衣食住がしっかりと保証され、セックスで快楽を貪る日々を送ることもできる。足を踏み入れる際は自分の意思だが、決して離れることはできない……。
「物語として、この『人数の町』がどんなふうに受け取られるのか、楽しみです。すごく言葉が難しいんですけど、この映画が話題になりすぎても怖いな、と(笑)」
なんだかんだ
十分幸せなんです
借金で首がまわらなくなった男・蒼山(中村倫也)は、そんな不思議な町の住人に。最初こそお気楽に暮らしていたが、徐々に感じるざらりとした違和感。この町に潜む謎を探っていく……。
「僕はぶっちゃけ(人数の町を)ユートピアともディストピアだとも思ってないですね。僕は俳優なので、勤めているわけでも、組織の中でやりたくもないことをやらされているわけでもない。きっと世の中とは感覚が違うだろうし、そのズレが怖いとも思っていて。だから世の中の反応が気になるし、そこで僕も学びたいんです」
もし、目の前に“人数の町”への案内人が現れたらどうする?
「“あんた、誰?”って思いますね(笑)。チープなたとえですけど、洋服屋さんで“この色、売れてるんですよ”“私も持ってるんです”って言われたら、“ほっとけよ”と思うのと同じで(笑)。僕個人は、どこにも魅力を感じない。しゃくですし、絶対に行かないですね。別に人数の町に頼らなくても、生きていく方法はある。見栄やプライドを捨てれば何でもやりようはあると思うので」
何の束縛もなく、自由であることが幸せなのか? 本作はそんな疑問も投げかけているが、中村が自由を感じる瞬間は、
「たまにありますよ。仕事が早く終わって、夕方4時くらいに帰宅して、まだ外が明るいとき。“オレ、今日、こっから自由じゃん!”って。明るい時間から飲むビールとか、うまくないですか?」
人気俳優ゆえに、不自由さを感じることも多いのでは?
「そりゃ、週2でゴルフに行けたら、すげー自由ですけどね(笑)。なんか、アホみたいなことしか出てこないけど、なんだかんだ十分幸せなんですよね。いろんな物事の仕組みやルールはもちろんある。不満も幸せの基準も人それぞれだと思う。でも今、表現する場があって、生活もできているので、やっぱり幸せです」
デビュー15周年
ブレイク、そして現在
自分の居場所を模索していく本作。俳優人生の中で、自分の居場所について悩んだことは?
「仕事がないときは“需要ねーな”とは思ってましたね。とはいえ、そのころも、いろんな演劇はやらせてもらっていたので、“舞台が自分の居場所”と思ってたりもしてました」
ブレイク前、俳優をやめたくなったことは?
「いっぱいありましたよ。でも詰まるところ、自分が何をしたい人なのかと考えたときに、やっぱり“面白いもの作りたい人”。じゃあ、頑張るしかねーな、みたいな。仕事がない分、自分と向き合う時間はいっぱいあったので、自分を見つめ直していましたね。それは、人としての体幹がだんだんとしっかりしてくるような時間だったように思います」
'05年に俳優デビューし、今年は満15周年だ。
「デビュー作の『七人の弔い』('05年)を撮っていたのはその1年前。明確なデビュー記念日があるわけではないので、何でもいいやって思っちゃいますけど(笑)。積み上げた数字にあんまりピンとくるタイプじゃなくて、自分の年齢もたまに忘れるくらい(笑)。節目に無頓着なので、取材者泣かせなところはありますね」
キャリアを重ね、人気も得た。今後は、どんな俳優像を思い描いているのだろう?
「これからも、楽しい仕事をして、楽しませられたら。それくらいしかないかな?」
甘くてフワフワしていそうだけど、芯がある。まさにマシュマロのような魅力こそ、中村倫也の強みなのかもしれない。
『人数の町』
9月4日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(C)2020「人数の町」製作委員会
衣装協力/Children of the discordance(STU