容疑者の自宅アパート。手前の駐車場でタイヤをパンクさせた

「怖くて夜も寝られませんよ。夜中に突然、家へ押しかけてきて、私に会おうとするんです」

 憤りを隠せない様子で語るのは、ストーカー被害に遭った女性のAさん。昼夜問わない容疑者の執拗な訪問に、心底困り果てていた─。

次男が語る、変わりゆく父の姿

 ストーカー規制法違反で8月26日、逮捕された茨城県潮来市の無職・土居慶久容疑者(80)。過去に警察の警告があったにもかかわらず、8月12日と15日にAさんの自宅に押しかけた疑いがもたれている。容疑者は犯行を否認している。

 近所でも土居容疑者の迷惑行為は有名だったようだ。容疑者が暮らす県営アパートの近隣住民によると、

「駐車場の隣に止まっている車に泥をぬったり、バックするときに後ろの車にぶつけて傷をつけたり、やりたい放題ですよ。でも文句を言うと怒りだして面倒なので、被害に遭った方は泣き寝入りです」

 近隣の団地一帯で発生していた“怪奇事件”の犯人も容疑者だったようで……。

「ある日、車に乗ろうとエンジンをかけると違和感が。見ると、後輪タイヤ2本に穴があけられていたんです。まさか犯人が、今回ストーカーで捕まった人と同じ人なんて……」(別の近隣住民)

 土居容疑者は2019年6月、アイスピックのようなもので団地に停車する車のタイヤを突き刺してパンクさせたとし、逮捕されていたのだ。被害は近隣の団地で相次いでいた。その後、容疑者は実刑判決を受け、半年ほど服役。

 なぜ、これほどまでに奇行を繰り返すのか。

「父は昔はまじめだったのですが、仕事を辞めた後におかしくなってしまって……」

 同じ団地に暮らす容疑者の次男を訪ねると、驚くべき過去を明かしてくれた。

 福岡県で生まれ育ったという土居容疑者。住友金属工業(現・日本製鉄)で40年間勤めた経歴をもつ。懐かしそうな表情で次男が語る。

「初めは福岡県で、転勤を経て茨城県に。若いころは実業団野球の選手として活躍し、強豪チームだったので、よく表彰されていましたね」(以下、次男)

 至ってまじめな会社員生活を送っていたという容疑者は20年ほど前、定年間際に依願退職でリタイア。3500万円の退職金を受け取り、1か月あたり20万円という裕福な年金生活がスタートした。ところが……。

離婚後を機にはじまった転落人生

「10年ほど前に母と離婚したんです。お互い気が強く、昔からケンカが絶えませんでしたからね。離婚前にはすでに別居していました」

 信じられないことに、離婚届は夫である土居容疑者が一方的に提出したものだった。

「父が文書を偽造して、勝手に母のサインを書いたんです。母は離婚の意思はなかったようですが、文句は言いませんでしたね」

 その後は千葉県の船橋市で長男と暮らしていた容疑者の元妻。しかし4年ほど前に亡くなってしまったという。

 離婚を機に、容疑者の転落人生が始まった。

「父は離婚してすぐ、中国人の女性と籍を入れました。しかし彼女はすぐに中国へ帰ってしまい、そのままがんで亡くなりました。その後は台湾人の女性と交際していましたが、勤務していたスナックのママを殺してしまい、逮捕。そのまま別れたようです」

 このころから金遣いも荒くなっていたようで……。

「派手に女性に貢いでいたようです。趣味のパチンコを朝から晩まで打っていたこともあり、退職金3500万円はすぐになくなりました」

 まじめだった容疑者がなぜ、これほどまでに変わり果ててしまったのか。

「父は離婚した後、脳梗塞を患い何回も倒れています。それからですね。急に怒りっぽくなりました」

 異常な行動も目立つようになった土居容疑者が、犯罪行為に手を染めるようになったのもこのころからだ。

「いちばん初めは交際女性が病院で医師にセクハラされたと訴えたとき。医師を脅して金を取ろうとしたんです。脅迫で訴えられましたが、このときは逮捕されませんでした」

 しかしその後、スーパーでビールや明太子などを窃盗し2度逮捕されている。そして昨年のタイヤのパンク事件や、今回のストーカー事件。

「病気で何かが変わってしまったのかもしれません……」

 手に負えないといった様子で次男は肩を落とす。

 そんな絶望のさなかで出会ったのが、今回ストーカー被害に遭ったAさんだった。

被害者のAさんの告白

 週刊女性に事件に対する苦しい胸の内を打ち明けてくれた。

「土居さんと出会ったのは2011年。知人の紹介でした」

 容疑者と同じく、配偶者である夫に先立たれたAさん。2人でよく潮来市にある公衆浴場に出かけていたという。カラオケなど娯楽施設を併設する場所もあり、地域の高齢者の憩いの場となっている。

容疑者とAさんが通っていた銭湯。カラオケ施設を併設している

「どこへ行っても土居さんは大声で怒鳴り散らすから、私が一緒にいてあげないとみんな相手にしてくれない。それで付き添っていたんですよ」(Aさん、以下同)

 いつも一緒にいるため周囲の人は口をそろえて“男女の関係”だったというが、

「そういう関係はないです」

 と断言する。

 ひとり身暮らしを続ける容疑者のことをAさんはかねてより気にかけていたようで、

「生存確認で毎日、あいさつメールが送られてきましたね。1度、全く連絡がつかなくて不安で確かめてもらったら、土居さんが家の中で倒れていたこともありました」

 そんな命の恩人でもあるAさん。仲のよかった2人の間になぜ、今回のような事件が起きたのか。

「何度も逮捕されるような人とは関わりたくないの」

 と、愛想を尽かしてしまった様子。

「1回目に家に押しかけてきたときは夜中で、電話に出ないからという理由でした。その後も、“飼っている犬を殺す”“家に火をつけて俺も死ぬ”と、家の前で脅迫されて……」

 そして感情をあらわにし、

「私だけならまだしも、夜中に押しかけられて、関係ない(同居する)私の子どもまで巻き込まれたのが許せません」

 と憤慨する。耐えかねた家族の通報もあってその後、容疑者は逮捕された。

 恩を仇で返されたというAさんだが、それでも土居容疑者を思う気持ちはあるようだ。

「本人は(容疑を)否認しているというから、なぜ捕まったのか理解していないのかなと考えるとかわいそうにも思えます。80歳にもなって、牢屋暮らしになったら大変でしょうに……」

 周囲に支えられながらも身勝手な行動を繰り返す容疑者。

 しっかりと更生するまでの時間は、はたしてどれだけ残されているか……。