筒井道隆

 堺雅人(46)主演の『半沢直樹』続編(TBS系)の後半戦に、半沢(堺雅人)と激しく対立する帝国航空の再建チーム「帝国航空再生タスクフォース」のリーダー・乃原正太役で出演している筒井道隆(49)。

悪役・筒井にも感じた「イイ男感」

 机をたたいて恫喝したり、眉間にしわをよせて睨みをきかせたり、嫌みったらしく見下した嘲笑を見せたり、机を蹴飛ばして「お前」呼ばわりしたりというヒールぶりには、SNSで「イメージ違いすぎ」「誰かわからなかった」といった驚きの声が多数あがっていた。

 それは、筒井道隆に対して、90年代ドラマ『あすなろ白書』『王様のレストラン』(ともにフジテレビ系)などから「素朴」「優柔不断」「ちょっぴり天然」などのイメージを抱く人が多いためである。

 しかし、「こんな悪役をやるようになるなんて」とショックを受ける人もいる一方で、40~50代を中心とした一部女性視聴者は、「エロい眼鏡」「かっこよすぎる」「インテリヤクザ感」「サイコーに性格悪そうでサイコーにサイコー」などと、その変貌ぶりに大いに沸いていた。

 際立った美形というわけではないのに、筒井道隆に対しては、なぜか他の役者とは違う特別な思い入れを抱く女性が多数いる。

 『あすなろ白書』で大ブレイクしたのは、ご存知、男子「二番手」を演じた木村拓哉だ。太縁メガネをかけたビジュアルは、むしろ鼻の高さ・華やかさが際立っていて、「俺じゃダメか?」のセリフ+バックハグ、通称「あすなろ抱き」は後々まで語り継がれるほどに、大量の女性を“キュン死”させた

 それでも一部の女性にとっては、主演でありながらも、木村拓哉よりもずいぶん平凡で、優柔不断で、なんだか青臭くて、ときには「はっきりしろ!」と言いたくなってしまう主演の筒井道隆のほうが、根深く心に引っかかる存在となっている。

 いったいこの魅力は何なのか──。

筒井道隆の魅力を分析!

 SNSなどのつぶやきを見ると、『あすなろ白書』で演じた“掛居保イメージ”をずっと抱き続けている人がやはり多そうではある。

 複雑な家庭で育ち、頭はいいが、つかみどころがなく、優柔不断で、意外と付き合う女性を次々にかえるなど、「顔のわりにモテる」と言われる掛居。

 優しさと真面目さ、何を考えているのかいまひとつわからない不安や、妙な頑なさを持ち合わせている掛居は、「生っぽさ」があった。「優柔不断」という文字を見るたび、いまだに脳内で「筒井道隆」と変換されてしまうほど、強烈な印象となっている。

 また、『王様のレストラン』(1995年)で演じた、初代オーナーの愛人の息子で、朴訥としていて、天然風味溢れるお坊ちゃん・禄郎をいまだに忘れられない人も多い。

 今でも筒井道隆を見るたび、このドラマでの「千石(松本幸四郎)さぁ~~ん」という甘ったるくヘタレな声が蘇ってくるほどである。

 また、優柔不断と青臭さが、ヒロインの人生を丸ごと狂わせてしまう朝ドラ『私の青空』(NHK総合)は、筒井道隆の真骨頂ともいうべき作品だった。

 なにせ、結婚式当日に、別の女性に連れ去られ、ボクシングでチャンピオンを目指す傍ら、妊娠していた婚約者のヒロイン・なずな(田畑智子)はシングルマザーとして生きていくことになるのだから。

 しかも、子どもが生まれていたことを知ると、謝罪し、トレーニングに励んでチャンピオンになるが、防衛戦で負けると当たり散らし、息子に救われるという情けなさ。この人間臭さは、残念ながら実に魅力的なのだ。

 さらに、半沢直樹を演じる堺雅人とのやり取りに、大河ドラマ『新選組!』(04年)での松平容保(筒井)と山南敬助(堺)とのシーンを重ね合わせて観てしまった人も多数いるだろう。

 また、自分自身もそうだが、彼のデビュー作映画『バタアシ金魚』(1990年)のカオル役で見せた10代特有の真っすぐな狂気を感じさせるエネルギーや危うさ、脆さ、痛々しさと、眩しさを、その後もずっと筒井道隆の中に探し続けている人もいるかもしれない。

 世間が今回のヒール役に衝撃を受けるなか、『ゴンゾウ 伝説の刑事』(テレビ朝日系)で演じた、内野聖陽に仕返しするトラウマを持ったキレ者の部下や、『歪んだ波紋』(NHK BSプレミアム)で演じた、誤報を繰り返すフリーの記者を思い出した人もいるのではないか。

映画『バタアシ金魚』での筒井道隆と高岡早紀

 それぞれに”自分にとっての筒井道隆“像を持っている人は実に多い。これは、何故なのか。

自分にとっての「筒井道隆」

 もちろん観る側の作品の好みや作品との出会い方による部分もある。

 また、彼が90年代に大人気だったにもかかわらず、後に連ドラなどの露出を控えるようになったために、自身の記憶の中で「青々しい筒井道隆」のイメージが凍結されていることもあるだろう。

 しかし、最も大きいのは、筒井道隆自身の醸し出す「生っぽさ」「身近感」によるところではないか。

 穏やかで優しく見えるかと思えば、冷たく見えることもある三白眼と、声は張らないのに、常に何か言いたげに突きだしたり、ゆるく開いていたり、への字に曲げられていたりする口元。若いころから、淡々としていて達観しているじいさまのような雰囲気と、常にあがき、もがいているような、思春期のモラトリアム的香り漂う青さが同居していた。

 その姿は、あるときは同級生のようでもあり、同僚のようでもあり。筒井道隆を振り返るとき、「好きだったドラマの役者さん」よりも、近くに感じてしまう人は多い気がする。

映画「パラレルワールド・ラブストーリー」完成披露試写会での筒井道隆('19年4月)

 だからこそ、「人のよかった彼が、しばらく会わないうちに怖そうなおじさんになっていた」「いつでもグズグズ言ってた彼が、インテリヤクザになっていた」などという衝撃とともに、生々しい興奮を覚えてしまうのだ。

 ちなみに、その大きな魅力の一端を担っているのが、独特の声だと思う。

 少しくぐもっていて、柔らかさ・優しさと繊細さがある声は、今でも変わらず、ひと言発するだけで、思わずハッとさせられる。

『半沢直樹』で恫喝するシーンには、「声変わった」といったつぶやきもあった一方で、かつての彼を知る人たちの「やっぱり声が好き」「悪役でも声のトーンは優しい」というつぶやきは多く、さらに若い世代から「初めて見たけどよい声をしている」と言われるなど、“声“に惹かれる人は今も多いようだ。

 大声を張り上げ、顔芸を繰り出し、積極的に笑いのマウントを取り合っているかに見える熱くこってりした出演者たちの中で、素で笑っていそうに見えるシーン(堺雅人×江口のりこのシーンなど)もある筒井道隆を、結局、令和の今も目で追ってしまうのだ。

PROFILE●田幸和歌子(たこう・わかこ)●1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。