「夏UQ発表会」での多部未華子('17年6月)

 女優・多部未華子が『私の家政夫ナギサさん』(TBS系、以下わたナギ)で注目を集めている。本作は四ツ原フリコ氏による同名Web漫画を原作とした、家事と恋に不器用な28歳独身女性の「相原メイ」がおじさん家政夫を雇うことから巻き起こるハートフルラブコメディだ。

 今期の民放ドラマは、2013年版の最終話で驚異の視聴率42.2%を叩き出した『半沢直樹』の続編や、『アンナチュラル』などを手がけた話題の脚本家・野木亜紀子による『MIU404』などの話題作が目白押し。その中で、“わたナギ”は『ドラマ満足度ランキング』(ORICON NEWS)で4週連続3位を獲得し、8月25日放送の第8話では平均視聴率16.7%と好成績を収めている。

 その理由のひとつには、原作を大きくアレンジしながら、働く女性に寄り添った脚本になっていることもあるだろう。また大森南朋や瀬戸康史、眞栄田郷敦といった設定の違う王子さまが、女性心をくすぐっているのも本作の魅力だ。

 しかし、“わたナギ”ヒットの要因は主演を務める多部未華子の「特性」ではないだろうか。数多くの女優のなかでも彼女だけがもっている、その特性が最大限発揮されているところが大きいのだ。

多部未華子ならではの演技

 彼女の経歴を振り返ってみると、これまでに『デカワンコ』や『ヤスコとケンジ』(ともに日本テレビ系)、『これは経費では落ちません!』(NHK総合)など、いずれも漫画を原作とした作品への出演が目立つ。

 特筆すべきは、主演を務めた2010年公開の映画『君に届け』だ。原作が累計3300万部を記録するほどの人気作なだけに、実写化決定の際は物議を醸すことに。しかしながら、純粋で不器用なヒロインを務めた多部未華子の等身大の演技は、原作ファンからも好評を得ることに成功した。

 相手役を務めた三浦春馬さんとのコンビを支持する声も多く、2人はその後もドラマ『僕のいた時間』(フジテレビ系)、映画『アイネクライネナハトムジーク』でもタッグを組んでいる。

 なぜ彼女は漫画を実写化した作品に起用され、熱心な原作ファンを納得させることができるのか──。

 近年、漫画原作の映像作品には橋本環奈浜辺美波が頻繁に起用され、“実写化女王”と呼ばれることもある。彼女たちは、漫画世界からそのまま飛び出してきたように原作に忠実なキャラクターを演じ、非日常的なエンターテイメントで視聴者を楽しませている。対して、多部未華子は日常生活で隣にいるような人物を自然体で演じ、実社会に本当に存在するかのごとく視聴者を錯覚させる。

 その自然体の演技は共演者からも評判であることが、“わたナギ”第4話の撮影裏話でわかった。

 メイのライバル会社に務める田所(瀬戸康史)と公園でお酒を飲む場面。メイが口にマヨネーズをつけて田所がそれを拭う、というシーンの撮影を振り返った瀬戸康史はこう語った。

彼女がプロだなって思ったのは、流れでここ(口元)につけなきゃいけないんですよマヨを。それをちゃんとここにマヨをつけながら食べるんです」(『王様のブランチ』TBS系)

 漫画のキャラクターが口の周りに食べ物をつけてしまうというのはありがちだが、それをわざとらしくならないように表現するのはなかなか難しい。上司役の平山祐介も、7月30日放送の『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)に出演した際に、多部未華子を“演技がリアルすぎて圧倒されたNo.1女優”として紹介している。

 多部未華子自身もメイを演じるにあたって、

脚本がとても面白く、クスっと笑えるように描かれているので、それ以上のことをしないように心がけています。面白いと思う感情を、もっと面白く見せようとすると空回りしてしまうと思うので、そのバランスは現場で塩梅を見ながら演じていますコメディはコメディなのでたくさん笑っていただきたいですが、その中でリアリティもしっかり出していけたらいいなと思っています」(『私の家政夫ナギサさん』公式HPでのインタビュー)

 と語っているように、まるで嘘っぽさを感じさせない。あくまでも自然にどこか不器用なキャラクターを演じているからこそ、自分の友人かのように応援したくなる。寝る前のシーンでは惜しみなく、ほぼすっぴんの状態を視聴者に見せてくれる飾らない一面も女性ファンの心を掴む理由かもしれない。

 2002年の女優デビュー以降、着実にファンを獲得してきた多部未華子。今期の“わたナギ”で再び注目されている彼女は先日、青山真治監督の映画『空に住む』(10月23日公開)の主演を務めることが発表された。

 主人公・直美を演じる多部未華子は、両親の急死で喪失感を抱え、三代目J SOUL BROTHERS・岩田剛典演じるスター俳優との逢瀬に溺れていく役どころであり、コミカルに描かれる“わたナギ”とは対象的にシリアスなラブストーリーに挑戦する。今回も、リアリティのある演技で同年代の複雑な心境を代弁できるのか注目したい。

 女優としてのキャリアの中で間違いなく代表作になる“わたナギ”を経て、これから彼女はどんな表情を見せてくれるのか。多部未華子の活躍に目が離せない。

●苫とり子: 1995年、岡山県生まれ。東京在住。IT企業でOLを務めた後にフリーライターに転身。「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポート等を寄稿している。