現在の志茂田景樹氏(※写真は本人ご提供)

 かつてはバラエティー番組にも出演し話題を呼んだ作家・志茂田景樹。トレードマークでもある自由で個性的なヘアスタイルとファッションは、80歳になった今も変わらない。そんな志茂田氏のSNSが現在、「名言」「格言」に溢れていると話題だ。ツイッターのフォロワーは41万人超え。フォロワーからの「人生相談」に、直接「言葉」を投げかけ寄り添うことも。そして今日も多くの人がその「言葉」を求め、集まってくる。何かと“生きづらい”とされる昨今。生き抜くヒントを聞いた。

「これから死にます」という声も届く

 ツイッターをはじめたのは10年前。当初は自著の刊行予定とか、講演、読み聞かせ活動などのイベント案内がほとんどでした。ツイッター相談に応じるようになったのは8年くらい前からでしょうか。6、7年前とここ1、2年前では、その相談内容は少し傾向が違います。

 以前は失恋して長く引きずっている人、親との不和、将来への不安を訴える人が多かったと思います。親と同居していて価値観の違いから不和を起こす若い人もいれば、結婚して子どももいる人が、遠く離れている実家の親とうまくいかないというケースもありました。ネットの時代になって遠く離れた親ともガンガンやりあう時代になったということでしょう。中年世代は健康への不安も多かったです。
 
 一方で、最近は心が関わった悩みが大変多いですね。僕の場合、うつ病、双極性障害、統合失調症、多動性障害のフォロワーもいて、心のリズムを壊している人の相談も多いように思います。

 職場などの上司、先輩、同僚などの誹謗中傷に耐えられないというケースでは、気にしないでいいことを大げさに気にして傷ついている人が多いです。告げ口、陰口を、思い込みではないかというものも含め、粘っこく気にする人が増えています。転職の相談では、職場のことで耐えなければいけないことに耐えられず、すぐに転職を考えてしまう人も多いです。個人主義ではなく利己主義的な事柄が増えてきたように感じます。

 恋愛問題では、失恋をただ引きずるのではなくフラれたことが許せない、その相手を憎むという責任転嫁的な傾向が強くなりました。別れたのに未練が生まれて、できるものなら復縁したいという相談はよくあります。相手あっての恋愛を、自己中的に考える人が目立ってきました。

 働きながら親を介護している人の中には、人生の大事な時期を棒に振るようで胸がつぶれるといった「人には言えない本音」をぶつけてくる人もたまにいますし、介護職の人からは、待遇などで報われない気持ちを訴える声が聞こえてきます。介護という職に誇りを持ちながら現実の介護の実情に失望し、このまま続けるか、他のジャンルの仕事へ転職するかで相談してきた人もいましたね。

 以前は「これから死にます」とか「死に場所を求めての旅に出ます」といった声も何件か届きました。本当は死にたくないから、何か言ってもらいたいんですね。

 そういうときは、その人のプロフィールを見て、例えばフォロワーがゼロの人には「死ぬのは明日でもいいでしょ」「死ぬんだからそのくらいの我慢はできるよね」ぐらいの文面で返すのがいいんです。フォロワーが20人、30人といる人にはフォロワーの人達に励ましを頼みます。すると2時間ぐらいして、フォロワーの人から「もう死ぬのはやめたと言ってますよ」というツイートが届いたり。そんなものでしょう。

「言霊よ、入れ」とつぶやきながら

「何もかもダメで、もう疲れ果てました、生きる意欲が湧きません」といった内容のものは、逆に生きる意欲が隠れているように思います。疲れ果てていることは確かなので、ふて寝でもいいから疲れを癒やすことが大事。「人生は慌てても仕方ないんですよ」といった返信をすると、大体の人が気持ちを切り替えてくれます。本当に生きる意欲を失っていたらツイートをしてこないでしょう。

 むしろ「死ぬ」とか、そういうことは一切言わないで、痛切な響きのツイートに死の影を感じることがあります。そんな中でも「あっ、この人にはこう言ってあげたら気がつくんじゃないかな」と思うときは返信させていただきます。「この人にはこのひと言かな」とこっちも痛切に考えますよ。この人が気持ちを切り替えて、立ち直るきっかけになればという思いを込め、「言霊よ、入れ」と本当につぶやいてツイートボタンをクリックすることがよくあります。

 何年も経って、「あのときは救われました」という声をいただくことがあります。どういう言葉を返したのか覚えていないことが多いんですけどね。それでも、お礼の声が届くと、やっぱりうれしいです。

 ツイッターでのやり取りは相手の本名も知らない。字数にも制限がある。こっちの返信にそれっきりのこともあります。すぐにお礼のツイートがきて「そのようにやってみます」とリプライをもらうこともありますが、その後の経緯はわかりません。つまり、一期一会の世界なんですよ。

 それだけに、どこのどなたかもわからない人の痛切な声に、その人の心に切り込めるような言葉を返せればそれでよしの世界。剣の試合ではありませんが、立ち会ったその瞬間で決まり、終わるものだと考えています。

 僕自身、言葉に救われた経験もあります。タイムラインをぼんやり眺めていたときのことです。「集中すると病がどこかへ逃げます」といった言葉だったかな。今、関節リウマチを患っているのですが、発症して間もなくのこと。どうしてこんな厄介な病気に、と暗く沈んでいた時期だったのでパッと心が輝きました。

 「生きづらい」世の中をどう生き抜くか。「生きづらさ」は自分の心の八方を塞ぐことです。どれか一方を開放すればなくなります。ネットを活用して、生きづらい世の中を尻目に悠々と生きる“隙間”を探すのもいいじゃないですか。今はオンラインもありますから。友と愚痴をこぼしあってもいい。ほかにも、その気でググれば答えやヒントにぶつかるものです。「求めよ、さらば与えられん」でいくことです。

志茂田景樹(しもだ・かげき)
1940年、静岡県生まれ。1976年に『やっとこ探偵』で小説現代新人賞を受賞、作家活動をスタート。1980年には『黄色い牙』で直木賞に輝き、その後も多くの著書を執筆、話題を呼ぶ。さらに奇抜で個性的なファッションが注目を集め、ファッションショーでモデルを務めたり、『笑っていいとも』のレギュラーになるなど、多くのバラエティー番組に出演して人気を博す。1998年に『よい子に読み聞かせ隊』を結成し隊長に。Kindle版『死にたいという本当は死にたくない私』が話題。