ティモンディ(事務所の公式HPより)

 誰も傷つけない笑い――。近年、属性や容姿、来歴などを笑いの対象としないネタやトークが評価される流れがある。2019年のM-1グランプリは大きな盛り上がりをもって終わったが、3位に輝いたぺこぱの“ノリツッコまない”笑いのとり方が、“誰も傷つけない笑い”の象徴として取り上げられもしてきた。そんな中、時代の申し子のように登場してきたのが、お笑い第7世代の一角、ティモンディである。

東日本大震災をきっかけに
コンビ結成

 ともに1992年生まれの高岸宏行と前田裕太の2人によって、2015年に結成されたお笑いコンビ、ティモンディ。いずれも甲子園の常連である済美高校の野球部出身で、甲子園出場まであと一歩の戦績を残している。

 特にピッチャーを務めていた高岸はプロ球団のスカウトを受けたり、独立リーグから誘われるなど、その身体能力の高さは折り紙付きだ。ボールを投げれば、現在でも時速150kmをマークする。その運動能力を活かし、バラエティー番組ではスポーツ系の企画に数多く呼ばれ、活躍している。

 一方の前田は、高校卒業後は大学の法学部に進学。その後は大学院に進学するなど知的な面もあわせ持っている。コンビのネタを作っているのも彼だ。

 そんなティモンディだが、中でも目立つのはやはり高岸のほうだろう。衣装が全身オレンジなのは、ビタミンカラーは見る人を元気にするという理由から。自宅もカーテン、ベッドなどオレンジ一色だ。オレンジ色のクローゼットにはオレンジ色の服がずらりと並ぶ。

 高岸の持ち味はその満面の笑顔と、ポジティブで前向きな言葉だ。彼は豪語する。自分の夢はみんなに勇気を与えること。自分の役目はみんなの夢を鼓舞すること。そんな彼に対し、くりぃむしちゅーの上田晋也はツッコんだ。

「お前、アンパンマンか」(『くりぃむナンチャラ』テレビ朝日系、2019年12月20日)

 なるほど、オレンジの衣装や丸い頬も相まって、「勇気」や「夢」や「元気」といったポジティブワードを連呼する彼は、さながら実写版アンパンマンのようだ。 

 そんな彼らが芸人としてコンビを組んだのは、2011年の東日本大震災がきっかけだったという。大学に進学し野球を続けていた高岸は、3年時に負った故障によりプロ野球入りを断念していた。そんなとき、街で偶然出会った前田に芸人への道を誘ったという。彼らは当時を振り返って語る。

前田「僕らが大学生のときに東日本大震災がありまして。そのときサンドウィッチマンさんが東北含め精力的に活動してたのを見てたっていうのもある

高岸「ああやって勇気を与えられる人になりたいなと、一瞬で決断しました」(『沼にハマってきいてみた』2020年7月27日、NHK Eテレ) 

 お金を稼ぎたかった。モテたかった。周りを見返そうと思った――。芸人からは、今の道を目指した理由としてしばしばこういった動機が語られる。が、ティモンディはそんな人生の一発逆転の物語から無縁だ。いや、あくまでも彼らがそう公言しているというだけで、実際のところはわからない。が、もしかしたら本当にそうなのかもしれないという説得力が、確かに彼らにはある。

ポジティブな返しが天才的

 高岸のポジティブ発言をいくつか引用してみよう。たとえば、ロケで高齢の男性に出会ったときのこと。高岸が「あなたの夢はなんですか?」と尋ねると、その男性は「なし」と答えた。その誰もが困ってしまいそうな返答を、高岸はすぐさまポジティブに切り替えた。

「じゃあ、これから選び放題ですね! あなたの成長を期待してます!」(『アメトーーク!』テレビ朝日系、2019年10月24日)

 大規模鬼ごっこ番組『逃走中』で捕まっても、彼は悔しがる素振りも見せずカメラに満面の笑みを見せる。

「ここはすごいスプリンターがそろってますよ。確保だ!」(『逃走中』フジテレビ系、2020年8月30日)

 さらに、印象的だったのが明石家さんまとの絡みだ。番組の進行役もお手のものだという高岸に、さんまは『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)のMCをシミュレーションさせてみた。さんまが「(テーマは)最近ムカついたこと」と『御殿』でありそうなテーマを振ると、高岸は少し沈んだ声で言った。

「それはあんま、いい話じゃない」(『アメトーーク!』テレビ朝日系、2019年12月30日)

 ではどんなテーマでトークをしたいのかと尋ねられると、高岸は「やっぱり夢の話、絆の話」と答えるのだった。

 ネガティブな経験も笑いにすることで、ポジティブに転換できる。お笑い芸人だけでなく、私たちはしばしば笑いの効用としてそんなことを語る。確かに笑いによる昇華作用は、私たちの生活や人生に欠かせないものだろう。笑わなければやってられないことはある。誰かに笑って許してほしいこともある。 

 けれど、ティモンディ・高岸は前フリであろうと何だろうと、ネガティブな話題をすべてスキップしようとする。入口から出口まで一貫してポジティブ。その笑顔は実に底抜けで、見る者もその笑顔につられてしまう。なるほど、その笑いは“誰も傷つけない”かもしれない。

 一方で、笑いと狂気は紙一重。彼を面白く感じるのは、真っ当さも突き詰めるとある種の異常さに通じているという面もあるのかもしれない。そう考えると、その底抜けの笑顔は“誰も傷つけない笑い”のパロディの様相を呈してくる。

 “誰も傷つけない笑い”の申し子か、それとも鬼っ子か。いずれにしても、これまで数々の「最近ムカついたこと」をその話術で笑いに変えてきたさんまへの、「それはあんま、いい話じゃない」という応対はとても笑ってしまったし、“誰も傷つけない笑い”の極北を見た思いがした。

文・飲用てれび(@inyou_te