行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は交際中の彼との子どもを妊娠し、未婚シングルマザーの道を選択した女性の事例を紹介します。(前編)
結婚できる状態なのに、あえて「しない」
2020年、いちばん最初に私たちをあっと言わせたのは浜崎あゆみさんではないでしょうか。元旦深夜、昨年末に子どもを出産していたと発表。そんな過去形の報告に思わず「嘘でしょ?」と驚くばかりでした。なぜなら産後2か月も経たないと思われる大晦日のカウントダウンのライブで元気な姿を見せたから。あまりにも復帰が早すぎるでしょう。41歳という年齢を考えると「本当に自分のお腹を痛めたのか。もしかすると代理出産ではないか」という噂が流れたのはまだ記憶に新しいところ。
子どもの父親は20歳年下のバックダンサーの男性とも言われていますが、浜崎さんが彼と結婚する様子はありませんし、彼との関係が良好なのか険悪なのか、今でも続いているのかは定かではありません。「結婚は望んでいないけれど子どもは欲しい」というのは旧来の価値観の枠からは外れています。このように彼との結婚を考えず、最初から1人で育てるつもりで妊娠、出産する女性は「未婚シングル(マザー)」と呼ばれています。
しかし、結婚に対する意識も以前と変わってきています。例えば、NHKの世論調査『日本人の意識調査』(2013年)によると「結婚するのが当たり前だ」と考えている人は1993年の45%から15年間で約10%も低下し、2013年では33%しかいません。結婚という形にこだわらない人が増えていることがわかります。
結婚は望まないけれど子どもは欲しいと筆者のところへ相談しに来る女性は、今までも一定数、存在しましたが、これは相手が既婚者の場合が多いです。妻がいる彼と不倫してできた子を人知れずに育てていく。いわゆる「許されざる恋」ですが、未婚シングルの場合は違います。未婚シングルはお互いに結婚できる状態なのに、あえて「しない」のです。
妊娠が判明し、幸せの絶頂だったのも束の間。彼が責任から逃げようとし、地獄へ突き落されたのは今回の相談者・黒澤真美子さん。
相談者:黒澤真美子(36歳。契約社員。年収350万円)
彼:城田桔平(38歳。地方公務員。年収822万円)
相談者の母:黒澤恵子(70歳。パートタイマー。年収120万円)
妊婦の彼女より自分の懐具合を心配をする彼
「現在、彼にブロックされているため、直接やりとりをすることはできません。以前、私の母が彼に緊急の連絡をしたことがあり、彼は母の番号を知っているため、母へ連絡をしてきます。これ以上、母がこき使われるのは不愉快ですよ。ちゃんと私と向き合ってほしいし、誠意ある対応をしてほしいんです!」
真美子さんは、交際して1年の彼の子を身ごもっていました。結婚に向けて話を進めている最中は「女の幸せ」を噛みしめる日々を送っていました。一方で悪阻(つわり)は日に日に酷くなるばかり。
真美子さんの勤務先は自宅から徒歩と電車で1時間ほどで、仕事は店舗での接客業。そのため勤務時間中は立ちっぱなしは当たり前で、特に歩きまわる時間が多い日の翌日、疲労が残って欠勤することもしばしばでした。彼に相談したところ、「辞められると困る。生活費はどうなるんだ?」と真美子さんや子どもより自分の懐具合を心配をする始末。真美子さんはこれ以上、同僚に迷惑をかけられないという一心で彼の反対を押し切り、退職を決めたそう。
当初、病院の妊婦健診代や新居への引っ越し代、そして生活費は折半で負担する約束でした。まず検診代については真美子さんが立て替え、後で彼に半額を請求したのですが、彼は「今月は厳しい」と返事を濁すばかり。真美子さんは彼へ電話をかけたり、LINEを送ったりしましたが、彼の顔を思い浮かべると余計に体調が悪化するので、真美子さんの母親が2人の間に入ることになったのです。
「あなたが今のまま何も変わらないと娘と結婚させることはできないし、子どもを産むこともできないから」
母親は彼に対して手厳しい態度で臨んだのですが、彼は真美子さんではなく母親が介入したことで臆したのでしょうか。検診代の半額を素直に支払うと約束し、「俺は変わる。赤ちゃんのために言われたことは何でもする。掃除、洗濯、炊事、赤ちゃんのことも」と誓ったのです。
だから母親は彼の言葉を信じ、2人の同棲を認め、大事な娘さんを彼に預けたのです。しかし、彼の怠け癖は母親の叱責程度では変わりませんでした。彼が守った約束は「引っ越し代の折半」だけです。
同棲してわかった彼の浪費癖と束縛癖
同棲先で真美子さんは彼の通帳やキャッシュカードを預かり、給料を管理し始めたのですが、給料日の翌週には残高がほとんど残らなかったそう。彼がクレジットカードで買い物をし、カードの支払いが給料の半分を占めるからです。食費や水道光熱費を支払うとすっからかん。結局、検診代を彼に負担させるのは無理で、真美子さんが自分の貯金のなかから全額を支払うしかありませんでした。
今までと何も変わらないことに愕然としたのも束の間。状況はさらに悪化したのです。なぜなら、彼の束縛癖が顔を見せ始めたのだから。「携帯や財布、鞄の中身を見せろ!」と彼が詰め寄り、真美子さんが断ると髪や腕を引っ張られたそう。
「確かに婚約していましたが、結婚する義務はないと思います。こんなに気性が激しい人と平和な家庭を築き、健全な子育てができるとは思いません。やるやるって言って結局、何もやらない……やるやる詐欺ですよ!」
真美子さんはため息まじりに振り返りますが、彼に振り回されることで苦しみ、悲しみ、泣くくらいなら彼なしで出産に臨んだほうがいい。真美子さんは1人で子どもを育てる覚悟を決め、同棲していた家を飛び出して実家に戻りました。真美子さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは妊娠4か月目。シングルマザーになることを決めたタイミングでした。
「今後、どうやって話を切り出すのか悩ましいです。彼は非常に感情的な人。機嫌がいいときは私の話を聞いてくれますが、機嫌が悪いと大変です。自分が不当な請求をされているんじゃないかって感じると、急に大きな声を出したり、ものを投げつけたり、手を上げたり……とにかく思い込みが激しいんですよ!」
しかし、真美子さんの場合、経済力を考慮すると彼の助けなしに子どもを産み育てるのは難しいでしょう。
出産までの経緯はともかく彼は子の父親なので、しかるべき責任をとってほしいですが、真美子さんは彼の気難しさを嘆きます。すでに彼は真美子さんの電話を着信拒否、メールを受信拒否、そしてLINEをブロックしていたため、真美子さんが彼に直接、連絡をとることができない状態。彼へ気持ちを伝えたいときは母親を経由しなければなりませんでした。
彼が不当だと思わないよう正当な請求をしなければなりませんが、真美子さんは彼に対して何を求めることができるでしょうか?
*【未婚シングルマザー】年収200万円の妊婦が彼に養育費を約束させるまで《後編》に続く
(後編は9月6日22時00分に公開します)
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/