことができます。月経困難症なら保険もききます。ホルモン補充療法も更年期障害なら保険適用で、更年期障害の改善はもちろん、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や動脈硬化を防ぐ働きもあります。どうしても薬が苦手な人や、病気でホルモン補充療法ができない人は漢方薬を使うという方法もあります」
日常生活では、自律神経を整えてストレスをためないことが、更年期障害を悪化させないことにつながるという。
「私はヨガに出会って、深い呼吸ができるようになり、心が落ち着くのを感じています。腰痛も改善しました。リラックス効果があるアロマテラピーもおすすめです。
また、私はお酒が大好きで(笑)お酒の魅力を紹介するのが仕事でもあるので、完全な“断酒”はムリ。若年性更年期障害でつらい時期はお酒でストレスを紛らわせていたのですが、精神も落ち着いた今は、おいしいお酒を適量飲むことを楽しみとしています」
昨今はコロナ禍でストレスが強まり、更年期障害が悪化してしまう人も少なくないはず。気になる症状があれば婦人科へ行って、自分に合った対処法を見つけてもらおう。
葉石さんの主治医・吉野一枝先生からアドバイス
葉石さんを15年にわたって診療してきた、よしの女性診療所・吉野一枝先生。更年期治療でクリニックを選ぶ際に注意点があるという。
「婦人科のなかには薬での治療にまだ批判的な先生や、お産が中心で更年期の相談がしづらいクリニックもあります。診療メニューに更年期障害と入っているところやクチコミで安心できそうなクリニックを見つけてください。初診は対面がいいのですが、お薬の継続などの場合、最近ではオンラインによる診療ができるところも増えているので、地方から東京のクリニックを受診するといったことも可能になってきました」
日本ではまだピルの普及率は低いが、世界的にはすでに普通のことだとか。避妊だけでなく、月経トラブルがある人には強い味方となる薬だ。
「月経痛の緩和など、ピルの処方は症状に合わせてオーダーメードで行います。副作用として不正出血、吐き気、胸が張る、頭痛、下腹部痛などがありますが、大半は3か月程度でおさまります。医療は進化しているので、婦人科のかかりつけ医を見つけて、知識を身につけることが大切です」
一方、ホルモン補充療法は更年期だけでなく、一生続ける人も少なくないそう。
「女性ホルモンが骨粗鬆症、動脈硬化、膣萎縮、尿漏れなどのトラブルを予防してくれるため、80代、90代でホルモン補充療法を行っている人もいます。肌や髪を若々しく保つことにもつながります。ホルモン補充療法は乳がんの関係を不安視される方もいますが、明確にはなっておらず、しっかり理解すればリスクよりもメリットが大きいと考えられています」
女性ホルモンの不調かな? と思ったら……
■1.まず婦人科へ
女性ホルモンが不調の原因と考えられる場合は、婦人科での治療が基本となる。ほてり、手足の冷え、めまい、頭痛、過度のイライラ、不眠、うつ症状などがあれば婦人科を受診してみよう。
内科や心療内科では女性ホルモンをコントロールする治療は行われないので、症状が改善しないことも多い。自分と相性がぴったり合う婦人科医を探すことも大切だ。
「更年期障害の治療は、大きい病院で担当医が曜日によって変わるところより、じっくり相談できる個人クリニックのほうがおすすめです。女性ホルモンの減少によって起こる症状は十人十色。更年期治療もオーダーメードで、定期的にクリニックに通い、医師と相談しながら治療のアップデートをしていきましょう」(葉石さん、以下同)
漢方は食間に飲むのが基本
■2.ホルモン補充療法
ホルモン補充療法は、原則的にエストロゲンが低下した女性、閉経後の女性が対象。更年期障害、また閉経後の骨粗鬆症などに効果を発揮する。治療薬には、飲み薬、貼り薬、ジェル剤の3タイプがある。飲み薬より外用薬(貼り薬やジェル剤)のほうが、胃腸を通過しないため副作用は少ない。
軽度の乳房のハリ、性器出血(使用を始めたころに起こりやすい)、頭痛などが起こることがある。
「ホルモン補充療法の継続期間ですが、最終的な選択肢は自分にあります。私の周りでも更年期を過ぎ、不快な症状も出なくなったし、薬に頼りたくないからやめたという人も実際にいます。私はできれば長く継続したいと考えています」
■3.漢方薬
ホルモン補充療法に抵抗のある方、また血栓症や乳がん、子宮がんなどを患った方向け。「3大漢方婦人薬」と呼ばれる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が有名だが、体質によって処方が変わる。
煎じて飲むタイプ、顆粒状、粒状などがあり、メーカーも多種多様。「漢方は食間に飲むのが基本で、忘れないことが大切。ホットフラッシュがおさまるなどの効果が期待できます」
■4.アロマ
自然の恵みであるエッセンシャルオイルは、リラックス効果があるものも多い。女性ホルモンに関係するアロマの代表格といえば、熱を冷まし、氣や血液の循環を促すゼラニウムが有名だが、実際に嗅いでみて合わないと思ったら無理して使うことはない。成分よりも、自分が好きと思う香りを選ぶのがいちばん。
「私のおすすめはオレンジ・スイートです。熟した甘いオレンジを連想させ、香りを嗅いだ瞬間、全身に氣が満ち、前向きになれます」
ヨガはメンタル面にも効果がある
■5.ヨガ
ヨガは身体だけでなく、メンタル面にも効果がある。深い呼吸を意識的に行うことで、ホルモンバランスや自律神経が整えられ、リラックス効果を得ることができる。あらゆる年代の人ができ、ヨガ教室に通うだけでなく、オンライン動画も豊富なので、自宅で好きなときに行ってもいい。
「気分が滅入ったとき、ヨガの呼吸法を行うと、イライラや不安感がスーッと引いていきます。更年期世代にはぴったりの運動法です」
■6.お酒との付き合い方
女性は男性に比べ肝臓が小さく、アルコールの影響を受けやすい傾向が。また年齢とともにアルコール代謝は低下していくので、更年期以降は注意が必要だ。
「ダイエットも兼ねて休肝日は意識的に設けることをおすすめします」
葉石かおりさん、吉野一枝さんの著書では、若年性更年期障害と診断され15年間、婦人科に通い続けて二人三脚で編み出した、女性ホルモンとの付き合い方を公開!
(取材・文/紀和静)