先の見えない自粛生活の中、特にダメージの大きい“接待を伴う飲食業”。そんな中、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)で密着取材された高級クラブのママが語るコロナに翻弄される銀座の“今”──。
「銀座という街は、大手企業の立場のある方もたくさんいらっしゃいますので、自粛が解けたとはいえ、なかなか厳しい状況ではありますね。売り上げ的には以前の半分くらいです」
銀座という一等地でビルを1棟借り上げ、クラブ『Nanae』を経営するオーナーでありママの唐沢菜々江さんは、現在の新型コロナによる経営への影響をこう語る。
感染防止対策はできる限りしているが
新型コロナ感染者の増加で4月に緊急事態宣言が発令され、外出自粛とともに“密”になる接待を伴う飲食店にも、国や自治体などから営業自粛の要請が出された。そのときを振り返り、
「『Nanae』以外にもワインバーなど小さい店舗も経営しているのですが、コロナ禍以前だとすべて合わせて、だいたい1か月に1億円くらいの売り上げがありました。それが自粛要請で4月から6月の半ばまで約2か月半の間、休業しましたので、入るはずの売り上げ2億5000万円がゼロでしたね」
『Nanae』は会員制のクラブで一見さんはお断り。セット料金は4万円からで、焼酎のボトルが2万円~、ウイスキーが3万円~という高級店。テレビのドキュメンタリー番組では、常連客が高級シャンパンなどを開け80万円を超える会計をする姿も放送された。
営業が再開したとはいえ、収束の見えないコロナ禍の中、常連客たちの足も店から遠のいているという。
「お客様からたまに“元気なの? 大丈夫?”とお電話をいただくこともあります。“俺も行きたいんだけど会社がね……。社員たちには、夜は飲食せずにできるだけ帰るようにと言っている手前、自分がお店に行ったことがバレちゃうとまずいから”って(笑)」
飲食店でのウイルスや“密”対策が厳しく求められている現在、自粛後のオープン前には店内に抗菌塗布を施すなど、できる限りのことをしている。
「入店される際には入り口で除菌の噴霧器で全身の消毒を10秒していただき、そのあと非接触型の検温器で体温を測定。『日本水商売協会』さんがガイドラインとして出された、渡航歴がないなどといった15項目くらいをチェックシートに記入していただきます。
マスクもお店のロゴが入っているものを配布させていただきまして、ハンドジェルで手の消毒をしていただきます。あと、おしぼりも危険だということなので、普通のものより厚めの使い捨てのおしぼりを今、発注しているんです」
席にもアクリル板で衝立をして、オゾンで除菌する装置も設置。まさに万全という対策を立てている。しかし、自粛が解けた後に新宿の接待を伴う店でクラスターが発生。“夜の街”というくくりで世間からの風当たりが強くなった。
こういった流れを菜々江ママはどう見ているのか?
「SNSの書き込みはひどかったですよ。“なんで店を開けているんだ”“やめてしまえ”とか……。そういった意見に対して、すべてを否定できないとは思います。銀座ではないにしても、現にクラスターとなってしまったお店があるのですから」
すべてをお店の責任とするのは違うのでは
しかし、飲食店にだけ批判の矛先が向けられることには疑問がある、とこう続ける。
「一般の方が知っているのかわかりませんが、OLが知らない男性と食事をしてお小遣いをもらう“ギャラ飲み”ですとか、銀座ならナンパ通りと言われているコリドー街で、サラリーマンが女性に声をかけて食事をしていることも問題ではないでしょうか。
“ギャラ飲み”なんて、女性が1日に何組も掛け持ちして居酒屋などでお食事しているじゃないですか。そういうところでコロナが広まっているのが実は多い、という話がありまして。お店でコロナ対策をいろいろ考えてやっているのに、それでも飲み屋さんが悪いと言われるのは、ちょっと違うかなという気持ちがありますね」
また、個人事業主に対する持続化給付金がホステスにも払われることに対し、批判の声が集まった。『ダウンタウン』の松本人志も、「普段の(ホステスが)もらっている給料をわれわれの税金では払いたくない」という発言をして物議を呼んだ。
「ホステスさんの収入は確かに多く見えますが、そこから出ていく経費もすごく多いんです。毎日のお着物、髪の毛のセット、深夜になればタクシーでの帰宅──。そういったことは、全部自分のお給料から出るので、すべて領収書をもらい個人事業主として確定申告している子が、特に銀座はすごく多いんです。
うちにはいませんけど、申告しないで所得を隠して税金を納めてこなかった子は、今回、給付金はもらえません。たくさん稼いで、税金も払っていないのに給付金をもらうなと言われるのはそのとおりだと思いますが、きちんと申告して税金を払っているのですから、昼間の仕事をしている方もそういうことをわかっていただけるとうれしいな、と思うんですけど。ホステスさんはお店が閉まってしまうと、収入がゼロなんですから」
マスクの無料配布をスタート
そんな逆風の中、ツイッターやインスタグラム、YouTubeでマスクを配布するという『マスクチャレンジ企画』を実施。マスクの入手が困難な時期に無料配布を始めた。
「うちで立ち上げたオンラインショップがあるのですが、そこの顧問で入ってくださっている方から“マスクを大量に入れられる”と連絡をいただきまして。最初は困っている方がいるなら少しお譲りしようかと思っていたのですが、銀座のママでSNSやメディアに出る人が少ないので、銀座にいいイメージを持っていただければという思いもあったんです。
銀座代表としてではないですけど(笑)、何かできることがあればという感じでやってみました」
反響は上々で、普段、店に来ない人からも申し込みが多数あったという。
「もともと私の仕事が、お客様に対して何かできることはないかと考える仕事なので、こういうこともできるんだな、と思ったんです。
この先も、こういった活動も広げていければいいなと思っています」
環境の変化に耐えられ自らを変えられること
緊急事態宣言が解かれてから全国で感染者の数は増え続け、再び宣言を発令したほうがいいという声も上がってきた現在。強まる逆風の中、それでも菜々江ママは前を向き、歩を進めようとしている。
「うちの従業員が“ママ、本当に強い生物は環境の変化に耐えられて、自分を変えていける生物ですよ”って言ってくれまして。第2波が来るかもしれない、また違うウイルスの可能性もあるかもしれない、と思ったときに、社会のネット化が進んでいるので、そちらにも力を入れようかなと思ったんです。“オンラインキャバクラ”というのも実際出てきたじゃないですか。なので店舗は通常どおりに進めながら、今、私も『オンラインクラブNanae』を作っているんです(笑)」
店の売り上げがゼロになっても、SNSで誹謗中傷されても、ひたすら自分の道を行く。そんな菜々江ママを支えているものは何? と問いかけてみると──。
「何でしょうね(笑)。銀座に20年いて、経営も小さいお店からスタートしてやってきたので……。私、もともと小さいころから数字に強いんです。経営をしていく中で、固定費がこのくらいで、ホステスさんのお給料が売り上げのこのくらいのパーセンテージならそんなに赤字にならないな、とか。数字の裏づけが自分の中で必ずあるんです。だからあまり悲観的にならないというか(笑)。
あとは、いつも視野を広げるように心がけています。いろいろなことを見るようにしていると、何かしら引っかかってくるんです。例えば、オンラインショップだったり、飲みのネット化だったり。そう思ったときに、現実につなげる手助けをしてくれるのが、これまで培ってきた人脈です。
私を支えているのも、数字の裏づけと人脈ですね。あと、自分が楽しんでいるということもあると思います。私、若いころにどん底な人生を送ってきたので、今どんなことがあってもへっちゃらです。“あのときに比べれば全然、楽”って思えば。今の私には、ポジティブになれる要因しかありません(笑)」
からさわ・ななえ 銀座歴20年のホステスで、クラブ『Nanae』のオーナーママ。インスタグラムやYouTubeで銀座の魅力を発信。『マツコの知らない世界』『NEWS23』などテレビ出演も多数
(取材・文/蒔田稔)