昨今は芸能人やモデルにならずとも、動画配信サービスやSNSで芸能人顔負けの人気になっていく者も多い。そのひとりがロン・モンロウだ。出身は中国・湖南省。その美貌が日本のSNSで話題になり、2018年にはメディアにも大きく取り上げられた。現在は日本で、歌手、モデルとして活動している。家族と遠く離れて一人暮らしする彼女は、日本という異国の地でどのような想いで暮らしているのか。「日本と中国の架け橋になりたい!」と願う彼女が、勉強中だという日本語を一生懸命つかいながら答えてくれた。
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ロン・モンロウは少数民族のトゥチャ族生まれ。わずか160世帯しかない山村で生まれ育った。自身の故郷についてロンは「田舎なんです。すごく、すごく、田舎」と語り始める。
「私が住んでいた村は本当に山と川ばっかりの場所で、そこで17歳まで過ごしました。11歳下の弟と一緒に、服を着たまま、川で泳いで遊んでいましたね。水着を着て泳ぐなんて、恥ずかしいです! 中国には水着グラビアの文化はないですし。あ、でも日本に来たら可愛い水着がいっぱい! グラビアのお仕事もさせてもらうのですが、日本の水着は可愛いから、今はもっともっと、着たいです(笑)」
オーディションでグランプリを獲ったのに
彼女が日本に興味を持ったきっかけは、従姉妹が持っていた日本のドラマやコミック、雑誌だった。中国の少数民族の少女は、日本のエンターテインメントシーンに目を輝かせる。
「湖南省にいた頃から日本のエンタメの影響で日本が大好きだったんです。ドラマはやっぱり『花より男子』。SMAPや木村拓哉さんに憧れたり、アニメやコミックは『ONE PIECE』や『名探偵コナン』。好きなキャラクターは『ONE PIECE』のルフィー。『名探偵コナン』の工藤新一。弟は『仮面ライダー』が大好きです」
そして大学進学で上海へ。故郷から上海までは車で3時間、電車で23時間。遠く離れた地で会計学を学びながら女子3人一部屋の寮生活を送る。故郷の景色とは違うネオンとビル群に驚いた。上海の大学生の間では火鍋が流行っていたらしく、授業の後は火鍋を食べておしゃべりしたりカラオケへ行ったり。そんな中、19歳で、中国国営中央テレビのオーディション番組『おいで! シンデレラ』でグランプリを獲得する。
「友人が出場するというのでついていっただけなんですが、私は歌も踊りも勉強してなかったから、びっくりしました」
中国最大のEコマース企業『アリババ』でモデルなどもしていたが、グランプリ獲得をしたにも関わらず、芸能生活は中止。当時彼女は大学一年生。「学生はやはり学業が本分だと思うからです」と真っ直ぐな瞳で語る。
日本人と中国人、その違いとは
「卒業前の2017年に初めて日本へ遊びにきたんです。すぐに“日本に住みたい!”と思いました。とくに渋谷を歩いていると、女の子が“なんで、そんなにみんな美人!?”と叫びたくなるほど可愛くて。ファッションも素敵だし、メイクも上手。
日本が大好きになって1年に6~7回、ほぼ毎月、遊びに行くようになりました。化粧品もよく買いました。日本のコスメは中国でもすごく人気があるんです。あと熱海や箱根にも。中国にも温泉はありますが、私が初めて行った温泉は日本! すごく肌がきれいになるし、とても気に入りました」
その翌年、日本のメディアで話題になったことをきっかけに、彼女は本格的に日本での芸能活動のチャンスを得る。初めての仕事は北海道限定で放送された『東急ステイ札幌』のテレビCM。その後、ドラマ『ラブリラン』(日本テレビ系)で女優デビュー。Eテレの『テレビで中国語』や『ダブルベッド』(TBS系)、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)や、出演はわずかだったが『テラスハウス』(フジテレビ系)にもキャストとして出演をした。
「北海道は行きたかったけど友達がいないので行けてなかったんです。でもCMのお仕事で初めて行けて、そこで初めてたくさんの雪を見て。すごく真っ白! 私、雪が大好き。すごくきれいで本当にうれしかったです。私、“白”色が好き!」
中国と日本の、文化的なギャップにも遭遇する。
「『ダブルベッド』は俳優の犬飼貴丈さんと同棲生活を送るという番組だったのですが、最初は“無理!”と思ってしまいました。少なくとも私の周囲の結婚前の中国人は、彼氏はいても同棲はしないんです。知らない人と一緒のお布団に入るのも心配でした。私にとって、恋人だったとしても、結婚前に同棲するのは微妙かな……。自分のスペースは保ちたいほうですし」
中国時代から一緒に遊んでいるのは女友達ばかり。結婚も「今はまだ考えてない」そうで、日本の恋人の同棲が多いことには驚いているようだ。
ほかにも日本人と中国人の“性格”の違いを感じている。
「中国人は素直に思ったことをそのまま口にする人が多いです。あとお喋り。だから『WeChat』(中国で人気のコミュニケーションアプリ)でお話をしていたら、一日の挨拶から始まって、“今日の夜ご飯はこれ”って写真を送りあったり、ずっと会話が続いていくんです。でも、日本人とLINEでお話をしてもほぼ要件だけ。“今日は一緒にご飯する?”、“しよう”、“時間はいつで、場所はどこどこ”、で終わり(笑)。ちょっとだけ寂しいですね」
「でも、素直やお喋りがいいとは限らないんです。日本の方って、建前かもしれないけれど“可愛いね”とか、私が作ったご飯を食べて“美味しいね”とか褒めてくれるじゃないですか。ウソだとしてもうれしい! だって私、良いこと言ってもらえるだけで気分が良くなりますから(笑)」
コロナ後は新たなロン・モンロウを
あまりに思ったことを素直に口に出しすぎて日本人から「ロンちゃん、それは失礼だよ」と言われてしまうこともある。日本人は奥ゆかしくて優しくて丁寧でシャイ。中国人は素直であたたかい。そのどっちの国民性も好きだと彼女は言う。そしてもっと日本を知るために、そして中国に自分の大好きな日本文化を広めるために、家庭教師を雇って日本語も猛特訓中だ。現在、好きな日本の芸能人は小栗旬、中村倫也、満島ひかりなど。
「もっと日本語が上手になって、歌も演技も出来る完璧な女性になりたい。満島ひかりさんと共演できるぐらい日本語を流暢にしたい。あとファッションが好きなのでモデルも……」
ロンの身長は160cm。モデルとしては低いため、「せめて」と、この新型コロナ自粛中は自宅内でダイエット。「コロナ後は新たなロン・モンロウを見せたいです」と前を向く。幸いにもロンの故郷ではコロナ患者が出ていないが、逆に日本の感染者数が増えている。
「両親はひとり暮らしの私を心配してくれていますね。このご時世なのでなかなか家族に会えず寂しいですけど、たくさんビデオ通話をしています」
1月には念願のスキーを初体験したりと、新たな日本体験を次々と重ねていっている。
「上海には電車は16路線しかないんですけど、東京はとても多い……えっ、84路線!? すごいですね! あと自動販売機も上海ではデパートの中とかしかないのに日本は街のいたるところにある。日本は本当に便利で住みやすいです!」
彼女のその輝かんばかりの笑顔が、日本と中国の未来により大きな“光”をもたらすような、そんな日が来ることを願いたい。
(文・構成/衣輪晋一)