昨年、北朝鮮を訪れたという作家の北原みのりさん。実際の現地はどう映ったのか? 『愛の不時着』からリアルな「北」の姿まで、とことん語ってもらった。
平壌で暮らす女性の持ち物が可愛かった
Netflixで配信中の韓国ドラマ『愛の不時着』の人気が止まらない。配信開始した2月から現在まで、視聴ランキングは上位をキープ、ハマる人があとを絶たない。
「もともと韓国では人気のある作品でしたが、日本でもここまで盛り上がるなんて意外でした! コロナ禍で先が見えない中、ヒョンビンみたいな人に必死に守ってもらえることへの憧れが強いんじゃないかな」
そう語るのは、作家の北原みのりさん。ドラマでは、韓国の財閥令嬢ユン・セリがパラグライダー中に竜巻に遭い、不時着した先の北朝鮮でエリート軍人リ・ジョンヒョンと出会って、恋に落ちていく。
「私がいちばん好きなのは、ヒョンビンがうどんを作るところ。粉から練るんです。コーヒーを淹(い)れるときは豆からいるんです。美味しいコーヒーの匂いで彼女の目を覚ましてあげたいとか、お腹がすいたらおいしいうどんを食べさせてあげたいとか、そういう美しさや健気さがいいし、ウンチクをたれず俺様感なくやれるところが素晴らしい。そんなふうに尽くされて“当たり前よね”って受け取るセリも、格好よくてステキですよ」
実は昨年、北原さんは『日朝友好女性訪朝団』に参加し北朝鮮を訪れている。滞在した平壌の街は美しく、通りを行き交う女性たちのカバンや日傘が、とても可愛かったそうだ。
「日本と同じように髪型や服に流行があって、中学生くらいの女の子たちもおしゃれなヒールをはいていたりする。冷麺やパンも、オーガニックっぽいジュースもあって、とてもおいしかった。町の人に話しかけて友達になることはできないけれど、また会いたいと思える人がいて、行ってよかったなと思いますね」
そんな感想を伝えると、もれなくついてくるイメージがある。
「“洗脳された”って言われてしまうんですよね。確かに偉大な指導者の歴史を称(たた)えることにあふれた、独裁政治の国家ではあります。だけど、そこにも“人”が生きて暮らしていることを、日本にいると忘れがちなのかも」
いいものを肯定できるような空気を
ドラマの舞台となった開城(ケソン)は、そんな平壌から170キロほど離れた、朝鮮戦争よりも昔の建物が残る田舎町。
「牧歌的な雰囲気の残る美しい街でした。北朝鮮では専業主婦の人たちが朝、働きに出かける労働者たちへ“頑張って”と称えるダンスをしていたりするんです。『愛の不時着』にも、朝はみんなで踊るシーンがありましたよね」
国の成り立ちが異なる北朝鮮には、日本の暮らしからは想像もつかない現実がある。
「平壌(ピョンヤン)は外車も走る豊かな街に見えました。地位のある人たちが暮らす巨大なマンションが立ち並んでいます。北朝鮮には国民に移動の自由がないので地方に生まれ育った場合、特別に優秀な人でないと、平壌に移住することは考えられないと聞きました」
情報が閉ざされている中で北原さん自身、息苦しさを覚えたこともあったそうだ。
「広告が一切ない、すべて国のプロパガンダの国でどのように人々が生きているのか、より知りたいと思いました」
印象的だったのは、現地ガイドを担当した40代男性の話。
「小学校の後半くらいから言語教育を受けるのですが、どの言語か自分で選べず、振り分け式。“これから日本との仕事が増えるので、日本語を学ぶのは大事”と言われていた時期で、かつて植民地支配をしていた国の言語を学ぶことに葛藤があったそうです。“隣の国の言葉を知るのは大切だよ”と、母親に言われ、プライドを持って学んできたと話してくれました」
『愛の不時着』で注目されたが、近くて遠い北朝鮮という、いまだ謎深い国。北原さんは最近、こんな変化を感じた。
「開城に言ったと話すと、うらやましがられるんです。これもドラマの影響なんだろうなと思います。韓国ドラマというだけで見ないという人たちもたくさんいるでしょうけど、頭脳やパワー、美、持っている権力など、男女が完璧に対等に描かれているところなど日本のドラマでなかなか味わえない満足感があります。それに韓国ドラマって本当にハズレがないので(笑)!
嫌韓的な言葉が出てきやすい世の中ですが、いいものはいいと肯定できるような空気が日本に広がればいいなと思います」
(取材・文/高橋もも子)