「やたらに検査が多い病院」「会計をしたら請求金額の高さにびっくりした」「本当に効くのかわからない薬をたくさん出された」──。
それは患者の知らぬ間に“ムダな医療”の餌食(えじき)にされているからなのかもしれない。
そこで、患者の回復は二の次にして金儲(もう)けに走る“強欲”病院を見分けるポイントを紹介していく。今回は“ブラック眼科”についてチェックしたい項目を見ていこう。
悪知恵をしぼる病院は珍しくない
最初に医療には「ムダ」がある点をおさえておきたい。
長年にわたり「ムダな医療」の問題点を取材してきた医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう話す。
「医療行為の前提は“患者にメリットがあること”です。ただ、そのメリットよりもデメリットが上回ることがある、それが『ムダな医療』として問題になります」(以下、発言は室井さん)
鍵になるのが『誘発需要』というワード。病院側が金銭的な利益を得る、病気の見逃しなどリスクを避けるという理由から患者に対し、医療が過剰に行われることを指す。
「患者は病気に関しての情報が医師と比べて圧倒的に少ないため、“この治療が必要だ”と言われても“不必要です”とは断れません」
強欲病院は、まずそこを狙ってくるのだ。患者をカモにする病院でも、もちろん必要な治療はするが、そのほかが過剰になる。
いきすぎれば即ブラック病院と悪評が立つ。そのため患者に気づかれることなく検査、治療費をよけいにえられるよう、あの手この手を考え、抜け穴を見つけるのだ。
「医師だって生活がありますから、“儲けたい”という金銭的な動機がまったくない人なんていません。ですから、ある程度はしかたないですがやりすぎれば問題です」
病院の収入となる患者が支払うお金はすべて厚生労働省によって金額が決められている『公定価格』。病院が勝手に決めることはできない。
「医療機関の健康保険からの収入は審査されますので、ルール破りの医療をする病院は注意を受けます。ですからルールの中で最大限稼ごうと悪知恵をしぼる病院は珍しくはないのです」
慢性疾患の患者は狙われやすい
病院の形態もさまざまで、“カモる理由”を作る背景も異なる。
例えば医療法人などが経営する大規模な『総合病院』では、医療コンサルティング会社に経営を任せている場合もある。そうなると病院側はコンサルティング会社に言われるがまま、患者集めと利益の積み増しに必死になる。
患者に対し、必要以上の検査など医療行為を行い、利益に結び付けようとする。
病院には外来、入院などの部門がある。そこでどういった医療を施せば収入が最大になるかを病院は模索。“患者=顧客=金づる”として見られがちになるのだ。
一方、規模の小さな『個人病院』や『クリニック』の場合は経営状態が安定していないところも多く、病院存続のために患者をカモにしているケースも考えられるという。
では、どんな眼科が患者を狙っているのだろうか。
まずターゲットになりやすいのが、『ものもらい』などの急性疾患よりも、『緑内障』『白内障』のように徐々に悪くなる慢性疾患の患者。
「病院側にとって、通院患者を毎回来てくれる“常連客”にすることが大切なんです。外来で1度にがっぽり取ろうではなく、定期的に通院してくれる患者の医療費に少しずつ上乗せする」
眼科にとって「いい収入源」になるのが慢性疾患の手術だという。
患者の願いは、いい治療をしてもらい、後遺症もなくて、目もよく見えるようになること。手術をするにしても早めに家に帰ることを願う。
一方、病院は患者をすぐに帰すと入院費が取れないのでなるべく引きのばしたい。
「実は白内障の手術にしても極端。日帰りで一気にやるところもあれば、数日のところから、ひどいと1か月くらい入院させてガッツリ入院費を取るところもあります」
カモられないよう入院先の病院を選ぶことも大切だ。
まず、ポイントにしたいのが入院期間。
「病院ごとに決められているので、あらかじめ確認することができます」
健康保険で自己負担は減るが一泊で総額おおよそ1万円ほどかかる。
「入院でのメリットがあることは確かですが、あまりにも長く滞在させられ、検査が続く場合には要注意」
病院にとっては1泊させるだけで収入が増えるため、大きな収入源となる。
患者は、手術自体の費用も気になるところ。
「だいたい片目で十数万円からです。片目ずつ別の日にやるのか、両目を1日でやるのか。片目ずつ別々の日にやったほうが、手術費も入院費も高くなる傾向があります」
日帰りで多くの顧客(患者)を呼び込むクリニックはそれと比べれば真逆と言える。
一日で何人も手術して、数日で治療は完了。これだと患者の負担は少なく、生活への影響も減る。一方、病院の経営面では厳しくなる。新規の患者が安定して来てくれるかわからないからだ。病院は安定収入を考えて患者の人数で収入を増やすより“ムダな入院”に走りがちになる。
「日帰りにするか、入院にするかはライフスタイルに応じて決めましょう。日帰りで手術をした後の通院が大変なら入院のほうがいいこともあります。それに予算も大切です。治療費は病院に問い合わせて確認しましょう」
入院先を決めるときにはその病院で手術を受けた人に相談したり、ネットなど口コミを参考にしてもいい。
診察費の相場はどのくらい?
中には検査で儲けようとしている病院もある。
「これは入院ではなく“外来”です。なんらかの症状があれば別ですが、定期的な通院でそのつど、精密検査をやるのは怪しいです。例えば眼底検査などを必要以上にやる。症状もないのに診察で“毎週来て”と言われるなどです」
大きな病院の場合は、症状を見落とすリスクを避けるため、念のために複数の検査をしている場合もあるという。
また診察費の請求で数万円を超える高額請求をされたことがある人もいるはず。
「精密検査も公定価格で決まっているので、最新機械を導入していようが金額は変わりません。保険診療なので、外来で驚くほどの値段の検査はあまりないと思います」
眼科ではどれくらいの診察費が相場なのだろうか。
「通常ですと、だいたい2000円くらい。三次元画像解析してもらっても5000円程度。健康保険が使える検査であれば、ここから自己負担は3割などに抑えられます」
法律で医療機関は費用の広告ができないことになっている。そのため、かかる費用の目安を知りたいときには問い合わせを。請求後は内訳もチェックすると安心できる。
さらには薬をもらうときもチェックしよう。
「中には目薬自体も意味がないと言っている眼科医もいます。患者側にしてみれば保険もきくし、病院側としては気軽に出して収入をアップする手段になっているんです。ですから漠然と処方されている眼科の目薬も実は多いと思います」
「安心だよ」と強調する医師は逆に不安
SNSやネットなどを利用して病院の情報を収集することもカモられないための第一歩だ。
「あんまりめちゃくちゃなことをしている医師は悪評が立っています。無駄な検査や入院が横行していれば、患者は行かなくなります。
病院にとってマイナスな情報や噂は口コミで広がりますから、そこから病院の信用を探るのもいいでしょう」
初めて受診する際には事前に電話や医院のホームページを利用して、病院の治療方針や入院について情報を得ることも大切だ。
入院費や治療費についても、あらかじめ目安を電話などで聞いて確認しておくのもいいだろう。
「医療分野はどんどん新しい知識が出てきていますので医師が新しい情報を積極的に取り入れようとしている姿勢も大切です。医師も情報収集を怠ると、最新の医療からおくれていきます」
だから昔からの経験を強調して診察、治療をしている病院も要注意かもしれない。
患者の質問に答えたり、相談に応じたり、医師の患者とのコミュニケーションのとり方も見ておきたい。
「いい病院は治療方針を患者さんと一緒に決めてくれるところですね。患者さんのサポートをして疑問に答えながら意思決定を助ける、という考え方をもっている医師は安心できます」
治療に際しては、患者にとってデメリットを伝えてくれるのも必要なこと。
「手術は危険と隣り合わせ。白内障の手術もでもなんらかの理由で大出血を起こし、失明させてしまうことはありえます。そのリスクを患者さんに伝えることも大切です。“安心だよ、安全だよ”と強調するところは、逆にリスク管理に不安も感じます。
悪いことも事前に想定し対策をとるのが大切。ですからそれも含め一緒に考えましょう、と言ってくれる病院が好ましい」
患者が手術をするかどうか決めかねているときに、無理に手術誘導するような病院もよくないという。
「手術や検査など、いい収入になる医療行為を無理に誘導していく動きはそもそも医療倫理に反しています。不安につけ込む病院がいちばんひどいです。
とはいえ患者さんの回復よりもお金儲けに心血を注ぐような病院はごくまれです」
これらのポイントをもとに、写真ページのチェックリストを参考にして、今通院している眼科をチェックしてみよう。
【PROFILE】
室井一辰 ◎むろい・いっしん 医療経済ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程卒業。医療専門メディアなどを中心に記事を執筆、業界を幅広く取材する。『絶対に受けたくない無駄な医療』(2014年日経BP)など著書も多数。https://isshinmuroi.com/