40代に見えない麻美容疑者は気が強い

「関谷くんは声が大きく元気でシャキッとしているからモテるんですよ。スタイルがよくてきれいな彼女と買い物しているところを見かけ、やるな~と感心していたのに、こんなことになるなんて」

 と牧場関係者は唇をかみしめる。

《消防呼んでください! 消防!》

 北海道新冠町で暮らす競走馬育成販売業の関谷昭彦さん(享年41)が残酷な亡くなり方をしたのは、8月30日の夜明けごろのこと。

「きれいな彼女」こと、同居する内縁の妻で無職・古賀麻美容疑者から、携帯式ガスバーナーで火をつけられた。

 事件を目撃したタクシー運転手が振り返る。

「隣町でお酒を飲んでいた関谷さんを乗せ、ご自宅に到着したのは午前1時すぎ。“金がないや。家に取りに行くわ”と言うんです。足元がふらついていたので付き添っていくと、寝ていたと思われる“奥さん”が起きてきて玄関先で口ゲンカが始まりました」

 ここまではよくある話。しかし、ふたりは怒鳴り合い、取っ組み合いに。関谷さんは突き飛ばされ、転んだはずみで玄関先に置いてあったポリタンクの灯油が頭部にかかった。長髪をなであげるように灯油を拭っていると……。

「“奥さん”が携帯式ガスバーナーを着火した状態で持ってきて、関谷さんの顔に近づけ、瞬く間に頭髪が燃え上がりました」(同・運転手)

 近くに止めたタクシーのドライブレコーダーは一連の様子を録画していた。

 火だるまになった関谷さんを見てわれに返ったのか、麻美容疑者は、《助けてー》と叫び、関谷さんが、

《何やってんだよ》

 と言うと、

《消防呼んでください! 消防!》

 と周囲に助けを求めた。

 再び運転手の話。

「近所の人が騒ぎに気づいて駆けつけてくれ、バタつくうちに全身に火が回った関谷さんを布でたたいたり、覆ったりして火を消したんです。救急車が来るまでの間、関谷さんはうつぶせになって何か言っていましたが、その声がだんだん小さくなって……」

 救急搬送された約4時間後、関谷さんは熱傷性ショックで絶命。北海道警静内署は殺人未遂で現行犯逮捕した麻美容疑者の容疑を殺人に切り替え、慎重に捜査を進めている。

 逮捕当初、火をつけたことを認めて「理由はわかりません」と話していたが、その後は「覚えていません」と供述を変えているという。

 ふたりはどのような関係性だったのか。

事件の前日に再会を喜んだばかり

 近所の住民は、

「しょっちゅうケンカして何度も駐在さん(交番勤務の警察官)を呼んでいる。こんな田舎で夫婦ゲンカで警察を呼ぶなんてあの家だけ」

 とあきれぎみ。ケンカする声は近隣宅まで響き渡った。

 それどころか、お互いにDVを警察に相談していたというから、なぜ別れなかったのか不思議。何がふたりをつなぎとめていたのだろうか。

 関谷さんは東北出身。高校時代は千葉県の公立校で馬術部に所属し、2年連続でインターハイに出場したという。

《しかし、度重なる不祥事(喫煙、暴走行為、傷害など)により、2年生の2月に強制退学させられました》(本人のフェイスブックより)

 高校中退後、関東で競馬関係の仕事に就き、やがて競走馬生産の本場である北海道へ。

 関係者によると、騎手を目指していたものの身長が伸びたため断念し、育成する側に夢を切り替えた。

 かつて厩務員として約5年働いていた新冠町内の競走馬育成牧場の経営者は「技術力はトップクラス」と評価する。

「性格も素直だし、人付き合いも上手で信頼していたんだよ。“この馬は関谷くんに育成してほしい”と指名してくるオーナーもいたから、辞めたときはショックでね。

 その後ずっと会っていなかったけれど、どういうわけか事件の前日に“馬房を貸してください”と言ってきたので快く貸してあげたんだ。ちっとも変わらないなあ、と再会を喜んでいたら、この事件。あの女(麻美容疑者)も一緒に来ていたんだよ。悔しいよね

 馬房の一角に献花台を設け、関谷さんが好きだった『金麦』のビールをお供えしている。

関谷さんを車で2回も轢いた

 一方、麻美容疑者の評判は悪い。20歳前後のころは隣町のパチンコ店に勤めていたが、牧場の短期アルバイトや木材関係会社などを転々。

 酒とバーベキューが大好きな関谷さんが前の恋人と同棲していた約3年前、強引に割り込むように男女の関係になった。

関谷くんが職場の庭先で開いていたバーベキューに図々しく参加し、そのうち略奪愛で当時の彼女を家から追い出したんだよ。

 でも、馬の世話も手伝ったし、会計もできるから独立志向の関谷くんにはいい恋人じゃないかとも思った。付き合い始めてから関谷くんはよりしっかりするようになったし。ただ、麻美容疑者は酒乱のうえ、かなり嫉妬深くてさ」

 と知人男性。

 お互い酒好きとあって、飲むたびケンカをするように。麻美容疑者はしだいに凶暴な本性をむき出しにしていく。

「関谷さんは彼女に車で2回轢かれたそうです。彼女がいい年してセーラー服のヘソ出しミニスカコスチュームを着たことがあったらしく、関谷さんのリアクションが不満だったみたい。その帰り道に車から蹴り落とされて夜の山中に置き去りにされたそう。本当に遭難しかねないし、クマが出たらどうするつもりだったんでしょうか」(別の知人)

 この知人によると、関谷さんは浮気するようなタイプではない。しかし、被害妄想か麻美容疑者はよく包丁を振り回すようになった。

「麻美容疑者は年齢も年齢だし、2度離婚しているはずだから早く結婚したかったのではないか。でも関谷くんは馬に夢中でなかなかその気にならなかった」(競馬関係者)

 度重なる暴行、傷害……。関谷さんは、事件の数日前、

「オレは殺されるかもしれない」と親しい知人にこぼしている。

 事件の日。生産馬の競りが終わり、ふたりは焼き肉店で祝杯をあげていた。この日はケンカせず、差し向かいでビールを2、3本と焼酎のボトルを半分あけ、そのあと別々の店へ。

 関谷さんは頭にタオルを巻き、気心の知れた仲間と肩を組んで笑い、大いに歌って踊って楽しんでいたという。

 そんな時間はあっという間に猛火に包まれてしまった。