映画『君に届け』クランクアップ会見での三浦春馬さん

 三浦春馬さんが30歳で急逝してから、2か月近くがたった。そのあいだ、8月15日には戦争と原爆を扱ったスペシャルドラマ『太陽の子』(NHK総合)が放送され、9月15日からは準主演ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)がスタートする。死によって撮影が中断されたため、計4回に短縮されるかたちでの放送だ。

難役にも全力で挑む三浦春馬

 7歳で子役としてデビューして以来、これが最後のドラマである。

 ちなみに、彼の名が広く知られるようになったのは『14才の母』(日本テレビ系・'06年)。中学生の妊娠を描いたヒット作だ。ここで彼はヒロインの恋人、いわば「15才の父」を演じた。当時のインタビューでは、こんな発言をしている。

初めのころは“死んじゃってもいい”と思っていた智志が、妊娠をきっかけに“死”というものを軽く考えなくなり、問題から逃げてばかりじゃダメで、命を粗末にしちゃいけないと思いはじめるんです》(『週刊女性』'06年12月12日号)

 この発言から先日の『太陽の子』を思い出した人もいるのでは。彼はそこで、入水自殺を試みるものの、兄に静止され、再び生きていこうとする軍人を演じた。実人生では死を選んだこととの対比が話題になり、涙を誘ったものだ。

 じつは彼の役者人生において、生と死をめぐる葛藤は大きなテーマだった。映画『恋空』('07年)では末期がんを患う役、ドラマ『ブラッディ・マンデイ』(TBS系・'08年と'10年)ではテロリストと戦う天才ハッカー役、映画『永遠の0』('13年)では特攻で戦死した祖父について調べる若者を演じた。

 映画『進撃の巨人』('15年)でも命懸けで人類を守ろうとするし、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』('17年)もまた、一族と領民のために命を落とす武将の役。昨年のドラマ『TWO WEEKS』(フジテレビ系)では、殺人の濡れ衣を着せられながら、白血病の娘を救おうとして決死の逃亡劇を繰り広げた。

 なかでも、極めつけというべき作品が『僕のいた時間』(フジテレビ系・'14年)だ。本人いわく「初めて自分から企画を提案したドラマ」ということで、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う青年の役に挑んだ。

自分がALSにおかされて命のリミットが迫ったときに、どういう感情に陥り、どういう希望が湧いてくるのか。(略)そういう、いまだかつて自分が演じたことのない心情や表現をドラマの中で出してみたい、と思ったんです》(「JUNON」'14年2月号)

 としたうえで、ひとりではトイレもままならないほどの苦しみを全力で演じ、高い支持を得たのだ。

 ただ、こうしたテーマにこだわる人は生と死のギリギリのところまで行きがちだ。まして、彼は現状になかなか満足せず、自分を追い込むタイプでもあったという。この作品についても「自分をいじめる作業になるかも」「倒れるぐらいやりたい」と語っていたものだ。

 そのハングリーな姿勢が、多くの監督やプロデューサーに評価されたゆえんだが、同時に重圧やストレスにもつながったのだろう。また、インタビューをたどってみると、ここ数年、家族の話がめっきり少なくなり、孤独感を深めていたのではとも感じられる。

 亡くなる10日前の7月8日『太陽の子』についての会見が広島で行なわれ、三浦は戦時中に思いを馳せながらこんな話をした。

今、僕たちはいろんなことで、人生を諦めたいと思う瞬間もある。けど、その虚しく生きた一日が、当時あれほど生きたいと思っていた一日。一日は変わらないじゃないですか。そんなことを胸に、生きていきたい

ある文豪との“共通点”

 生と死のあいだで揺れ動いていたことがうかがえる発言だ。そんな姿に、ある作家の姿がよぎる。太宰治だ。

 太宰は処女作品集に『晩年』というタイトルをつけ、その最初の作品の冒頭に《死のうと思っていた》と記した。そこから十数年、旺盛な執筆活動を続けたあと、38歳で自殺。おりしも、実人生を反映させたかのような『人間失格』が連載中で、第2回と最終回は死後に発表された。小説のなかの自殺未遂と現実の自殺というシンクロが衝撃をもたらすこととなる。

 が、最後の作品はこれではない。『人間失格』のあと『グッド・バイ』というコメディー小説を書き始めていた。プレイボーイが愛人たちと別れるために、あの手この手を駆使していくという筋書きだ。構想の約6分の1で絶筆となったものの、本人は自信作だと話していたという。

 三浦もまた『太陽の子』でのシンクロが話題になったが、最後のドラマはコメディー。おカネにルーズな浪費男子と、正反対の清貧女子が恋におちるストーリーで、死の前日まで撮影に参加していた。

 自身のインスタグラムでは死の4日前に「より笑って頂きたく撮影に励んでおります!」と明るい表情でコメント。生と死をめぐる葛藤のなかでも、彼は見る者を楽しませようと最後まで一生懸命だったのだ。

 彼のトレードマークでもある笑顔。そういう魅力にたくさん出会える作品に仕上がっていることだろう。 

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。