「寝ようと思っていると眠れない」「明日の仕事がプレッシャー……」などといった不安や緊張から、なかなか寝つけない経験をしたことがある人は少なくないはず。
これは交感神経が活発になり、身体の筋肉も固まっていることが理由とみられる。
そんなときに試したいのが『米軍式睡眠法』だ。
米軍が実際に使っているといわれる睡眠方法で、わずか2分で眠りにつける。
記者も『米軍式睡眠法』のトリコに
快眠セラピストの三橋美穂さんによると、
「兵隊が最前線に出ると緊張で眠れなくなることから、こうした睡眠法が考案され、トレーニングされています。特徴は緊張状態でもすぐ眠れるところです」
戦場に限らず、このコロナ禍で“この先どうなるんだろう”とか“感染したらどうしよう”などの先の見えない不安や緊張が続き、眠れないと訴える人は少なくない。こうした状況にも米軍式睡眠法は向いているという。
そのやり方を聞いてみた。
「ポイントは深い呼吸と身体の緊張をほぐしていくことです」
まず、ゆっくり深呼吸をしながら身体の上から下に向けて緊張を解いていく。身体のパーツひとつひとつを意識し、緩めていくことが大切。そして最後に10秒間、『青空と湖』もしくは『ハンモックで揺られるところ』もしくは『“考えるな”と頭で何度も繰り返す』、この3つのいずれかを選択し、頭を空っぽにする。これだけで深い眠りに誘われる(詳しくは3ページめを参照)
この間、たった2分。道具も事前の準備もいらない。ただ横になるだけでいいのだ。
効果のほどを確かめるべく、実際に記者も試してみた。
深呼吸を繰り返しながら青空と湖を思い浮かべていたところまでは覚えている。
気がつくと6時間たっていた。寝苦しい熱帯夜にもかかわらず夢も見なければ1度も起きることなくぐっすり。目覚ましのアラームよりも先に目が覚め、頭も非常にスッキリしていた。
寝つくまでには2分以上かかってしまったが、その間、意識したのは深い呼吸の繰り返しと力を抜くことだった。
「米軍式睡眠法を行ううえで難しいのは身体の力のゆるめ方でしょう。というのも私たちは普段、どこに力が入っているか意識していませんので」
質のいい睡眠によって人間関係も良好に
そこで、身体の力の抜き方のコツを教えてもらった。
「力を抜きたい場所に力を入れ、そのまま5秒ほどキープ。次に一気に脱力します」
この動作を行うことで身体のこわばりが取り除かれる。
全身の筋肉が緩むことで、脱力した、リラックスしている状態になることから深い眠りにつくことができ、睡眠の質もアップするという。
さらに眠る前にお風呂に入り身体を温め、マッサージやストレッチでほぐす。快適な室温、明るさで寝室を整えるとより効果を高められる。
「睡眠は日中のすべてのことに影響していて、眠ることで健康的になり、気持ちも前向きになります。それに美肌効果もあり、きれいな髪も手に入ります」
仕事の集中力もアップし、人間関係もよくなるという。
「睡眠不足だと気持ちもネガティブになります。おまけにイライラするのでケンカもしやすくなる。パートナーに当たりやすい人は、ちゃんと睡眠がとれていないのかもしれないですよ」
いくら米軍式睡眠法を試しても眠れない場合もある。
「例えば、夕方や晩ご飯後にうたた寝をしたり、コーヒーなどのカフェインをとる。寝る直前までスマホやタブレットのブルーライトを浴びていると目が覚めてしまい、効果が期待できません。また、飲酒も寝つきはよくなるかもしれませんが、アルコールによって眠りが浅くなるため、朝まで深く眠れない」
三橋さんによると米軍式は自分でやりやすいようにアレンジすることがポイントだという。
「あおむけでも横向きでも、力が抜けてリラックスできる体勢をとってください。この睡眠法はコツをつかめばどこでも眠れるようになります。最後のステップに進む前に眠ってしまうと思います」
ただし、2分で眠りにつくのはなかなかハードルが高いようにも思える。
「通常2分で眠れるというのは睡眠不足が借金のように積み重なった“睡眠負債”の人が寝落ちするような状態です。ですから、この方法を試して多少時間がかかっているからといって効いていないわけではありません。
2分で眠れない、この方法でも眠れない、とストレスを感じないことが大事です」
効果には個人差がある。しかし、繰り返し、練習をしていくことで徐々に慣れて眠れるようになるのだ。
「米軍式睡眠法だけでなく、いろいろなメソッドを試して、自分に合う睡眠スタイルを見つけることが大切です」
米軍式睡眠法にチャレンジ!
ステップ1. 身体の力が抜ける楽な体勢で横になり、目を閉じる
ステップ2. ゆっくりと深呼吸をしながら全身の緊張を解く
・顔の筋肉をリラックスさせる。目のまわり、頬、口もとの順で上から下に向けて力を抜いていくイメージをし、ゆっくりと息を吐き出し、深呼吸を繰り返す
・深呼吸をしながら上半身をリラックスさせ、次に太ももから、つま先まで脚の筋肉の緊張を解く
※肩を真上にひっぱりあげるようなイメージで持ち上げて、一気に緊張を緩めると身体の力が抜ける
ステップ3. 頭を空っぽにするために10秒間イメージ。次のうち、ひとつをやる
・青空の下、静かな湖に浮かべたカヌーに寝そべっているイメージ
・真っ暗な部屋につるされたハンモックに乗せられ、心地よく揺られているイメージ
・頭の中で「考えるな」という言葉を何度も繰り返して言う
→上記3ステップを実施し、全身の力を抜いて頭が空っぽになれば一気に眠りにつける
※効果や入眠時間には個人差があります
■リラックスできる呼吸法
1. 息をすべて吐ききる。お腹の中の空気をすべて吐ききるようなイメージをする。
2. 吐き出したお腹の中に空気を入れて膨らませるイメージで息を吸う。ポイントは鼻から吸うこと。
3. 目いっぱい息を吸い込んだら、3秒ほど息を止め、ゆっくりと息を吐いていく。すべて吐ききったら再び鼻から吸う、を繰り返す。
【PROFILE】
三橋美穂(みはし・みほ)さん ◎快眠セラピスト1万人以上の睡眠相談、寝具メーカーのコンサルタント、グッズプロデュースなどに携わる。頭を触るだけで、その人にピッタリ合う枕がわかる「眠り」のスペシャリスト。『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』など、著書も話題に