中島唱子。『ふぞろいの林檎たち』のスタッフや出演者とは、今でも同窓会を行うほど仲がいいとか

 かつて世間の注目を集めた有名人に「あのとき、何を思っていたか?」を語ってもらうインタビュー連載。当事者だから見えた景色、聞こえた声、そして当時は言えなかった本音とは? 今回は、'80年代~'90年代に社会現象を巻き起こしたドラマ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)で一躍、ブレイクした中島唱子(54)。“ぽっちゃり女優”の元祖とも言える彼女が、女優を続けようと思ったある人からの言葉とは──。

『ブスのオーディションを1位で合格』と紹介された

 '83年にスタートし、'97年までにシーズン4まで放送された人気ドラマシリーズ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)の谷本綾子役で一躍ブレイクした中島唱子。

 女優デビュー作ながら当たり役をつかんだ彼女だが、きっかけは少し変わったオーディションだった。

《容貌の不自由な人を募集します》

 今から37年前、TBSに貼り出された1枚のビラ。身長が高すぎたり、太っていたり……と、肉体的コンプレックスを抱える人を求めるその募集こそが、『ふぞろいの林檎たち』のオーディションだった。

「当時、所属していた劇団のマネージャーがTBSを歩いていたら締め切りの日に偶然そのポスターを見たそうで。それで慌てて私のプロフィールを持って行ったそうです」

 トントン拍子で最終オーディションにも合格。その翌日、新聞で『ブスのオーディションを1位で合格』と紹介されている自分の写真を見つけた。

「その記事を読んで、初めてオーディションの内容を知ったんです」

 中島の落ち込んだ様子に気づいたスタッフに、こう気持ちをぶつけたという。

「この役をもらえたのは、私が不細工で太っていたからですか? もし、そうだとしたら、恥ずかしくてテレビに出られませんと伝えました」

 その後、すぐに脚本家の山田太一氏から伝言が届く。

「容貌だけであなたを選んだわけではありません。オーディションのときのあなたは誰よりも輝いていました。誰よりもかわいく描きますから、オーディションに来たときの気持ちで演じてくださいと言われ、前向きになることができました」

孤独な少女が芝居の世界に魅了されて

 父親の浮気が原因で7歳のときに両親が離婚。幼少期は父方の祖母と一緒に暮らした。14歳で父親が他界。その後は、再婚した母親のもとで暮らすことに。そんな複雑な家庭環境で育った孤独な彼女は、芝居の世界に魅了されていった。

「ドラマや映画を見ながら、自分もいつもその世界にいました。架空の世界で生きる人たちに魅了されて、ひとり芝居を誰もいないところでしていましたね」

 15歳のとき、高校入学と同時に劇団に入団。そんな彼女が、女優として頭角を現すのは必然だったのかもしれない。デビュー作の『ふぞろいの林檎たち』は今も語り継がれる名作に。中島の初々しい演技も好評となり次々と仕事が舞い込むも、肉体的コンプレックスを抱えながら女優を続けることに葛藤を感じていた。

「若いころは周りのきれいで輝く人たちと一緒に仕事をするのがとてもつらかったです。やせたらもっといい役もできるのだろうか? と、無理なダイエットをしたことも」

 そんなとき、演出家に言われた言葉にハッとしたという。

「“20代でキラキラしているスターでも、30代にほとんど消えていく。40代まで残れたら本物だよ”って。ルックスに関係なく芝居がうまい人しか残らないとアドバイスされて、それから人と比較して卑下することをやめました」

憧れの俳優の恋人役に

 長らく抱えていた悩みを解消してくれたのも『ふぞろいの林檎たち』だったようだ。

「20代、30代……と設定の変化だけでなく、同じ役で私自身も成熟できたのは貴重な体験です。柳沢慎吾さん演じる実と結婚したり、回を重ねるたびに私の役が幸せになっていくのも、見た目の美しさだけでない幸福の形が描かれていたり、本当によい作品に出させてもらったなって」

 劇中では柳沢と結婚するという役どころだが、実際に中島は柳沢のファンで思いを寄せていた。

「オーディションを受ける前から彼のファンだったんです。 憧れの俳優さんの恋人役だったので、あの役を演じていたときは毎日がシンデレラのような気持ちでしたね」

シーズン4まで制作されたドラマ『ふぞろいの林檎たち』。中島は柳沢慎吾と夫婦になる役を演じた

 現在はニューヨーク在住のミュージシャンと結婚しているが、自宅にも柳沢とのツーショット写真を飾るほど“柳沢愛”は現在進行形だ。

「私の出版記念のイベントで柳沢さんに司会をやってもらったのですが、そのときのツーショット写真が夫との写真よりもたくさん飾ってあるんです。最近では、日本にいるときは、頻繁に電話で話していて、家族のような存在になっています」

 '18年に制作されたNetflixオリジナルドラマ『宇宙を駆けるよだか』では、ここ数年、人気を集めているぽっちゃり女優・富田望生の母親役を演じた。

「私がデビューした当時は、ぽっちゃりしていると役がかなり限定されていたので、富田さんの活躍を見るといい時代になったなと思います」

毎回デビュー作のつもりで挑んでいる

 新型コロナの影響で放送が延期になっていた、NHKのBS時代劇『明治開化 新十郎探偵帖』も、12月から放送することが決定している。

「今回のドラマは私の大好きな明治時代のお話だったのでワクワクして撮影に臨みました。外国からたくさんの文化が入ってきて、日本が大きく動き出す時代を舞台に魅力あふれるキャストで、いままでにない時代劇が新鮮に描かれています。共演の俳優さんたちもほとんどが、初めての人たちで新鮮で刺激的な現場でした」

現在はニューヨークに住み、日本と行き来しながら仕事を続けている

 個性派女優として確固たる地位を確立した中島だが、本人はそう感じていないようだ。

「どんなベテラン俳優でも作品が替わればゼロからのスタートになる仕事なので、新しい作品に入るときは毎回デビュー作のつもりで挑んでいます。時代の変化とともに撮影現場の環境も変わっていきますし、新しい技術も俳優さんもどんどん変化しています。だからこそ、時代に合わせられる柔軟性と確固とした独創性も、同時に求められている気がします」

 そんな中で、彼女の演じるうえでのポリシーとは?

大事なことは、常に新しい自分を創り上げる挑戦をやめないことだと思います。日常を丁寧に過ごすことが、次のチャンスが来たときに、より豊かに役と向かい合える原動力になります。“この役は中島唱子にしかできない”と思ってもらえるように、自分を磨き続けたいですね」